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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第9章―――
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第44話 撃破

 前方に立つマリアンナと王宮騎士団のミルフォードは、互いに肩で息をしながら天を見上げている。彼らの視線の先には、黒い翼を羽ばたかせる天魔族ヴィンフリートの姿があった。


「けけけけけっ。所詮人間の力など恐れるに足りぬ。束でかかってこようとも、我ら天魔族の敵ではない!」

 笑いと共に無数の火の玉を落下させるヴィンフリート。地上にいるマリアンナとミルフォードは、剣を振るいその火の玉次々弾き落とした。


 天に浮かぶ敵に対し、攻撃をくわえることが出来るのは俺以外いないか?

 修馬は振鼓ふりつづみの杖を強く握った。だが稲妻による攻撃は、地上にいる我々にも被害が及ぶ恐れがある。ならばここは白兵戦で戦うしかない。


 振鼓の杖を投げ捨て、続けて涼風の双剣を召喚させた。

 俺の戦闘スキルは格段に上がっている。天魔族にだって負けはしない。その言葉を自分に言い聞かせながら、風を最大出力で噴射する。

 疾風はやての如く飛んでいき、その喉笛を掻っ切ってやる!


 砂の大地を蹴り、斜めに上昇する修馬。そこから素早く体を横に回転させ、ヴィンフリートに向けて双剣を振るった。


 ザシュッと音が鳴る。刃が肉を絶つ確かな手応え。

 うまく方向が定まらず喉を斬ることこそ出来なかったが、その回転攻撃によって奴の腹部を二重、三重に斬りつけることができた。相手が天魔族だからか、あるいは気が高ぶっているからなのか、斬りつけたことに対する罪悪感はまるで感じない。


 風を地面に向けて逆噴射させ、丁寧に着地する修馬。すぐに振り返りヴィンフリートの様子を窺うと、奴は特に苦しげな姿も見せることなく、そのままの様子で宙に浮かんでいた。


「ほう。それはハイン・ライヤー・ウェーデルスの武器、涼風の双剣ではないか。白龍の間でクリスタ・コルベ・フィッシャーマンといさかいがあったらしいが、その隙に盗んだのか? 大事な武器を人間に取られるとは、相変わらず間の抜けた男だ」

 ヴィンフリートはそう言ってせせら笑う。

 風穴の中でも感じていたことだが、やはりハインも天魔族と考えて間違いないようだ。邪号じゃごうと呼ばれるミドルネームがその証になる。


「俺がハインから物を盗むわけがない。だけどこの双剣の扱いはハイン仕込みだ。とくと味わえっ!!」

 風を出力し、再度宙を舞う修馬。だが刃を光らせ攻撃を仕掛けようとしたその時、地上から放たれる強大な殺気を感じとった。


 異変を察知した修馬は、風の勢いを抑えて空中から地上を見下ろす。

 その視線の先には、こちらに向かって槍を投げつけようとしているミルフォードの姿があった。ヴィンフリートに攻撃を仕掛けようとしているのだろうが、この場にいてはこちらも被害をこうむりかねない。


 宙で体を回転させ双剣を唸らせると、投げ放たれた槍が双剣に激突し甲高い音が周囲の岩山に響いた。うまく弾くことができたか?

 そう思い回転を緩めたのだが、地上にいるミルフォードはその後も次々背中に仕込んでいた槍を手に取り、何度も何度も天に向かってなげうった。蜂の巣状態の修馬とヴィンフリート。


 空中にいる修馬は数度槍を防ぐことに成功したが、最終的には右手の双剣が槍によって弾かれてしまった。左手の双剣だけではバランスを取ることが出来ず、修馬は左右に蛇行しながら地面に落下した。乾いた地面の上で巨大な砂埃が舞う。


 くそっ。あいつも天に浮かぶ敵に対する攻撃方法を持っていたのか……。

 地面に這いつくばる修馬がミルフォードを睨むと、彼はあれを見てみろとばかりにあごをしゃくり、視線を天に向けた。


 懐疑的な眼差しで空を見上げる修馬。するとそこには、体が穴だらけになったヴィンフリートが浮かんでいた。

「殺した……のか?」

 修馬がそう聞いたのだが、ミルフォードは何も返事をしない。横にいるマリアンナが代わりに首を横に振った。

「駄目だ。どういうわけか、奴には打撃、斬撃の類が効かないらしい」

「あれで効いてないのっ!?」


 見ているとヴィンフリートの体に空いた穴は徐々に小さくなっていき、そして遂には元の状態に戻ってしまった。どういうトリックだ?


