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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第11章―――
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第51話 帝都レイグラード

 関所を越えてから一晩だけ野宿し、そこから歩き続けること約半日。太陽が西に傾き始めたころに、修馬とマリアンナの2人はようやく目的の帝都レイグラードに到着することが出来た。


「おお、ここが帝都か……」

 感嘆の声を上げ、息を呑みこむ修馬。


 それもそのはず。そこには今まで辿って来た町ではありえないような大きな建物が建ち並び、道路は石畳で整然と舗装され、道の脇にはランプの街灯が等間隔で並んでいた。町を行き交う人々の身なりもどこか洗練されており、こちらを見る目もどこか田舎者を見るような眼差しのように思える。

 現実世界の文明には到底追いついてないものの、正直長野駅前よりは全然栄えているような気がする。


「でっかい町だなぁ」

「当然だ。帝都レイグラードは、千年都市ウィルセントに次いで繁栄している都市。だが我々は物見遊山ものみゆさんをしにきたわけではない。一刻も早くユリナ様を捜すぞ」

 マリアンナは焦る気持ちを落ち着かせるように深呼吸している。そんな彼女の気持ちに答えるためにも、何とかこの町で友梨那を見つけたいものだ。


「だけどこの町の規模だ。何の手掛かりもないのに、一体どこから捜せばいいんだ?」

「いや、手掛かりが全くないわけではない。ユリナ様の匂いが今までよりも濃く感じるからな。ほぼ間違いなくこの都市のどこかにいるだろう」

 確信を持った眼差しでそう語るマリアンナ。彼女は相当に鼻が利くらしいが、修馬はそれをあまり信用していない。


 この広い都市での人捜しは、困難を極めるだろう。修馬は気を引き締めるように、腰の上に巻かれたベルトの位置を直した。

「じゃあ、まずはどこを調べる?」

「とりあえずは、ウィルセント行きの船の日付と時間を調べたい」


「成程。じゃあ港に行くか?」

 修馬が言うと、マリアンナはそれは承服しかねるといった感じに眉を寄せた。

「いや、ウィルセント行きの乗船券は市街地でも売っているはず。そこで時間も調べよう」


 2人は市街地の中心部まで歩いて行く。

 先程マリアンナは船の時間を調べようと言っていたのだが、乗船券売り場を探す前に衣服の仕立て屋に入った。流石に鎧姿では目立ってしまうとのことなので、既製服ではあったがマリアンナはパーティに出るようなネイビーブルーのドレスを購入し、修馬は乗馬服のようなフォーマルかつドレッシーな服に着替えさせられた。


「馬子にも衣装だな」とはマリアンナの言葉。

 修馬は「乗馬服だけに?」といなしたのだが、彼女は首を傾げるだけで会話が終わってしまった。あまり意味が通じてないようだ。


 かしこまった服装に違和感を感じつつ、再び町を歩きだす。横を歩くマリアンナの姿がどうにも気になり、何度もチラ見してしまう。元々金髪で美系のマリアンナは、ドレスに着替えたらレッドカーペットを歩くハリウッドスターにしか見えない。もしもここがイタリアだったら、今歩いた50メートルの間で20人くらいにナンパされているだろう。


 だが幸いここは、グローディウス帝国とかいうわけのわからない国。イタリアほど情熱的な人は少ないようだ。


 秩序の整った通りをしばらく歩いていくと、船が描かれた吊り看板のある一軒の店を発見した。どうやらここが乗船券の売り場のようだ。


「失礼するよ。ウィルセント行きの船の運航表が見たいのだが」

 マリアンナは店に入るなり店員に質問する。


「セントルルージュ号かい? 運航表なら脇の壁に貼ってあるよ」

 毛先がカールしたお洒落な髭の中年店員は、その方向を指し示す。カウンターの横には、図入りの運航表が大きく貼られていた。


 修馬はその運航表を、頑張って読み取ろうと努力してみるが、どう考えても読むことはできない。異世界の文字は非常に難解だ。

 マリアンナに聞くと客船セントルルージュ号とやらは、帝都レイグラードを就航した後3日かけて千年都市ウィルセントに辿り着き、港に2日間停泊してからまた3日かけて航海しレイグラードの港で2日停泊するというのを繰り返しているとのことだった。


「セントルルージュ号なら丁度港に停泊していて、もうすぐ出航の時間だよ」髭の店員が教えてくれる。

「もうすぐとはいつのことですか?」

「今から、1時間後くらいだねぇ」


「1時間後……。ということは、すでにこの船に乗りこんでしまっている可能性が高いな」

 マリアンナのその言葉を聞き、修馬もそのことを確証する。


 このセントルルージュ号は、運航表によればおよそ10日かけて帝都と千年都市を往復している。もうすぐ出航するということは、前回出航したのは早くとも10日前。その時にはまだ友梨那はレイグラードに着いていないのだろう。


「店主、まだ乗船券は残っているか?」

 カウンターに身を乗り出すマリアンナ。髭の店員は、お洒落な髭を整えつつそれに答えた。

「勿論。1枚350ベリカだ」


 マリアンナは金貨7枚をカウンターに置き乗船券2枚を購入すると、髭の店員に短く礼を言い店の外に出た。修馬もその後についていく。


「とりあえず乗船券買えて良かったけど、これからどうする? もう町での捜索は打ち切って船に移動する?」

「そうだな。出航まで時間がない。すぐに港に向かおう」


「わかった。港はどっちだ?」

 修馬が聞くと、マリアンナは鼻をくんくんと動かし「恐らく南の方角だ」と答えた。


 2人は南の方角に早足で歩いていく。日は更に傾き、西の空が茜色に染まり始めていった。

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