ハンティング~異世界狩猟記 広告編
これは小説家になろう・ノクターンにて連載中の、『ハンティング~異世界狩猟記』の広告です。
R18指定である本編と違って、全年齢の短編なので、一八歳未満の方でも目を通せます。
本作を読んだ、一八歳以上の読者の方は、ぜひともノクターンにて連載中の本編も読んでみてください。
黒色火薬とライフルを愛する読者諸君! ぜひとも同志になろう!
「それだけしか、生きる道を知らない」
『CSI:マイアミ』ホレイショ・ケイン
ワレこそはこの山の王者である。
ワガ黄金の角に敵は無く、ワガ牙を恐れぬモノなど無い。
ワガ体内に漲る魔力による魔法にかかれば、巷の〝モンスター〟だろうと、ワレを狩ろうとする不届き者な人間どもであろうとも、たちどころに血塗れに出来る。
唯一の敵手は隣の山の谷間に潜む〝ダークエルフ〟共くらいだが、連中は何よりも人間を恐れ、人間に見付かるのを最大の懸念としているためあまり、彼らの寝床にしている集落より出ようとはしない。
ダークエルフの冶金の腕による、ミスリル製の鏃や剣などなら、堅牢たるワレの体に致命傷を与えられるし、連中の精霊への親和性を考えればワガ魔法と拮抗する。
現に今までも、ワガ同胞から何匹も討ち取られてきた。
憎々しい。
しかし裏を返せば、発情期に牝をめぐって争う敵手を減らしてくれた――そう見る事も出来る。
故にワレは次の〝戦い〟のため、少しでも体力を増すため今日も食事に気を配る。
より多くの牝を獲得するためには、栄養価の高い物をより多く食する必要があるからだ。
安全ながらめぼしい草木の生えていない、荒野たる山肌の広がる斜面を下り、栄養価の高い新芽や草花の豊富な森へと足を進める。森の中は確かに危険は多い。
人間共がワガ命を狙い、潜んでいる事もあるし、何よりワレでさえ敵わぬより力の強い肉食性のモンスターに襲われる場合もあるだろう。
だが子孫を、ワガ血を残すためなら、危険は承知の上だ。
森の中は確かに豊かな食料庫だ。
豊富な食料がそこら中に点在している。草花の甘酸っぱい実から、新鮮で栄養価の高い瑞々しい葉が食べ放題だ。本当なら同じ物を食べる同胞や他の種族などが、ワレが山の斜面から来るよりも早くにめぼしい物を食べつくしてしまう。
しかし同胞はともかく、他の種族は人間やダークエルフを恐れ、何よりワガ力を畏怖して近付こうとはしない。
よってこの森は最早ワレの世界と化している。
猪のような牙で地面を掘れば、食す事の可能な根を見付ける事が出来るし、美味い果実も食べ放題である。これが他の森ならば、おそらくワレが食べる前に大多数の、美味い物は他の動物や鳥などに食されてしまっていただろう。
自然に住まう精霊達に働きかけ、ワガ魔力を使い精霊魔法を発動――〝鎌鼬〟により、進路上にあった邪魔な蔦を伐採。ついでに我が巨体が通れるよう細い樹木を倒し、道幅を広げておく。
黄金の角を太い幹に擦り付けた。
ゴシゴシ……と何度も擦り、幹にワガ証を刻み付けてやる。そしてこの場所がワレの世界だと誇示するのだ。
そんな時だ――。
――キン、という自然界には存在しない異音をワレは耳にしたのだ。
高野聖は山道を歩いていた。
日本の山とは勝手が違う。整備された道などどこにも無く、時には倒木や灌木が行く手を遮り、石の転がる地面を歩けば足音が歌劇場みたいに広がってしまう。
だがそれも致し方ない。何せここは異世界なのだ。
鹿革製の一七・一八世紀の猟師スタイルの服装の下は汗で蒸れている。何せ朝早く――日の出の直後から寝床にしていたキャンプ地より離れ、それ以降は歩き続けているのだ。
しかし思ったよりも体力の低下は少ない。
季節は既に夏――七月に入っているが、高地のためとても涼しく過ごしやすい。
握るのは初期の後装式ライフル――かのアメリカ独立戦争時に英国軍大尉(本当はスコットランド人だが)、パトリック・ファーガソン氏が発明、運用したファーガソン・ライフルと同じ機構を採用している。
外見はかの江戸幕末期、高島秋帆が輸入した燧石式ゲベール銃――つまり歴史的に有名なフランスのシャルルヴィル・マスケットのオランダ版コピー品――に似ているだろう。
ただしマスケットであるゲベールと違い、銃身内部にはジャイロ効果で命中率を高めるための施条が刻まれている。
同行者は御世話になっているダークエルフの若者数人に、自分の『雇用主』である〝エルフ〟のクゥーだ。
