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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第14章―――
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第66話 白き大蛇と白き龍

「おっはよーっ!!」

 子供特有の鼻にかかる大きな声が脳内に響き、強制的に目を覚ました。


 布団から体を起こした修馬は、きょろきょろと部屋の様子を確認する。

 畳が敷かれ、襖に障子戸という完全なる和室。成程ここは現実世界。恐らく守屋の親戚の家の客間なのだと思われる。


 そして布団の左側には、花柄のワンピースを着た幼女が両手を腰に当てて立ち尽くしている。この家の子供だろうか?


「おはよう。俺、ここで寝ちゃってたんだね」

 修馬が言うと、幼女は心底疲れたように溜め息をついた。

「もう、毒の処理は済んだから起きても大丈夫だぞ」


 そう言われ思いだした。自分はエイの魔物によって毒に侵されていたのだ。もしかすると異世界に続き、またしても女の子に助けられてしまったのか?


「君が治療してくれたの?」

「そうだぞ。守屋家に伝わるまじないは強力だからな! 後は飯食って糞でもすれば治るよ!」


「く、くそ……」

 幼い少女のおっさんのような適当発言に思わず絶句すると、左の襖が静かに開かれた。巫女装束の守屋珠緒がそこから入ってくる。


あかねちゃん、下品な言葉は控えましょうか」

 珠緒に言われ、舌を出しおどけた表情をする幼女。この子の名前は茜というらしい。随分昭和っぽいリアクションをする子だ。


「ふぁああぁ、これで用は済んだな。あおい1人じゃ心配だから、茜も九頭龍社くずりゅうしゃに戻るよ」

 あくびをしながら、大きく伸びをする茜。


「大丈夫? 疲れてるなら、少し休んでいってからにしたら」

「いや、今は友梨那ちゃんの修行を頑張る時だから!」

 茜はそう言った後、こちらに向かって「まあ、お前も頑張れよ」と腰をパンチしてきた。


 だが、それに対してのリアクションが上手く取れない。友梨那という名前が出てきたからだ。戸隠神社とは戸隠山の麓にある5社からなる神社の総称で、その内の1つに九頭龍社という神社がある。友梨那はそこで修行しているということか?


 考え込んでいる修馬に、珠緒は少し歩み寄り声をかけてきた。

「友梨那さんに会いたいでしょうが、今は我慢してください。然るべき修行が終え、封印の力がつけば、山から下りられますので」


 友梨那は、封印の力をつけるための修行をしているのだという。それは昨日も聞いたことだ。


禍蛇まがへびだったっけ? 封印するのは」

「そうです。混沌より生れし白き大蛇……」


 珠緒のその白き大蛇という言葉を聞いた時、修馬の頭の中で何かが引っ掛かる感覚を覚えた。

 あれに似ている。異世界で反乱軍の船医、ビスカ・コルヴェルから聞いた、世界を破滅に導く白き龍という言葉。つまり龍神オミノスのこと。白き大蛇と白き龍。これは単なる偶然だろうか?


「その禍蛇っていうのは……」

 言葉を言い掛けたところで、突然ポケットの中から愉快な音楽が流れ出した。スマートフォンの着信音だ。取り出して画面を見ると、家からの着信だった。しまった。昨日は何の連絡も入れずに、ここで一晩過ごしてしまったのだ。完全な無断外泊。


 画面をフリックした瞬間、スピーカーから「あんた、帰って来ないなら帰らないって一言言いなさい! ご飯が無駄になっちゃうでしょうがっ!」と言う母親の声が聞こえてきた。修馬はそれを宥めつつも、しばらく帰らないことを合わせて告げた。ますます怒る母親だったが、その途中、伊集院のことについても一言話してきた。何でも昨日、家に訪ねてきたらしい。


「いや、何してんだよ! あいつが来ても家に入れるなって言っただろ!」

「そういうわけもいかないでしょ! 祐くん、凄い剣幕であんたが何処にいるか聞いてきたけど、一体あんたたち、どんな喧嘩したのよ?」


 スマートフォンを耳に当てながら、天井を見上げ目を閉じる修馬。伊集院の奴、船の沈没でどうなったんだろうな? 何となくだが、異世界でもしぶとく生きているような気がする。


「とりあえずあいつがまた来たら、ロンドンに留学したとか言っといてよ!」

「ははははは。りょーかい」


 母の雑な返事と共に電話は切れた。作った食事が無駄になったから怒っていただけで、息子の安否を心配しているわけではないようだった。基本的には干渉してこない親なので、その点は非常に助かる。


「俺もここで修行するんだよね?」

 スマートフォンをポケットにしまった修馬は、布団の横で正座している珠緒に訪ねた。茜は電話している隙に、どこかへ行ってしまった様子。


「はい。昨日会った従兄の伊織さんから、剣術を教わっていただきます。体の具合は大丈夫ですか?」

 真っすぐにこちらに目を向け、そう訪ねてくる珠緒。体の調子はよくわからないが、昨日異世界の剣術勝負で負けてしまった俺にとって、こんなに都合の良い話はない。今すぐにでも特訓して、あの反乱軍の女隊長を何としても打ち負かしてやりたい。


 眠気を覚ますため両手で頬を強く叩いた。何だか気合も入った気がする。

「道場に行こう。俺に剣術を教えてくれ!」

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