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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第22章―――
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第96話 失われた祭祀

「そうか、あの事件はそういうことだったのかぁ」

 友理那がこちらの世界に転移してきた話を聞き、納得した修馬は静かに首を下す。自分が異世界に転移した時とは、だいぶ背景が異なるようだ。素っ裸で能天気に草むらを歩いていた時の自分が、最早懐かしい。そういえば、友理那も裸でこちらの世界に転移してきたのだろうか?


「けど、友理那ちゃんが死ななくて良かったよ。なぁ、修馬!」

 茜に急に声をかけられ、どぎまぎしながら「ああ」と答える修馬。そこで何かを察したかのように、友理那が口を開いた。

「修馬は向こうの世界で死ぬような目にはあってないの?」


 死ぬような出来事。そういうことには何度か遭遇した。一晩経てば復活するので、実際に死んでいたのかはあまりわからなかったりするのだが。

「まあ、海で溺れはしたけど、その後助けて貰えたから何とか生きてるよ」


「助けられた?」

「うん……」

 から返事をする修馬。というのもその時、全く違うこと考えていたからだ。


「……そう言えば俺、ウィルセントの横の山の中にある勇者の石碑みたいのがあるところで、変な奴に首を斬られて殺されたんだけど、友理那、横の髪を編み込んでる長身の変人の話って聞いたことない?」

 その時思い出していたのは、異世界での直近の記憶。あの男もまた、倒さなければならない相手だ。


「勇者の石碑ってことは、ユーレマイス共和国と西ストリーク国の国境近くだったと思うけど、流石に私の母国とは距離があるから知っている人物なんてたかが知れてるよね……」

 同じ異世界の住人とはいえ、全く違う国の人物では知っている確率は相当低いだろう。我ながらアホな質問をしてしまったようだ。


「まあ、そうだよねぇ。ライゼンっていう雰囲気イケメンの男なんだけど……」

「ライゼンねぇ……。あっ、けどそういえば、西ストリーク国には『奇術師』と呼ばれる人さらいが出没するっていう噂は聞いたことがあるわ」


「奇術師?」

 その通り名から、シルクハットを被った細身のマジシャンのような人物を連想する修馬。大柄なライゼンとは少々印象が異なる。

「その人さらいは人殺しもするの?」


「いや、さらった人をどうしているのかはわからないけど、聞くところによると小さな子供をさらっていくっていう話だわ。信じたくもない話ね」

 友理那はその場にいる葵と茜を気遣うように小声でそう言った。異世界も現実世界も、この世は残酷な事件で溢れている。


 しかしライゼンがその奇術師だとすると、一緒にいたココ・モンティクレールをさらうために修馬を殺害したという可能性が生まれてくる。邪魔だからという理由で殺されたのかと思うと理不尽に感じるところもあるが、ただライゼンも運が悪かったな。大魔導師と謳われるココが相手では、ひとたまりもないだろう。


「何だよ、頼むぞ修馬! 友理那ちゃんが捕らえられているのに、修馬まで人さらいに捕まったら洒落にならないからな!!」

 まだ幼い子供だが、気の強いギャルのように苦言を呈する茜。確かにそれはそうだと思い、修馬は反省した態度を示す。


「そうだな、俺がしっかりしなきゃいけない。友理那のことを助けるためにマリアンナのことを見つけ出し、そして皇帝に会いに行く!」

 己の決意を込めそう伝えると、友理那が思いの外大きな声で反応した。


「皇帝っ!? まさかベルラード三世に会いに行くの?」

「うん……」

 修馬は自信なさげに小さく頷く。そう言えば、何で皇帝に会いに行くんだっけ?


謁見えっけんしようと思って謁見出来るような相手ではないと思うけど……」

 当惑した様子で友理那は言う。アルフォンテ王国の王女がそう言うのだから、きっとそうなのだろう。イメージすると、ローマ法王に会いに行くと言っているようなものか。


「けどココが言ってたんだ。ベルラード三世に会いに行くって」

「大魔導師ココ・モンティクレールかぁ。今は彼と行動を共にしているのね」


 その人物なら信用出来ると言わんばかりに表情を明るくする友理那。だが修馬が「帝国の策略で魔霞まがすみ山が噴火してしまったことを、ココはだいぶ怒ってるみたいだよ」と言うと、口を開いたまま表情が固まってしまった。


「魔霞み山が噴火……。やはりオミノスの封印は解かれてしまったのね」

 友理那はオミノスが復活したことは勿論、噴火のことも知らなかったようだ。あの時の噴煙は世界中に広がっていたのではないのか?


「魔霞み山の噴火により、オミノスの封印は解かれてしまったんだけど、成体になる前に時空の狭間に封じ込めることには成功したんだ」

 オミノスが成体になるには10日から20日程かかるのだが、それまでの間なら黒髪の巫女の力を借りずとも、封印することが出来るということだった。


「そうなんだ。全然気づかなかったけど、大魔導師のおかげで完全なる復活は防ぐことが出来たのね」

 祈るように胸の前で手を合わせる友理那。安堵しているようだが、彼女自身は囚われの身。一体どういう状態で捕まっているのだろうか?


「けど友理那、あの噴煙に気づいていないってことは地下にでも閉じ込められているの?」

 心配になった修馬が聞くと、友理那は少し考えてからここではないどこか遠くを見るように顎を上げた。

「いいえ。私が軟禁されているのは、高くそびえる城の塔の中。けど魔王の城は、辺境の海域にあると言われているから、そこまでは噴煙も届かなかったのかも」


 辺境の海域。そういえば、星屑堂の店主アイル・ラッフルズも、魔王の城は辺境の海域にあると言っていたような気がする。


「辺境の海域か……。ココがグローディウス帝国の皇帝に会って何をするのかはわからないけど、それが済んだらマリアンナと共にその辺境の海域を目指すよ」

 何となくこれで自分たちがやるべき異世界でのスケジュールは決定したけど、こっちの世界ではこれからどうすればいいだろう?


 戸隠の山肌に夏とは思えない涼し気な風が吹き下ろす。修馬の肩の上にいたタケミナカタは、ぴょんと高く跳び上がりくるくると回転して近くの小さな鳥居に見事着地した。

「守屋家の娘たち。お前たちはこれからどう動く?」


 尊大な態度のタケミナカタを見上げ、口を真一文字に結ぶ珠緒。

禍蛇まがへびは向こうの世界で封印したとおっしゃっていましたが、やはり遠からずこちらの世界に降臨する兆候があります。早急に古の神事を復活させなければいけません」


 古の神事。それは何のことだろうと思い視線を向けると、珠緒は少しだけ頬を染め己に言い聞かせるように小さく頷いた。

「明治の初め、神職演舞禁止令によって廃止されてしまった神事、『大蛇神楽おろちかぐら』を蘇らせます」


「おろち、かぐら……?」

 首をひねる修馬に対し、珠緒は困ったように曖昧な笑みを浮かべる。

「それをするには色々と準備が入りますので、皆で一度屋敷に戻りましょう」


「おー、久しぶりのお家だ!」

「茜、ホームシックだったからね」

「あ、葵、また私のこと馬鹿にしたろっ! ほーむしっくってどういう意味だ!!」


 喧嘩の方向性が無茶苦茶な2人を諫めつつ、山を下りる支度を進める珠緒と友理那。


 そしてこの日は、皆で守屋家の屋敷に戻り、伊織たちと共にいつもよりも豪勢な夕食を食べ、ゆっくりと体を休めた。


  ―――第23章に続く。

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