特にその美貌で有名なエルフ種の中でも、白眉であるクゥーはかなり――様々な意味で――目立つ。麦畑を想わせる長髪に白磁のような肌。そしてダークエルフ達は御揃いの革系の衣服であるのに対して、彼女は豊艶なボディーをよりにもよって濃紺なビキニ(に似た踊り子風衣装)で覆っているのだ。
時に目の保養、時に目の毒な肉体美が眩しすぎる。
当然だが、フード付きローブを除けばほぼ裸体に近い。夏であるが若干厚着をしなければ寒いと感じてしまう高地でそんな格好をし続ければ低体温症になってしまうだろう。
馬鹿か、コイツ――そう最初の方は視線で訴えていたのだが、本人曰く魔法の力で周囲の大気を遮断しているので寒くはないと。
そんな説明を聞いてしまうと、本当に魔法って何でもアリだな――そう思ってしまう。
そう説明されながら視線がムカつくと小突かれてしまった。痛い。
足音以外、誰も何も喋ろうとはしない。
その足音だって、極力音が鳴らないよう心掛けていた。必要な指示や示唆はハンドシグナルやアイコンタクトで済ますという徹底ぶりだ。
まるで集団での狩猟時に屁の音さえさせないという、無音を貫くマタギのように彼らは森へ入る前から徹底的に寡黙だった。
勿論狩猟暦の長い(と本人は言っております)高野もその意味は理解しているし、彼自身も慣れている。当然ダークエルフ達と同じく何も喋りませんし、ハンドシグナルも教わった分は直ぐに理解した(慣れているからな)。
しかし基本喧しい部分が大多数を占める、この破廉恥エルフさんはそんな通夜のような空気に耐えられなかったようで、時に「あ、アレ何かな!」だのと言ったり、鼻歌を歌ったりとアホウな事をしでかしたので、全員からボコられてようやく黙らせる事に成功したくらいだ(なお、高野も参加した。当然だ)。
先頭を歩くリーダーの女性、シルナ・ファルスが何かを見付けたようだ。
足を止め、片手を肘から上を曲げての合図を送る。
(お、ようやく〝目標〟発見か?)
事前に決められていた通り、高野はライフルを片手に彼女の傍に寄った。
シルナは無言のまま掌の先で森の一点を指し示す。
高野は掌を丸める事による単眼鏡を作り、そこから指し示された方向を覗き見た。人間は視野を狭める事で遠くの物体でも、僅かだがハッキリと見えるようになるのだ。
僅かに雪の残る山の奥。
土と緑の世界とは不釣り合いな金色の輝きを目にした。
見付けた――〝黄金角の山羊〟だ。
まるでドリルのように捻じれた黄金の巨大で鋭利な角。外見としては山羊に近いのだが、まるで鹿や、馬よりワンランク劣る程度に大きい。
鹿に似た茶色系統の体色に、細くて短い尾。下顎からは猪のような、サバイバルナイフみたいに巨大な牙が突き出ている。
シルナと頷き合う。目標発見だ。
急いで全員で集まり、しゃがみつつ地面に枝で矢印などを刻んでの無言での作戦会議をする。
結果、俺達はこの状態で襲撃するのではなく、まだ距離があるので出来る限り近付く事にした。
全員が先程以上に緊張しつつ音を立てずに追跡を行う。
モンスターであるズラトロク・エアレは野生動物本来の鋭敏な危機管理能力と、人間さえ打ち倒すモンスターとしての強力な力――膂力や魔力を有している。
当然、自分では敵わないと察すれば逃げていくし、逆に他の野生動物のように人間を恐れるような事はなく向かって来る事もある。
体内の強い魔力による強烈な魔法で、騎士や傭兵といった人間の五人パーティーが吹き飛んだ――壊滅してしまった事もあるらしい。
黄金の角はドリルのような外見通り、板金鎧でさえ穿つ強度があり鋭く、単純に剣や斧を振り下ろしても傷付く事はないという。
肉体は堅牢強固で、筋肉の鎧は長弓から放たれた矢さえ、痛打とはならない――刺さったりするがダメージは微々のようだ。
そうでありながら毛皮は天然の鎧のように硬い。
だが一番の脅威は魔法・魔力への鋭敏な察知能力である。
どういう手段なのか、モンスターや一部の魔法使い(特に高位の術者だったりする)は相手の魔力の反応を探知出来てしまうらしい。
だからあんな強敵を倒すためには魔法が必要――で発動した直後に襲撃者の存在をキャッチされ、逃げる間も与えずに殲滅されると。
しかしそうなると目下最大の懸念はこのエルフ――今もビンビンに魔法を使っています。
だがクゥー曰く、発動させる魔力は上手く誤魔化しているので問題はないらしい?
