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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第37章―――
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第218話 異世界の夜明け

「起きて、シューマ!! 夜襲だよっ!!」


 大きな声と共に目が覚める修馬。だがあまりに突然のことすぎて、状況が全く把握できない。


「ま、禍蛇まがへび……!?」

 寝ていた修馬が上半身を起こすと、髪を振り乱しながら魔法を繰り出しているココが目の前にいた。よくわからないが、何かと戦っているようだ。


「マガヘビって何ーっ!? 襲ってきてるのは有鱗ゆうりん獣人だよー!!」

「ええ! ユーリンって誰ーっ!!」

 理解が追いつかないものの、まずはそこから跳ね起きる修馬。見回すと辺りは真っ暗な森。一体ここはどこなのか?


 辺りを警戒しつつ記憶を遡っていく。

 禍蛇の攻撃を喰らい地面に伏したのは現実世界の話。恐らくここは異世界のはず。異世界ではイシュタルの背に乗り、天魔族の住む『竜のうつろ島』に辿り着いたのだが、その後どうしたのか思い出せない。何で俺は森の中で寝ていたんだ?


 甘く生臭い臭気がどこからともなく漂ってくる。暗さに慣れてきた目で辺りを確認すると、得体のしれない魔物に囲まれてしまっていることに気づいた。奴らがそのユーリンとやらか。


 ワニのような頭部だが、人間のように二足歩行できる体。鎧を身に纏い、左手にはシミターのような湾曲した剣を手にしていた。中々屈強そうな魔物だが、今の実力なら難なく倒せる敵だろう。


「寝起きだけど、状況は理解できた。あいつらぶっ倒せばいいんだな」

「うん。けど気を付けて。イジュはすでにやられちゃってるから!」


「伊集院が? マジで!?」

 そう言って視線を落とすと、すでに倒れている敵に紛れ、腹を裂かれ出るものが出ちゃってる伊集院の屍が転がっていた。最悪だ。見なきゃよかった。


「くそっ! 雑魚相手に体力使ってる場合じゃねぇんだけどな! 俺たちは、魔王倒さなきゃいけねぇんだからよぉ!!」

 アメリカ製のサブマシンガン『イングラムM10』を両手に2丁召喚した修馬は、周りを囲む獣人に弾丸の雨を浴びせた。


 現実世界の強力な武器を前に、獣人たちは次々と地面に伏していく。

 それでも生命力が強い種族らしく、体が動かなくなった個体でも顎の力だけで頭の高さまで跳び上がり、噛みついてこようとしてきた。

 そんな死にかけの獣人に対し、マリアンナは剣で脳天を串刺しにし容赦なくとどめを刺していく。


 20匹程で囲み「シャー! シャー!」と叫んでいた獣人だったが、ココが最後の1匹の息の根を止めると、辺りに夜の静けさが戻ってきた。


「ふぅ……。とりあえず倒せたみたいだね。でも、これからどうしようかぁ?」

 夜空を見上げるココ。東の空がインディゴブルーに染まってきている。もうすぐ夜が明ける時間のようだ。


「どういう状況だったの? 俺たちこの森で野宿してたの?」

 修馬が尋ねると、ココはこくりと頷いた。


 聞けば、竜のうつろ島に下りた時に修馬は頭に白獅子の盾が落ちてきてそのまま気絶してしまったので、とりあえず近くの森で野営していたのだそうだ。そういえば何かが頭に当たったような覚えがある。


「イジュが見張りをしてくれていたのだが、私が獣人の臭いに気づいて目を覚ました時にはこの有様だったよ」

 伏し目がちに地面を見るマリアンナ。その先に転がる伊集院の死体。釣られた修馬もうっかりまた目にしてしまったが、今の伊集院は閲覧注意だ。


 このままでは忍びないと、その辺で拾ってきた木で棺桶を作りだすマリアンナ。そう彼女は日曜大工が趣味なのだ。ローゼンドールの住処に泊めて貰った時も、動く死体に殺された伊集院のために棺桶をこしらえていた。なのでこれが彼にとって、人生で二度目の棺ということになる。


