婚約者とプリン
短編と同じです
『可愛い過ぎる私の婚約者 愛しい婚約者は転生者』
誤字報告、ありがとうございますm(__)m
私の婚約者は、すごく可愛い。
青みがかった銀髪に湖の底のような青い瞳、スッと伸びた鼻筋に小さな赤い唇。小鳥のような可愛らしい声。
身体はまだ発育途中だが、丸みをおびて女性らしくなりつつある。今でも魅力的な身体なのに、そのうち人に見せたくなくなり彼女を閉じ込めてしまいそうな自分が少し怖い。
兎に角、ほとんどの者が、美少女もしくは美人と言う容姿をしている。
髪や瞳の色からか冷たい人と印象を持たれ、吊眼で睨んでいるように見えるからか(緊張でガチガチになっているだけ)キツイ性格に思われている。
彼女の性格はお人好しの少し抜けて(いや、抜けているのは少しではないかも?)、一緒にいて全くと言っていいほど退屈せず、思わず手を差し伸べて抱き締めて頭を撫でてしまいたいほど可愛い人だ。
そして、可愛い愛しい彼女は前世持ちと呼ばれる人間だ。
この世界には、前世持ちと呼ばれる人たちがいる。
前世の記憶を失わずに今を生きている者たちだ。
その者たちは各国に数人いて、我が国では厳しく管理されている。
前世の記憶を利用し、悪事を働かないように監視するためだ。
昔、非業の死を遂げた王族の前世を持つ者が、復讐のために祖先が簒奪者であった王族を襲撃したという事件が他国であったからだ。
だからと言って、前世持ちが別に恐れられているわけではない。
二歳までは、前世を覚えている者が多いからだ。その後、今の世界の情報を覚えていくためか、前世の記憶を忘れていく者がほとんどだ。
今を生きるために、前世の記憶は必要ないということなのだろう。逆に覚えているというのは、何かしら意味があるのかもしれないが、それは謎とされている。
彼女は珍しい前世持ちだ。異世界で暮らしていた前世を覚えている。
彼女から語られる異世界の話は、いつも私を大いに楽しませてくれる。
「シャル、拗ねてないでお菓子を食べないかい?」
笑うのを止めようと思っているのに、ソファーにしがみついて、睨んでくる彼女があまりにも可愛すぎて止めることが出来ない。
さっきの騒ぎでドレスが少し汚れているね。
私の色の新しいドレスを贈ろう。
どのようなデザインがいいだろうか?
女性に着る物を贈る意味が、異世界でも同じだったのは分かっているよね。
「君が、その小さな口で受け取ったのは、確かなのだろう?」
真実を突きつけると、顔を真っ赤にして睨んでくる。
今日の学食で彼女の大好きなプリンがデザートに出ていた。
ちなみにプリンは彼女が前世の記憶で作り出したデザートだ。食するのを楽しみにして盆に乗った学食を席まで運んでいる途中に、喜劇ではなく悲劇が起こった。
席までの途中で彼女は進路を邪魔するように出された足に見事に引っ掛かり、彼女の大切なプリンは宙に飛んだ。
慌てた彼女はプリンを追いかけ落下点を見極め、その口で見事プリンを受け止め食べたのであった。
その機敏さを是非とも足を引っ掛けられた時に使って欲しかったと思うのは、とても贅沢なことだろう。彼女にそんな器用さはないのだから求めてはいけない。
にしても、プリンが一口大で良かった。可愛い彼女の顔がプリンだらけの話になるところだった。それはそれで可愛い話だっただろうけど。プリンまみれの彼女を介抱できたら、とても幸せなことだったのかもしれない。
私がその場に駆け付けた時は、静まりかえったその場と至福で頬を緩ませ、口をモゴモゴしている彼女がいた。
床に散らばった食べ物や食器を見て、何があったかは瞬時に悟ったが、その場面を見ていなかった私は何故彼女が幸せそうにしているのか分からなかった。
午後の授業が大したものでなかったため、とりあえず彼女を王宮に連れ帰ってきた。
彼女付きの護衛から話を聞き出し、一緒に聞いていた彼女は羞恥で拗ねてしまったということだ。
足を出した者には注意をするが、わざとではないと言い張り反省もしないだろう。
楽しい話題を作ってくれたのはあくまで副産物だ。
彼女に向けられた悪意を無視できない。
危険な芽は、確実に潰しておくに限る。
もちろん後ろにいる者も含めてね。
「シャル、お菓子は食べないのかい?」
じゃあ、下げようか。
侍女に指示を出そうとすると、彼女がガバッとテーブルに近づき、お菓子の入った篭を抱かえ込んだ。
「シャル。心配しなくても全部君の物だから」
誰も盗ったりしないよ。
クスクス、笑いが込み上げてくる。
分かっていてもあまりにも可愛い態度に。
「・・・ごめんなさい」
淑女らしくない行動だったと反省して項垂れている彼女も可愛い。
けどね、涙で潤んだ瞳を上目遣いで使うのは、私を誘っているのかい?
最近、忍耐を極限まで使わされている気がするのは気のせいかな?
婚約者同士の婚前行為は許されているんだよ。
そして、ここは私の私室で隣は寝室だ。一人で寝るには大きなベッドがある。いつでも寝られるように整えられているんだよ。
無意識なのは分かっているのだけどね。
鈍感な彼女にその気がないくらい。
「暑くなってきたね」
身体に溜まってしまった熱を逃がしたくて、手でパタパタと扇ぐ。
「もうすぐ夏ですね。夏になるとプールに行くのですよ」
プール? 聞いたことのない言葉だ。
「プールとは?」
「暑い夏に涼むために作られた水場です」
こうやって、彼女は私に知らない世界の話をしてくれる。
それはとても興味深くて面白い。
彼女はこうして一緒にいる時間が、どれだけ私を救っているのかを知らない。
王子という仮面を外し、心から笑い楽しめることができる。
公人から人に戻れる時間。
将来の王妃が嫌でたまに婚約破棄を企ててくれるけど、無論そんなことを許すわけないよ。
事前に握り潰すに決まっているではないか。
彼女の世界の言葉で彼女は″天然″そのものだけど、彼女は王妃教育の成績は誰に聞いても優秀だからね。
王妃の素質は十分あるのだから、安心していいんだよ。
早く覚悟を決めてくれないと、こちらも我慢の限界を超えてしまうからね。
可愛い過ぎる愛しい私の婚約者どの。
逃げられないのを早く分かって欲しい。
もし、プリンを顔にかぶった場合
「シャル、こちらに」
私は、シャルを誰もいない部屋に連れ込んだ。
顔中、プリンだらけだ。
早くどうにかしてあげなくては。
ペロリ
頬に付いたプリンを舐めとる。
甘いのは苦手なほうだが、このプリンは、すごく美味しい。
「でんか?」
「シャル、動いたらダメだよ。プリンが取れ(舐められ)ないから」
両手で可愛い顔を押さえて、舐めとる。
可愛い顔が真っ赤になってきたよ。
ほんとに可愛いなー。
「殿下!タオルをお持ちしました」
チッ。
早すぎるじゃないか。
扉を開けて、濡れタオルを受け取った。
笑ってちゃんとお礼も言ったはずなのに、従者が引き攣った顔をしていたのは気のせいだね。
仕方がないから、タオルで綺麗にしてあげるよ。
その前に唇についているプリンを取る(舐める)のは、当たり前のことだよね?
短編のコピーです。