どういう意味だ?
自然界には魔力やら精霊やらが漂っているので、どうにもそうしたのに自身の魔力とかを擬態させているみたいだ。実際に彼女の体を外気から護る魔法は精霊魔法だし、必要な魔力量も極小で良いのでこんな芸当が通用するとの事で。
そうした説明を初めてした時、シルナ達ダークエルフ陣がどこか悔しそうにしていた。
鼻の高いクゥーが有頂天に言う内容によれば――。
彼らダークエルフ達は冶金(鍛冶)と、それを併用した魔法に関しては優れているが、逆にエルフほど自然界の精霊や魔法・魔力を上手く扱えないというようだ。
まぁ……この場合エルフ達の方が優れ過ぎているので、元より比べる事に意味はそうないが。人間は自前で鳥のように飛べない――その事に憤慨したりはしないだろう? それと同じだ。
そんな事前説明のため、高野達は足音や気配で気取られる事を除けば、目標たるズラトロク・エアレに見付かる事はないため安心して接近出来る。
ただし、最大の爆弾だけは要注意のままだが。
そうこうしていると、有効射程内へ近付く事に成功する。
しかも目標の後方より、しかも風下より接近出来たのでパーフェクトだ。
既に装填を終えていたファーガソン・スタイルのライフルを、ゆっくりと構えていく。後はズラトロク・エアレが体を動かすなりして、最大の弱点である心臓を狙える体側面を向けてくれればなおも良い!
今も呑気に新鮮な草をムシャムシャと食している黄金の角の目立つ山羊は、高野達の存在に気付く気配はゼロだ。上機嫌なのか巨体に似合ったデカイ尻と、そこより垂れる象みたいな尻尾が左右へ揺れていた。
……そんなデカケツに一八ミリの鉛玉をブチ込みたい衝動に駆られるが……耐える。耐え続ける。
そうした精神的苦行に耐え続けたかいがあったからか、ズラトロク・エアレがゆっくりと動き出した……おまけにこのままいけば側面を晒すモーションである!
――良し!
そうした歓喜を必死になって飲み込み――高野は燧石を咥えた撃鉄を最後まで後退させる。
――キンッ、と。
――ビクッッ!!
ズラトロク・エアレが急激な反応を見せた。
小さな耳がビクンと動き、ありえない、と言いたそうな瞳が襲撃者を探そうと――(あのヤロー。今の音に感付きやがったなっ!)――高野は咄嗟の判断から引き金を引いた。
燧石が斬首用の剣のように当たり金へぶつかり火花が飛ぶ――小爆発――衝撃、轟音がコンサートみたくリズミカルに発生した。
巨大な瀑布のような白煙が高野の顔に吹き付ける。
超高速回転しつつ一直線に突き進む弾丸は、そのままズラトロク・エアレへ命中した――体が僅かに動いていた事により、弾丸は目論見通り体側面へめり込む――回転力を伴った弾丸がドリルのように回転しつつ、皮膚と筋骨を砕きつつ突進した。
ズラトロク・エアレの痛々しい悲鳴が木霊した。
高野はそれらを一切無視して再装填へと取り掛かる。引き金より後端にある銃把を回し、用心金と一体化している、銃身後部へ埋没しているネジを降下。そして開いた穴へ弾丸と装薬――黒色火薬――を装填していく。
そうしていると、少し離れた位置に潜んでいたシルナが立ち上がり、シュッ――と弓より矢を放つ。
元より整った凛々しい美貌なのだが、今の彼女は不埒な不信心者へ神罰をくらわす戦の女神のように見えてしまう。黒のポニーテールがアクセントとして、凛然たる態度を与えていた。
ロングボウより放たれた矢は――まるでライフルから放たれた弾丸のように――竜巻みたいに回転しつつ、今まさに最後の悪あがきをしようとしていたズラトロク・エアレの首へ突き刺さった。
ズウウウゥゥゥ~~~ン。
との東宝映画のゴ○ラみたいな解りやすい音を立てながら、巨体が崩れ落ちる。完全に絶命したようだ。
それを受けて、周囲の叢より嬉しそうな表情を張り付けたダークエルフ達がぞろぞろと現れる。
高野も嬉しそうな顔をしながらシルナへ目を合わせた。
彼女の紅い瞳が、獲物を仕留めた歓喜でより妖しく輝いている。……吸血鬼みたいだ、とは正直な感想だが口にはしない。うん。後が怖いから。
ぞろぞろと死んだズラトロク・エアレへダークエルフ達が群がっていく。
そんな彼らと、ズラトロク・エアレを見ていると緊張が解け、今更だが「フゥー」と息を吐いた。
「どしたの? コウ君?」
クゥーさんがキョトンとしながら近付いて来た。
勘のいい彼女だ。内面で生じた感情の漣でも感付いたのだろう。
……別に、ただ俺があの輪に入ってもいいのだろうか? そう思っただけさ。そうした言葉を曖昧な笑みで誤魔化しつつ、獲物を見遣った。
デカイ……予想以上だ。
それに見るからに丈夫そうな黄金の角に骨格。コッチの弾丸は致命傷だが……一発で仕留められなかったところを見る限り、まだまだ俺の腕も未熟だな。
そんな未熟な腕で、この異世界を生きていけるのか?