 王宮騎士団の剣を使って器用に木を削り、何故か持っている釘できっちりと繋いでいく。

 すると1時間もしないうちに立派な棺が完成した。伊集院も草葉の陰で喜んでいるだろう。


 薄っすらと明るくなっていく空。

 このまま出発することにした修馬たちは、伊集院の入った棺桶を引きずりその森を出た。


「けど、どっちに向かえばいいのかなぁ?」

 ゆっくりと首を横に曲げるココ。

 初めて上陸する竜のうつろ島。いくら大魔導師とは言え、魔王の城の場所がわかるはずもない。勿論それは修馬にとっても同じことである。


「まあ、こういう時は私に任せろ」

 しかしマリアンナは、自信に満ち溢れた表情で一歩前に歩み出た。どうするつもりか?


 平らな場所に立ったマリアンナは王宮騎士団の剣を抜くと、その切っ先を地面に軽く突き刺し、柄から手を放した。

 重力によってパタリと倒れる王宮騎士団の剣。マリアンナはその柄頭が向いた方角を指差すと「西のようだ」と呟き、剣を鞘の中に納めた。


 これは冗談の類か?

 そう思った修馬がつっこもうかどうか迷っていると、マリアンナはその西の方向に歩き出し、ココも「成程。流石だね」と言い後を追っていった。ガチのようだ。


 まだ日が昇りきらない薄暗い原野を、マリアンナに先導され足早に進んでいく。

 棺桶を引く修馬は2人の後ろを歩いていたのだが、しばらくすると前を行くココとマリアンナの髪が光を受けて金色に輝き出した。


 異世界の夜が明ける。

 白む空の下に広がる原野が、日の光を浴びて鮮やかな色を取り戻していく。

 朝露で湿った草が青々と艶めき、控えめに咲く黄色い花は、その小さな花冠かかんを仄かに揺らした。魔族の住む島だが、自然は公平に美しい。


「俺、天魔族の島っていうくらいだから、草木の生えない溶岩の池や毒沼だらけの島を勝手に想像してたけど、全然違うもんだね」

 魔物の気配もないことから、緊張感の欠片もないことを呟く修馬。だが前を歩くココは、そんな他愛ない言葉に過剰に反応するように大きく振り返った。


「シューマは想像力が凄いね! けど溶岩の池や毒沼だらけの島なんて、どうやって生き物が住むのかな?」

「まあ、現実的にはそうなんだけどさ……。イメージだよ。イメージ」

「ふーん」


 納得したのかはわからないが、前を向き直しそのままあ歩いていくココ。

 疑問を呈してはいたが、彼の住んでいた魔霞まがすみ山は滅茶苦茶火山ガスにまみれていたような気がする。だがそれを指摘するのは野暮な気がしたので、敢えてスルーすることにしよう。


「まあ、有害な臭気がしないことは結構なことだ」

 念のためなのか、小鼻をひくひくと動かし臭気を確認するマリアンナ。犬並みに鼻の利く彼女のお墨付きが出たのであれば大丈夫だろう。


 だがその時、鼻を動かしていたマリアンナの歩みがそこでピタリと止まった。思わずぶつかりそうになる修馬。


「どうした!? 毒ガスの臭いでもするのか?」

「……する」

「えっ、するの!?」

 驚きで縦に大きく口が開く修馬。だが一方のマリアンナは口をへの字に結び、目が涙で潤んでいた。


「するのだ。ユリナ様の匂いが!!」


 一瞬どういうことかわからなかったが、鼻の良いマリアンナは天魔族の城に捕らわれているはずの友理那の匂いを嗅ぎあてたのだ。


「シューマ、ココ様! 匂いの方向はここから南西の方角に違いない! 全速力で向かうぞ!!」


 朝日に照らされる原野を走り出すマリアンナと、飛翔魔法でそれに続くココ。

 伊集院の入った棺桶を引きずった修馬は、ホッフェルの靴で重力を軽減させながら、懸命にその後を追いかけた。

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