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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第11章―――
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第50話 白昼テロリズム

 日差しの眩しさを瞼の奥で感じ、修馬は煩わしく目を開いた。

 横になっていた木陰から身を起こすと、木にもたれ、片膝を立てて座っているマリアンナの姿が目に映った。キューティクルの整った長い金髪が、澄んだ朝日を浴び美しく輝いている。


 現在我々がいるのは、岩山の谷にある関所の町ゴルバル。ここを通過し帝都に向かおうとする行商人が大勢いたため、修馬たちは宿を取ることが出来ず、仕方なく中央に人工の泉がある公園のようなところでこうして野宿していたのだ。

 とはいえ、ここ数日の間に野宿も何度か経験していたので、すっかりその辺は慣れており、普通にぐっすりと眠れるようにはなっていた。


「おはよう」

 マリアンナが疲れた顔で言ってくる。修馬はまだ眠い目を擦り「んー、おはよう」と返した。


 野宿をする際は交代制で眠りについていたのだが、そのルールは町の中とはいえ変わりはなかった。異世界のよくわからない町が、日本ほど安全であるはずもない。


「じゃあ、次はマリアンナ寝て良いよ」

 そう言葉をかけると、マリアンナは目を細め天を見上げた。

「昨日の女は、昼頃に何かが起こると言っていたな。とりあえずそれまでは眠らせて貰う」


 そう言って横になると、マリアンナはあっという間に寝息を立てはじめた。

 言っても彼女は病み上がり。先に眠らせてあげれば良かった。そう反省をしつつ、修馬は徐々に昇ってくる朝日にそっと目を向けた。

 今日は天気が良さそうだが、一体お昼になったら何が起こるというのだろうか?


 そんなことを考えながら木陰に座っていると、暖かい日差しに誘われ、ついつい修馬の瞼も重くなってくる。

 駄目だ。ここで俺は、マリアンナのことを守らなくてはいけない。知らない土地の野宿で女性を危険に晒すことはできないのだ。

 そう思いながらも、眠気を具現化した悪魔のようなものが頭の上を旋回している気がする。


 二度寝ほどこの世に気持ちが良いものはないと、修馬は常々感じているが今は絶対に駄目だ。ここは帝国領内。マリアンナにとっては敵国でもある。いくら疲れているとはいえ、眠っちまうわけにはいかねぇだろっ!!


 睡魔との激しい格闘を繰り広げるも、健闘むなしく結局修馬は木にもたれたままお昼過ぎまで深い眠りに落ちてしまった。

 目が覚めたのは、地響きと共に遠くで大きな爆音が聞こえてきたからだ。


「むっ! 何事かっ!?」

 飛び起きるマリアンナ。勿論、横で眠ってしまっていた修馬も一気に脳が覚醒し、周りをきょろきょろと見回した。

「わ、わからない。けど……」

 朝日が昇ってきた方角から黒い煙が上がっているのが見てとれる。関所がある方だ。


「成程。昨日の女が言っていたのは、どうやらこのことのようだな。行くぞ、シューマ!」

 寝起きであるにも関わらず、マリアンナは荷物を手に取り一目散に走り出した。慌ててそれを追う修馬。関所の方から多くの人が逃げるように走ってくるが、マリアンナと修馬の2人はそこを逆行するように駆け抜けていった。


 街路樹の並ぶ大通りを抜け、関所前の広場に到着する。昨日は黒山の人だかりが出来ていた場所だが、今は煙の上がる砦を人々が遠巻きに見つめているだけだ。


「何があったのですか?」

 近くにいた髭の濃い中年男性にマリアンナが尋ねる。

「ああ。これは恐らく『虹の反乱軍』の仕業だ。今、帝都に行くのは危険かもしれない」


「虹……?」

 それは一体何であろうかと思い、マリアンナの顔を覗きこむ。彼女は一文字に口を閉じ、そして小さく「やはり」と呟いた。


「虹の反乱軍とは、帝国の属国であるガーネック国の若者を中心に結成された帝国政府に反旗をひるがえす組織。昨日出会ったあの若い女も、恐らくはその組織の一員だろう」

 そう説明するとマリアンナは、黒煙の上がる砦に目を向けた。何とか形を保っていた建物がガラガラと崩れ、再び人々の悲鳴が上がる。


「あの女がこれを……?」

 その時修馬は、昨日ベリーショートカットの女が言っていた言葉を思い出した。


 通行証書なんてそんな馬鹿げたものに大金を払う必要はない。今日は宿でも取って、そして明日の朝ではなく昼頃にここに来るんだ。きっと面白いことが起こるはず。確かそんなことを言っていた。つまりこの爆発の混乱に乗じて関所を越えろということか?


「どうする、マリアンナ?」

 修馬は尋ねる。マリアンナはしばらく口に手を当てて考えを巡らせていたが、何かを思いつき修馬の耳元でそっと作戦を告げた。


「関所の砦部分もかなり破壊されているようだが、すでに政府の兵士たちが集まってきていて、今は通り抜けようとしたらすぐに捕まってしまうだろう。しかし兵士たちが砦に集中してるこの状況は、こちらにとって好都合かもしれない。警備の目の届かない町外れの壁から『涼風の双剣』で飛び越え、関所を突破してしまおうではないか」


 首を縦に振り作戦に同調する修馬。

 それがいい。帝国政府の人間たちがこれ以上増える前に、とっととこの町とはおさらばしてしまおう。


 その場を後にし、人の目につかないように忍び足で歩いていく修馬とマリアンナ。関所の石壁は中心街から外れに行くほど、劣化が激しくなっていった。


 小さな森を抜け、やがて辿り着く墓地の一画。幸いここには人が誰もいなかった。よし、ここから跳び越えよう。

 つるの這う朽ちかけた壁を前に、修馬は優しくひざまずいた。


「お姫様どうぞ」

 そう言うと、マリアンナは修馬の背中をグーで殴ってきた。しっかりと痛い。だがそんなことをしている場合でもないので、すぐに大人しく体を預けてきた。彼女の胸の感触が背中に伝わってきたが、それは甲冑越しだったのであまり意味のないものだった。


「……出でよ、涼風の双剣」

 マリアンナの足を手首で固定しつつ、手の中に武器を召喚する修馬。そこから下に向かって強く風を噴出すると、2人は重力に逆らって空に上昇した。


 人一人背負った分の重力を肩に感じる。4メートル程飛び上がり真下を見下ろすと、お城の石垣のように重厚な壁がどっしりと構えていた。

 極力目立たぬよう首をすくめながら滑空し、マリアンナを背負った修馬は雑草の高く生い茂る壁の反対側に無事着地した。騒ぎの声はどこからも上がらない。誰にも見つからずに済んだようだ。


「帝都まではあと僅か。先を急ごう」

 マリアンナは修馬の背から降りると、早足に駆けて行く。


 修馬もその後を追うように、岩山に挟まれた砂の大地を真っすぐに突き進んでいった。

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