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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第11章―――
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第54話 隻眼の魔剣士

「ここはまだ帝国の領海内。我ら憲兵団に逆らうとは、愚劣の極みだな」

 眼帯を着けた黒服の男は、右手に持つサーベルを前に出し、そして半身に構えた。フェンシングのようなスタイル。


「帝国の憲兵団ってのは、女の尻を追いかけるのが仕事なのか?」

「おい、口の聞き方には気をつけろ。後になって冗談でしたでは済まされないぞ」

「あまり興奮するなよ。口論で感情的になるのは三下だと、相場が決まってるからな」


 過剰に煽る修馬。とりあえずの目的はこの男のターゲットを友梨那からこちらに移すことなので、それは成功したと言えよう。後はマリアンナが助けに来てくれるように、どうにかして事を大きくするだけだ。This is 他力本願。


「だったら地獄で後悔しろ!」

 フィルレインの眼帯のしていない左目が鋭く光る。殺気を感じた修馬は、即座に王宮騎士団の剣を召喚した。


 素早く踏み込んでくるフィルレイン。そして雨のような突き攻撃を浴びせてきたが、修馬はそれを目にも止まらぬ速さで横に跳ね、その全てを防ぎきった。


「……貴様、奇術使いか? その剣、どこに隠していた?」

 眉間に皺を寄せるフィルレイン。初見ではいつもこのような反応になる修馬の武器召喚術。せいぜい未知の能力に恐れおののくがいい。


 修馬は持っていた王宮騎士団の剣を、投げ槍の如く前に投げつけた。一瞬、面食らった様子のフィルレインだったが、冷静に手持ちのサーベルでその剣を叩き落とす。

 だがその時にはもう遅い。続けて涼風の双剣を召喚していた修馬は、一足飛びに間合いを詰めると回転しながら激しい斬撃を放った。


 2人の体が交差し、修馬は床に着地する。手応えはあまり感じなかったが、振り返ってみるとフィルレインの着けていた眼帯が床の上に落ちていた。眼帯のベルトだけは斬っていたようだ。


「少し、調子に乗り過ぎたようだな」

 フィルレインがゆっくりとこちらに顔を向ける。眼帯の着いていたそのところには、ルビーのように赤い眼球が存在し怪しく輝いていた。


「な、何だその目は!?」

 そのおどろおどろしい見た目に、修馬は無意識にその身を引いた。


「これは『赫灼かくしゃくの魔眼』。この呪いのおかげで、私は強力な魔法の力を授かったのだ。あの男にも劣らないほどの強力な魔力を……」

 怨念のような言葉を吐きながら、フィルレインは己のサーベルに赤い炎を纏わせた。こいつはただの剣士じゃない。魔法も使いこなす、いわゆる魔法剣士というやつのようだ。


「『火炎弾』っ!!」

 またもサーベルで突きを放ってくるフィルレイン。だが先程とは違い、その先端から幾つもの火の玉がこちらに向かって飛んでくる。修馬は王宮騎士団の剣の振るい辛うじてそれを防いだが、その熱まで防ぎきることはできない。


「くそっ、熱いなっ!!」

「火属性魔法なのだから当然だ。こんな場所でなければもっと巨大な炎で、骨まで灰燼かいじんと化しているところだ」


 フィルレインはその後も容赦なく火の玉を放ってくる。その火の粉を全身に浴びながらも、修馬は王宮騎士団の剣で一つ一つ確実に裁いた。


 ホールの端で燃えている幾つかの炎を横目で見ながら、修馬は次の一手を考えていた。このままでは腕の筋肉が限界を迎えてしまう。そろそろ状況を変えないと、本当に黒焦げにされてしまいそうだ。


「いつまで持ちこたえられるかな?」

「うるさい! お前の魔力だっていつかは尽きるだろ!」


 修馬は自分で口にして、そのことに気が付いた。そうか。奴の魔法だって無限ではないのだ。

 こっちの腕が動かなくなるか。それともお前の魔力が底を尽きるか、勝負しようじゃないか。


 そんな考えが頭に過ぎったところで、突然目の前が青白い膜のようなもので覆われだした。何だこれは?


「『メイルシュトローム』ッ!!」


 どこからか発生した水蒸気の渦が、広い舞踏場の中をぐるぐると旋回しだす。

 修馬はまるで巨大な洗濯機の中に放りこまれてしまったかのようにホールの中を回転し、そして勢いよく弾きだされた。


「くっ! 邪魔をするか、『天凛てんぴんの魔道士』!!」

 フィルレインが叫ぶ。この水属性魔法は彼によるものではなかったようだ。では、一体何者が……?


 顔についた水滴を払い辺りを確認すると、入口の前に蝶を模した仮面を被っている1人の男がいた。どうも奴が先程の魔法の術者らしい。だがそうであるならば、何故仮面の男は我々の戦いを妨害したのだろうか? まさか彼は、仮面のヒーローだったりするのか?


「騒ぎが起きてると言われて来てみたら、お前の仕業だったか、赫灼かくしゃくの」

「それならもう終わるところだ。お前が来ると話がややこしくなるから、引っ込んでいてくれるか、天凛てんぴんの」


 仮面の男とフィルレインは一触即発の雰囲気で対峙している。仲は良くなさそうだが、顔見知りではあるようだ。同じ帝国政府の人間だと言うならこちらの敵だ。


「そうはいかねえ。こいつは俺の獲物なんだからな!」

 仮面の男は修馬の方に首を向けると、不気味に口角を上げた。

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