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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第12章―――
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第61話 雨上がりの社

 巨大なエイの化け物を、どうにか倒すことが出来た修馬。ほっと息をつき、晴れてきた空を見上げ、そして痛む耳に手を触れた。皮が剥けているのか、ひりひりとしみる。


「そうだ、毒針攻撃を喰らったんだった。解毒とかしないとやばいよね!」

 タケミナカタにそう聞いたつもりだったが、彼の姿はどこにもなく、代わりに彼の居たその場所には白衣はくえに袴姿のおじさんが立っていた。


「……あなたは一体何者ですか?」

 神社関係者と思われる中年男性が険しい顔でそう聞いてくる。もしや、今の戦闘を見られてしまったか?


「さ、さっきのエイの化け物見ちゃいました?」

「はて、化け物?」

 いぶかしげに片方の眉が上がる神職の男性。魔物との戦闘は見られていなかったようだ。


「念のためにお聞きしますが、その賽銭箱を壊したのはあなたですか?」

 神職の男性は社殿に目を向ける。そこには巨大エイの流水ビームにより、無残に割られてしまった賽銭箱が転がっていた。この状況は完全に賽銭泥棒現行犯。慌ててそうではないことを説明しようとしたが、良く見ると境内の玉石はごちゃごちゃに乱れ、足元には嘔吐物が残っているという悲惨な有様。これはどう言い訳すれば良いのだろうか?


「俺じゃないです……」

 散々悩んだ揚句、出てきた言葉はたったそれだけだった。簡単に納得してくれるはずもない。

「では、誰が?」


 そう聞かれ困り果てる修馬。もはや説明は不可能だと悟り、思い切って自分の目的を伝えることにした。

「俺、実はクラスメイトを捜しに、ここまで来たんです」


「ほう、人捜し」

 質問とは異なる答えをしたのだが、神職の男は不快感を出すでもなく淡々と頷く。


「守屋珠緒さんっていう女の子を捜しているのですが、ご存じではないですか?」

 彼女は言っていた。父の実家は戸隠にあり、その昔神職をしていたと。つまりこの戸隠神社にも、何らかの関連があるのではなかろうか?


 こちらがそう期待した通り、神職の男は守屋の名を出すと警戒を解いたように表情を緩めた。

「成程。何やら強い力を持っていると思ったら、守屋家の客人でしたか。大変失礼いたしました。私は宮司の藤田と申します」

 突然、うやうやしく頭を下げる神職の男。守屋の名を出したのは、思っていた以上に効果がてきめんであった。


「守屋家っていうのは、この辺りでは有名なお家なんですか?」

 何も知らない修馬がそのように尋ねると、藤田は背筋を伸ばし深く息を吸い込んだ。

「勿論です。この戸隠神社は今でこそ私たち藤田家が宮司を務めておりますが、元は守屋家の一族が宮司として代々祭事を執り行ってきたのです」


 そう言われ、修馬は改めて格式のある本殿に目を向けた。

 戸隠で元々神職をしていたと聞いた時から、戸隠神社と何か関連があるのだろうとは感じていたが、まさか元宮司だとは思わなかった。地味なクラスメイトの意外なルーツ。


「ちなみにそれって、どのくらい前の話なんですか?」

「伝わる所によると、1000年以上前だと言われております」

「千年っ!!」

 修馬の口が無意識に大きく開いてしまう。つまり守屋の家系は、1000年以上前から存在するということになるのだ。あまりにも長過ぎる年月に、想像するだけで目眩がする。


「守屋家は平安時代後期にこの社を去り、その後、戸隠山の奥に住居を構え隠者のような生活を送るようになったのだそうです」


 凛と引き締まる山の空気が風で流れ、広い境内を駆け抜けていく。先程の雨で漂っていた生臭さは、今は微塵も感じられない。


「一つお聞きしたいのですが、宮司さんは今でも守屋家の人達と繋がりがあるんですか?」

 その質問に、宮司の藤田は拝礼でもするかのように深く頷いた。

「今でも6年に一度の式年大祭や、年に二度ある大祓式おおはらえしきの際は、守屋家にお手伝いしていただいておりますので、当然関係はございます」


 それを聞き、自然と顔がほころぶ修馬。意外と簡単に守屋の居場所を掴めそうな雰囲気だが、今はまだ賽銭泥棒の容疑が晴れたわけではない。如何にしてこの宮司を説き伏せれば良いのだろうか?


 暫しの沈黙と共に、辺りには神社特有の厳かな空気が流れる。

 そうして出した修馬の答えは、真正面からぶつかっていくストレートな質問だった。


「先程も言いましたが、俺は守屋さんを捜してここまで来ました。もし差し支えなければ、守屋家のある場所を教えていただくことはできないでしょうか?」


 風で擦れ合う木の葉の音が、さらさらと流れる。宮司の藤田は軽く空を見上げ、そしてまた修馬と向き合った。

「途中の鏡池かがみいけまではバスがありますが、そこから守屋家まで歩いて行くとなると1時間近くかかりますので、よろしければ車で送って差し上げますよ」


「ほ、本当ですか!?」

 修馬が笑うと、宮司の藤田もにこやかに笑みを浮かべた。素性の知れない若者であるにも関わらず、優しくそう接してくれるこの男。タケミナカタなんかよりもよほど神適正がある。


「守屋家のお客様でしたら、お送りしないわけにもいきませんからね。ここで少しだけお待ちください」


 宮司の藤田は近くにいた若い神職の男に壊れた賽銭箱の処理を頼むと、奥にある社務所の方に歩いていった。

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