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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第22章―――
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第93話 混乱する神域

 目の前には、3人に増えたヘリオス・ガリア・ブルッケンと名乗る羊角ようかくを持った天魔族の女が並んで立っている。彼女たちの笑い声は、怨霊たちがささやきあうように辺りに共鳴しだした。


「何だよ! どれがヘイオスで、どれがガリアで、どれがぶろっけんなんだよ!」

 頭を抱えて混乱する茜。だが一方の葵は、極めて冷静に現実を直視した。

「落ち着いて茜。全員クソ女に変わりはないから」


 そこで茜は納得したように「あー」と声を上げる。

「まー、3体3で勝負しようって話か。面白いな!」


 落ち着きを取り戻すと、急にテンションが上がる茜。だが、彼女の思うような展開にはならなかった。3人のヘリオスは示し合わせたかのように、全員で茜に襲い掛かったからだ。


「うふふふふっ。私、騎士道みたいなものには、まるで興味がないの」

 ヘリオスたちは、それぞれ地を這うエネルギー体を地面に走らせる。対する茜は握った拳の人差し指と小指を立てると、真っすぐに前を睨みつけた。


「『籠目かごめの紋』!!」

 目の前に現れる六芒星ろくぼうせいの結界。飛んできたエネルギー体がそれに触れ消失すると、茜はすぐに反撃を放った。「喰らえ、『みそぎの清流』!!」


 手から放出されるビーム状の水。流水の剣による攻撃にも似たその水流は、ヘリオスたちを次々に薙いでいったが、彼女たちは特にダメージを受けるわけでもなく、ひるんでいる様子もない。攻撃が通用していないようだ。


「何だよこいつら、無敵かよっ!!」

 がに股状態で愕然とする茜。


 ヘリオスたちは「ふふふ」と笑いながら、右腕をぐにゃりと歪ませ形を変化させた。そして指だった部位が鋭利な槍の穂状に変えると、花から花に移動する蜂のようにふわりと跳び、茜に向かって襲い掛かってきた。


 まずいっ!!

 そう思う前に、反射的に足が動く修馬。そして懐に飛び込んでいくと、咄嗟に召喚した王宮騎士団の剣でヘリオスたちの攻撃を立ちどころに防いだ。


「死に急ぐか小僧。ならば望み通り、先に殺してやろう」

 不快な表情を浮かべつつも、強気な言葉を放つヘリオス。そして彼女たちは、茜を背で守る修馬に対し、槍状の右腕で連打を浴びせてきた。


 王宮騎士団の剣に備わる自律防御を駆使し、ヘリオスたちの攻撃を弾きまくる修馬。しかし1対3では、流石に限界が生じてくる。背後にいる茜もビーム状の水流で迎撃しているが、あまり効果はなさそうだ。出来れば先程の結界で守って欲しいところだが、あれは物理攻撃には通用しないのだろうか?


 どうにかこうにか防戦を繰り広げていると、一瞬横目に白衣はくえ緋袴ひばかま姿の巫女が映った。それは守屋珠緒たまおだった。


「『浄罪じょうざいの風』!」

 珠緒は手に持った神楽鈴でゆっくりと円を描く。金色に光る鈴が手首を傾けた拍子にシャンと神秘的な音が鳴ると、それと同時につむじ風が勢いよく舞い上がった。


 1人のヘリオスの体を包み込み、小さく回転する猛烈な旋風せんぷう

「あああああああああぁぁぁ……」


 哀し気な悲鳴がやがて途絶えると、風も徐々に回転を弱め、そして緩やかに天に昇っていった。

 その場に残されたのはどろどろに溶解した木と思われる残骸。それは土の養分にでもなるように、じっとりと地面に染みていった。


「無敵ではありません。術の相性の問題です。茜ちゃんの水術では不利なので、少し下がっていてください」

 珠緒が言うと、茜はそれに対し猛烈に抗議した。


「何だよっ! それじゃあ茜が役立たずみたいじゃないか!」

 今にも飛び掛かろうとする茜の首根っこを捕まえた修馬は、その小さな体を後ろに引き戻し、そして自らヘリオスに向かって剣を振るった。


 仲間を1人やられたことで虚を突かれた1体のヘリオスは、逃げることも出来ずに王宮騎士団の剣の刃で胸を深く引き裂かれた。

「ぐっ!」と声を漏らし、熱した蝋のように溶けていくヘリオス。これで偽物の2人は倒した。残るは本体のみ。


 だが4体1のこの状況でも、ヘリオスの表情は特に変化していない。虚勢を張っているだけなのか、それとも彼女にとっては想定内の展開なのか?


「その程度で勝ったつもりとは、実におめでたい連中だ。悪いが私の森での強さは、こんなものではない!」

 声を荒げるヘリオス。すると周りの木々が、次々と縮んでいきヘリオスと同じ姿へと形を変えていく。


「ふふふふふふふふふっ」

 八方から降り注ぐ、怪しげな笑い声。修馬たちを取り囲むヘリオスたちの数は、ざっと見ても20体以上。いくら何でもこの状況はまずいかもしれない。


 だがその後すぐに、変化は起きた。

 屋根を一部破壊された九頭竜社くずりゅうしゃの中から、眩い光が発せられたのだ。


「キャーッ!!!」

 大きな悲鳴とともに、次々と溶けていくヘリオスの偽物たち。その場にいた20体以上のヘリオスは神々しい光を浴びたことにより全て溶けるように消え失せ、中央には本物と思われるヘリオスが1人、片膝の状態で苦し気に佇んでいた。


「おのれ、黒髪の巫女……。そっちに隠れていたのか!」

 ヘリオスが睨む視線のその先、崩れかかった社の中には、円形の鏡を持ったポニーテールの女が立っていた。清潔感のある白いブイネックカットソーに、大きなリボンの着いたネイビーチェックのキュロットパンツをはいた茶髪の女。それは久しぶりに再会する、鈴木友理那の姿だった。


 とりあえず彼女の無事を確認できた修馬はほっとすると同時に、初代守屋光宗『贋作』を召喚した。友理那の放った光術でダメージを受けているヘリオスに止めを刺す。


「友理那は俺が守るっ!」

 刀の柄を握り、前に飛び出す修馬。


「では好きなだけ守っていればいい。だが残念ながら、こちらの世界での黒髪の巫女の命など、我々は何の興味もない!」

 そう言うとヘリオスは、迫りくる修馬を横に突き飛ばし、1人の少女の元に駆けていった。狙われたのは葵だった。


「やばいっ!!」

 茜が叫ぶが、葵は目を閉じたまま微動だにしない。だが胸の前で合わされたその手には、印のようなものが結ばれていた。両手を握り中指だけを立てた、忍者を思わせる印。


 そしてヘリオスと葵が接触する刹那、突然天から稲妻が落ち、爆発的な雷鳴が戸隠の山に轟いた。

「『鳴神なるかみことば』……」


 その雷術を放ったのは葵だったようだ。直撃を受け大火傷を負ったヘリオスは、何も発することなく地面に倒れ、そして朝霧と共にゆっくりとどこかに消え失せた。


「かしこみ、かしこみ申す」

 葵がそう言葉を締めると、先程まで空を埋め尽くしていた雲に隙間が現れ、微かに太陽の光が零れ落ちてきた。

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