「察しの通り、我に物理攻撃は通用しない。なぜならばこの体の大部分は炎によって構成されているからだ。けけけけけっ」

 ヴィンフリートの体の周りが薄い炎で覆われる。奴の言うことが本当ならば、マリアンナやミルフォードのような騎士では太刀打ちすることができないかもしれない。


「魔法も扱えることが出来ぬ愚者ぐしゃは、いずれ絶える運命なのだ。その瞬間が今だったとして何の問題があるだろうか……」

 ヴィンフリートは腕を広げ魔法を放つ。天から降り注ぐ数多あまたの炎が、未だに倒れている修馬に襲いかかってきた。


「させぬっ!」

 鬼の形相で修馬の傍らに飛び込んできたマリアンナが、王宮騎士団の剣でその炎を何度も打ち返した。飛び散る火の粉が目の前で広がり、辺りが夕焼け空のようにオレンジ色に染まった。


「マリアンナ! 俺、稲妻の魔法が備わった武器を持ってるんだ。それであいつを倒せないか?」

 立ち上がった修馬は身を低くしてそう聞いたのだが、マリアンナの表情は険しいままだ。

「体が炎では、稲妻の魔法も効果は薄いだろう。奴を倒すには、水属性の魔法でも使えないと難しいようだな」


「水属性……。成程、炎が相手だから水がいいのか。……あっ、そうだっ!」

 戦闘の緊張感ですっかり忘れていたが、俺は炎に対して相性のいい武器を1つ持っていたではないか。


 炎を防いでくれているマリアンナの陰で、修馬は密かに涼風の双剣を召喚させる。

「おい、それは確か風属性の武器。炎が相手では火の勢いを増してしまう可能性があるぞ!」


「良いんだ、これで。次の一撃で確実に仕留める!」

 双剣の先端から風を出力させると、修馬は降り注ぐ火の玉も恐れずに空に向かって一気に飛び上がった。


「けけけっ、玉砕覚悟とは面白い。受けて立とう!」

 ヴィンフリートは短い杖で目の前に円を描き直径3メートル程の巨大な炎を出現させると、それをこちらに向かって容赦なく落としてきた。


 それでもなお、怯むことなく突っ込んでいく修馬。そしてその炎とぶつかろうというその時、修馬は双剣を手放すと右手にある武器を召喚させた。


 体を焼かれたような痛々しい音と、悲痛な断末魔が岩石砂漠にこだまする。

 しかし体を焼かれたのは修馬ではない。体を覆い尽くす程の巨大な炎は、修馬の右手から放たれたビーム状の何かに中心を貫かれ、そして泡のように消え去っていた。


 修馬が召喚した武器は『流水の剣』。その切っ先から飛び出た水は炎を消し去り、そしてその奥にいたヴィンフリートの体をも真っすぐに貫いていた。つまりその断末魔は奴のものだったのだ。


「おのれ、おのれ! 何故貴様がサッシャ・ウィケッド・フォルスターの武器まで持っているというのか……」

 黒き翼の動きを止めたヴィンフリートは、そのまま地上に落下していく。風の勢いで宙を舞っていた修馬も、重力に負け徐々に高度を落としていった。


 涼風の双剣を召喚しないと、このままでは地面に激突してしまう。

 何とかしなければと空中で体をもがくのだが、どうも先程の攻撃で全ての力を使い果たしてしまったようだ。もはやこれまでか……。


 どうにか受け身だけでも取ろうと体を強張らせると、次の瞬間がくんと首が揺れ、そして何かに包みこまれるような形でに着地した。痛みは少ない。うまく助かったのか?


「特に義理はなかったが、反射的に手が出てしまった。別に感謝はしなくていい」

 修馬の体を受けとめてくれたのは、ミルフォードだった。


 体の力を緩めると、修馬は静かに息を吐き横のまま首をもたげた。

「……わかった、感謝はしない。だけどあんたは、立派な騎士ナイトだよ」

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