表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第1話 一番最初に出会った日

 その日、私は感動していた。


「きれい・・・」


 そんな簡単な言葉しか出ないのか、と普段なら思うくらいに。それくらい感動していた。


 目の前には気持ちの悪い生き物と、いきなり現れた男の人が戦っている。

 その生き物は蓮の花みたいな穴がたくさんあって、ナマコを白くしたみたいな・・・何とも言えない気持ち悪さだ。

 もちろん、私が特殊な趣味を持っていてその生き物に対して綺麗だといったわけではない。

 昔食べたナマコ料理はおいしかったけど、違うそうじゃない


 ナマコ(仮)と戦っている男の人が綺麗なのだ。

 パッと咲いたようなオレンジ色で、飛んだり跳ねたりする度に揺れるその髪が。

 あたりはもう真っ暗で、かろうじて動きが分かるような感じだったけど、彼だけがスポットライトを浴びているように光って見えた。


 ・・・ん?・・・・いや、あれは私の妄想じゃない光だ。

 よく見てみると、彼の持っている刀から太陽のような柔らかい光が出ている。振るたびに光が剣の軌道を描いてとてもきれいだ。


「早く逃げろ!」


 はっ、その声で現実に引き戻される。

 さっきまでの私の顔は妄想でいっぱいで、とてもキモかっただろう。割と近くにきてたみたいだけど、見られてないだろうか。私だって乙女な・・・・

 ・・・ふざけている場合じゃないみたいだ。

 男の人を目で追いかけているうちに、私が隠れていたところは無くなり、妖怪に見つかったらしい。

 やばい。逃げなきゃ。・・・どこに?


’’’’’’ドーン!”””


 近くにナマコがジャンプしてきた。

 2mほどあるそいつは、私の視界をふさぐ。


「危ないっ!」


突き飛ばされた


「もう妖怪に見つかってる・・・なるべく僕が見える位置にいて!」

「ど、どこに行けばいいんですか!」

「ああ、もう!じゃああそこに!早く!」


 彼が指をさしたのはここから100mほどの距離にあるドラム缶だった。

 早く逃げよう。

 とにかく、速く。なるべく遠くへ。

 焦れば焦るほど、どこかで私は落ち着いていた。・・・あぁ、私は100m何秒だったっけな。もう測ったのはだいぶ前かな、あの時はイケメンとナマコに出会う未来なんて想像もしていなかった。


 そんなことを考えているうちについた。

 なんだかさっきから、いつもより時間が早く過ぎているような気がする。これが走馬灯というやつだろうか。

 いくつかのドラム缶が密集している所に、ナマコに見つからないように隠れて座りながら私は思い出す。こんなことになった原因を__


-----------------


 私は引きこもりだった。ついでにいうと、働く気もなかった。

 まぁ、社会不適合者の代表例みたいな特に何も変わったところのないやつだ。

 ただ、そんな私でも1つ、特殊なところがあると思っている。


 私には記憶がないのだ。詳しく言うと、14歳までの記憶が。


 気づいたとき、お金はしばらく生活していく分にはあった。その貯金がなくなったあとどうなるかなんて考えることはなかった。別に私はそのまま死んでも構わないと思った。


 一番古い記憶は、まだはっきりと頭に残っている。

 壁紙になんの模様もない、シンプルすぎる部屋で目覚めた私が目にしたものは最低限の家具と通帳とその暗証番号やこの家の住所が書かれた紙。

 それ以外に、この暗いワンルームで私の存在が確かめられるものはなかった。

 暗証番号の紙だって、見知らぬ人が書いたのかも、自分自身で書いたのかもわからない。

 ただ、生活をしていくのに必要なことは覚えていた。

 文字の読み書きやお湯の沸かし方。ここは地球で、その中の日本に住んでいること。

 自分の名前も覚えていなかったが、それだけ分かれば十分だろう、と思った。

 だから特に記憶がないことについての恐怖感はなかった。

 ただ、少しだけ寂しかった。


 その寂しさは日に日に増していった。

 部屋にはパソコンやテレビなど、人を感じれるものはなかった。

 買いに行こう、と決心してから何年過ぎていただろうか。


 何年も行かなかった理由、それは場所の問題だったのか

 いや、多分だけど、ここはそんなに田舎でもない土地のようだし、外に出て案内板でも見れば電気屋の場所くらいわかる。

 場所の問題ではない。

 なら、お金の問題か?

 それも違う。まぁ、抑えられる出費を買い物によって通帳の貯金から出すというのは事実だけど、それまで我慢し積もってきた寂しさを思うと必要な出費にも思えた。


 ただ一つ、何年も買いに行けなかった理由はただ一つ。


『何年も引きこもっている』


 このキーワードだけで察してもらいたい。聡明な紳士淑女のみなさんなら分かってくれるだろう

 なに、わからない?

 ・・・ただ単純なことだ。

 そう、それは___


他人と会話ができない


 あぁっ、どうしようもないじゃないか!何年もだぞ、話したいのに誰とも話せず!

 そんな時に営業でもいい、会話してくれる人に対して粗相があったらどうするんだね。

 それは大変なことだ。きっと一生の傷になり、その傷をいやせぬまま私は年を取り・・・


 ・・・なんて大げさに言ったが、コミュ障だ。

 多分、人と会えば私は緊張して無駄によくしゃべる変な奴になってしまう。

 意を決して、ようやく電気屋に行った時もそうだった・・・


 まぁ、とにかく私は電気屋に行ったのだ。行ってからは早かった。その日のうちにパソコンを購入し、一週間も待てば家に届いた。

 設置も業者のおっさんに任せて使えるようになった。


 パソコンに慣れだしてからはオカルト方面へと興味が向いた。

 異世界・魔術・魔界・召喚術・・・・

 その中でも私が好きになったのは陰陽師と妖怪の話だ。

 陰陽師と妖怪の戦いが何十年と続く話・・・。あれはよかった。


 そんな文明におぼれる毎日を過ごすうちに、私は新しい刺激が欲しくなった。


 14歳からの記憶がないのだ。

 つまり中身は思春期。

 だーくふれいむますたーだなんて言い出しちゃう時期だ。


 私はその日、妖怪を召喚した。


 今まで集めてきた知識を見極めて作った、自己流召喚術!!!

 煙の奥に大きな影が見えたときの喜び・・・・

 出てきたのがナマコだったときの衝撃・・・・


 出てきたナマコは、まず近くに会ったコンクリートの壁をぶち抜いた。

 人気の少ない場所を選んで本当によかった・・・と思いながらとりあえず隠れるしかなかった。


 そんな時だ・・・オレンジ色の髪のあの方が来たのは・・・!


-----------------


 ドラム缶に隠れながら回想してみたけど、やっぱりいいな。

 かっこよかったな、うん。


 あの颯爽と登場した感じ・・・・


 そういえば、あの時はまだ刀から光は出てなかったな。


 ・・・ふう。

 音が遠くなってるけど、戦いは終わったのかね。


少しだけ見てみよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