いや、違う――生きていかねばならないのだ!
危機に陥った王国。その窮状を救うために、勇者召喚という秘儀が行なわれた。
呼び出されたのは一五名の高校生達。
そして彼、一介の用務員である高野聖。
王国は確かに危機に陥っている。しかしそれはその国の自業自得だ。
高野聖と一五名にも及ぶ高校生の男女を異世界へ召喚した|《ファンフリート王国》は、セシル・ローズとアドルフ・ヒトラーの間の子のようなモノで、異世界版黄禍論である亜人論を掲げての版図拡大を謀っていたのだ。
で、それが失敗したから、戦力回復・国威発揚・威信回復を狙って異世界より【勇者】を召喚するという無茶をやらかしたのだ。
この異世界のハートランドであるファンフリート王国は、どうしても外へ拡充する道を経済・文化・宗教的に推進するしかなかったのである。
そんな王国の真意を――自分達を使い潰す気しかない――を読み取った高野は、王国よりの脱出を計画し、実行した。そこに高校生達は含まれていない。
彼らは、完全に【勇者】に酔っていた。
そればかりか、ファンフリート王国の掲げる、まるでデキの悪いアニメで乱発されるような正義を信じ、今では王国の正義の信奉者のような感じになっている。
理由は色々とある……彼らが、単純に、子供であるのも理由の一つだ。
他の理由――最大の理由として、彼らは普通の人とは隔絶した異能を手に入れている事が大きいだろう。
それに対して高野聖には高校生達に現れたようなチートは発生してない。
だから彼らは高野を見下したような感じになっていったし、王国も〝落第生〟な高野に対しては早々に本性を現した。
よって高野は彼らを切り捨てた。
このままいけば、使い潰される――王国は絶対に俺達を最後は『処理』するに決まっている。死んだ英雄だけが良い英雄なのは異世界だろうと変わらないからだ。
王国を利用してファーガソン・スタイルのライフルを作りだし、後は自分の死を偽装して逃げ出したのだ。運命を狂わされる前の、用務員だった自分を殺し、この異世界で生きていくために。ユウシャサマな高校生達からも逃れるように。
地獄への道は善意で舗装されている。彼らはそれを実践で理解するだろう。
その判断を、俺は絶対に否定する事はない。
異世界へ召喚される前より、高野は狩猟を趣味にして生きていた。
一族も戦国時代より続く猟師一族で、代々の〝鉄砲馬鹿〟。
彼らの連綿と続く技術と知識を活かし、この異世界で狩猟生活をしようと、そうした決意で世に打って出た。
そして行商人であるクゥーと出会い、彼女に雇われる形で一緒に旅をする道を選んだ。
今までいろんな事があった――。
エルフの中でもとびきりの美貌で尤物な彼女から、肉体的なお礼を受けたり。
自分達以前の【勇者】――召喚された者の痕跡を発見したり。
大自然の驚異としてのモンスターと戦ったり。
地球では目にする事も、知る事もなかった出会いを経験したり。
【勇者】となってしまったため、変わってしまった者と決別したり。
とにかく色々とあった……。
イイ事もあれば、悪かった事もある。
だがここは異世界ないのだ――何かがあれば誰かが助けてくれる元の世界・日本ではない。安全など水洗トイレで流されてしまっている。
だから高野聖に後悔はない。
生きていかねばならないからだ……もはや自分一人だけの人生・運命ではないのである。
だから高野聖は今もライフルを片手に、異世界を歩く。
彼の異世界狩猟ライフはまだまだ続く……。
この短編は本編:第二章の中頃に当たる箇所です。
それでは一八歳以上の読者の皆様、ノクターンにて本編をお楽しみください。