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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第38章―――
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第233話 双子の巫女

 禍蛇まがへびを追いかけ、夜空を駆ける伊集院。

 その背に乗る修馬は、アグネアの槍『黒線』で幾度も攻撃を放つ。外皮が砕け光る鱗がキラキラと宙に散らばるが、禍蛇の動きは全く止まることがなかった。


「中々攻撃が効かないようじゃな」

 その時、修馬たちと並走するように宙に浮いたタケミナカタが出現した。彼はこちらと同じ速度で移動しつつも、涅槃像ねはんぞうのように呑気に横になっている。


「どうすればあいつに攻撃が通るんだ!?」

 必死な修馬が真っすぐに質問をぶつけるも、タケミナカタは大きくあくびをして目をしばしばと擦った。


「基本的にはあれじゃな。アグネアの槍とやらで光の外皮を剥ぎ取り、闇の体が現れたら天之羽々斬あめのはばきりで内部から真っ二つに断ち切る。それが禍蛇を討つ唯一の方法じゃ」


 やはり光の外皮を持つ禍蛇に対し、攻撃が有効なのは闇の武具であるアグネアの槍。そして外皮の下にある闇の体に有効なのは光の武器である天之羽々斬あめのはばきりということ。

 それは修馬も戦いながら気づいていたことである。禍蛇が玉藻前たまものまえと同じ二重属性だというのは、前にも聞いていた話だ。


「しかし今のままでは、いくらか闇の力が及ばぬようじゃな。あの『黒芒こくぼう』ほどの威力が無ければ、全ての外皮は剥ぎ取れないであろう」


「……つまり、俺の力が不足してるってことか」

 己のもどかしさに、奥歯を噛みしめる修馬。


「そうじゃなぁ。まあ、わかりきっていたことじゃが、本当に情けない小僧じゃ……、ひえっ!?」


 結界の端に禍蛇が到達しそうになったその時、突然空に大きな雷鳴が鳴り響いた。

 顔に似合わない甲高い声を上げたタケミナカタは、空中で跳ね起きて修馬の背中に隠れる。この神様は雷が大の苦手なのだ。困ったものだ。


 雷雲は出ていないので、これは雷術の類だろうか?

 空から地上を見下ろすと、三の星である『長野市立東部小学校』の校庭に、葵と茜の姿が確認できた。今の雷は葵が放った術に違いない。


「禍蛇を相手に雷術など大して効かぬというのに……」

 修馬の背後でぶつぶつ文句を言うタケミナカタ。


「神様だってびびるんだから、禍蛇にも多少効果はあるんじゃないか?」

「多少というなら幾らかの効果はあるかもしれぬが、よく考えてみよ。そもそもあの小娘は大怪我をしておるはずじゃぞ。雷術のような激しい攻撃を繰り返して、体が無事であるはずもない!」


 どこか苛立った様子でそれだけ言うと、タケミナカタは闇夜に紛れるように消えてしまった。決戦の時だと言うのに相変わらずのマイペースぶり。


 しかし彼の言うことは、正しいかもしれない。

 修馬は一度三の星になっている小学校に下りてみようと伊集院に提案した。


「2人とも大丈夫か!?」

 乾いた砂を宙に巻き上げ、校庭に下り立つ修馬と伊集院。

 だがそこで結界を守っている茜は、こちらを見るなり大きく怒りを露わにした。


「おい、何こっちに来てんだ馬鹿野郎ども!! せっかく茜たちが囮になってるっていうのに!!」


 あまりの迫力に、一瞬怯んでしまう修馬。

 気を取り直し、結界を破壊されたら元も子もないと思い様子を見に来たのだと説明するのだが、茜はかなりの興奮状態らしくまるで聞く耳を持ってくれない。


「舐めんじゃねーぞ!! うちらを誰だと思ってんだよ? 『氷魚ひうお昇り』!!」

「茜の言う通りです。禍蛇の意識は私たちが反らせます! 『跳ね雷魚らいぎょ』!!」

 茜と葵がそれぞれ術を唱えると、氷の魚と雷の魚が空を泳ぐように昇っていく。


 そしてそれが禍蛇の体に衝突すると、キーンッという不協和音が空一面に広がった。外皮を砕くことはできていないが、禍蛇は多少怯んだように距離を置き上空を旋回している。


 流石に2人とも強力な術者だ。

 しかも茜に至っては左手で結界を維持しつつ、右手で氷術を使っているのだから大したお子様だ。


 こちらも負けてはいられないと、力を込める修馬。タケミナカタは言っていた。今のままでは力が足りないと。もっともっと、強烈な一撃を喰らわせなければいけない。


「出でよ、アグネアの槍『黒線』三槍さんそう!!」

 弧を描き飛んでいった3本の闇の帯が、禍蛇の体に突き刺さる。外皮に3つの穴を空けることに成功したが、それでも全身の皮を剥ぎ取るには程遠い。 


 好戦的に鎌首をもたげ、地上に向かって大きく口を開ける禍蛇。


「攻撃が来ます!! 我を守護せよ、『蛇の目じゃのめの紋』!!」

 4人の頭上に、二重円型の障壁を展開させる葵。


 禍蛇が吐き出した黒芒はその障壁にぶつかると、強烈な爆音が辺りに鳴り響いた。

「くっ!! 恐ろしいほどに強力な力……」


 二重円の障壁に触れた黒芒は、蒸発するように溶けていく。

 小さな体でその全てを支えきった葵は、腕を下す間もなくすぐ次の行動に転じた。


「こちらからも反撃しましょう!」 

 葵の合図に、皆が空に向かって一斉に構える。それぞれの手の中には、炎、氷、雷、闇の力を蓄えられていた。


「喰らえ、『火翼の神鳥ファイヤーフェニックス』!!」

 伊集院が巨大な鳥を象った炎の魔法を飛ばすと、同時に葵と茜も先程の魚状の術を放った。修馬もそれに合わせて、3本の『黒線』を夜空に向けて撃つ。


 キーンッと酷い耳鳴りが聞こえ、空が一瞬真っ白に光った。

 4人の総攻撃を受けた禍蛇は、苦しむように激しくうねり出すと、そこから逃げるように今度は南西の方角に飛んでいく。


「くそっ、逃げやがった!!」

 そう声を上げた茜だったが束の間、膝が崩れ体が倒れそうになった。


 修馬と伊集院がそれを支え転倒は阻止できたが、幼い双子の姉妹は体力が限界に近付いているようだ。禍蛇がここから逃げてくれたのは、逆に都合が良かったかもしれない。


「ありがとう、2人とも! 後は俺たちに任せろ!」

 青白い顔の茜を葵に託し、伊集院と修馬は天に向かって勢いよく飛び出す。


「うちらはここから動けねぇから、お前ら後は頼んだぞ!」


 夜空を滑空する2人の耳に、振り絞って出したと思われる茜の声が微かに響いた。

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