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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第23章―――
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第98話 ストーンフォレスト

 朝の木漏れ日が神々しく差し込む、木立に囲まれた緩やかな山道。ココが言うところによると、この道を進んで行けば西ストリーク国と呼ばれる国に辿り着くようだ。


 西ストリーク国は軽工業が主要な産業であり、衣類、陶磁器、雑貨、盾や鎧などの武具を作る職人が多く存在しているのだという。だが生憎、鎧も盾もウィルセントで揃えてしまったので、特にこの国には用はなさそうだ。


 マリアンナの情報がなければ、とっとと帝国まで行ってしまおう。そんな気持ちが先走り、若干早歩きになる修馬。だが帝国に行くには現在いるユーレマイス共和国から、西ストリーク国、東ストリーク国、ベルクルス公国と、3つの国を越えなくてはいけないらしいので、少し早歩きしたくらいでは何の時短にもならないだろう。


 木立の途切れたその間から、真っ青に澄んだ空が見えてきた。異世界も季節は夏らしいが、湿度が少ない分、日本の夏のような独特の不快感はなく、比較的過ごしやすい。


 手の甲でこめかみから流れた汗を拭い、修馬はその場でぴたりと足を止めた。というのもその青空の下、山の裾野から異常に高い塔のようなものが見えたからだ。

「ココ。何か、すげーでっかい建物みたいのがある!」


 ココは首を上げると、修馬が指差す方向に視線を向けた。

「うわっ、でかっ! 何あれ!?」


 思わずのけ反るようなリアクション。あれが何かはこちらが聞きたかったことだが、ココにもそれがわからないようだ。大魔導師とはいえ、基本的に魔霞まがすみ山に引きこもっていたので、世界のことに関してはそれほど詳しくなかったりしたりもする。


 一本の狼煙のろしのように、白く霞む巨大な塔。距離が遠くてよくわからないが、もしかすると東京スカイツリーくらいの高さがあるのかもしれない。スカイツリーの現物を見たことがないので何とも言えないが。


「灯台か、何かかな?」

 その色と外観からそう推測したのだが、横にいるココはそれを聞いてぶるぶると首を横に振った。

「いや、あの辺りはユーレマイス共和国と西ストリーク国との国境付近。海なんて近くにはないはずだよ」


 確かに彼の言う通り、ここから見える範囲内に海は見えない。では、何のための塔なのか? 人が住むだけであれば、あれほど高い建造物を造る必然性はないと思われる。


 ココは伸ばしていた背筋を戻すと、着地するように踵を下し、杖を地面についた。

「まあ、行ってみればわかるよ。あれを目標にして歩いていこう」


 ココのその提案を尊重し、2人は山を下りていく。

 曲がりくねった山道であるため、その塔は修馬たちの視界から見え隠れしていたのだが、ある時を境にぱったりとその姿が見えなくなってしまった。


「おかしいな? もしかして、いつの間にか方角がずれた?」

 修馬がそう聞くと、ココは手をかざしながら空を見上げ太陽の位置を確かめる。


「いや、方向はあってるよ。きっと塔から足でも生えて逃げてったんじゃない?」

「そんな馬鹿な……」


 本気なのか冗談なのかわからないココの台詞。彼は塔の姿が見えなくなっても、それがあったと思われる場所に向かってしっかりとした足取りで歩を進めていった。


 そして延々4時間ほど山道を歩き、やがて木々の本数が薄れてきた頃、小高い丘の上から真っ白に広がるいびつな大地の風景が目に映った。巨大な岩が柱のように何本もそびえ立っている奇妙な地形。


「さっきの白い塔、絶対にこの辺りに建ってたはずなのになぁ」

 どこか残念そうにため息をつくココ。彼はそれに対し確信を持っているようだが、ここにはその残骸もなければ、足が生えて逃げていった形跡もない。幾つもの巨石が立っているだけだ。


 ただその巨石というのが非常に変わっていた。短いもので5メートル、長いもので20メートルはあろうかという細長い石の柱が、人工物のように幾つもそびえ立っている。


 その異様な風景に目を奪われていると、隣に立つココが「あれはユーレマイス共和国と西ストリーク国の国境にある『石の森』と呼ばれる奇岩群だよ」と教えてくれた。

「成程、石の森か……」


 確かにそれは、石柱がまるで森のように乱立している。ただ修馬にはそれが森というよりは、むしろ墓標のように感じていた。白く乾いた大地に広がる、無数の墓碑。


「面白い景色でしょ。通説では勇者モレアよりも更に前の時代、神々の戦によって大地が白化し、草木も生えない土地になったんだそうだよ」


 ココは抑揚の無い声で、そう教えてくれた。だがその声の雰囲気からは、それが正しい情報ではないというニュアンスが感じられた。その通説に対しては否定的な意見を持っているのかもしれない。


「まあ、こんな忌み地に建物を建てる変人なんているわけないか。たぶん僕らは、山の上で幻でも見てたんだろう」

 そう結論付けたココは、振鼓ふりつづみの杖を地面につき、右方向に目を向けた。

「恐らくこの辺りが国境のはず。石の森の東側にいけば、西ストリーク国領の村があるはずだから、今日はとりあえずそこで宿を取ろう」


 石の森に行くことはせず、東の方へと山を下りていくココ。奇異に感じるその景色を眺めていた修馬も、颯爽と歩いていくココの後を追い、乾いた山道を黙々と下りていった。

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