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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第35章―――
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第209話 歓迎の港町

 修馬たちを乗せグローディウス帝国の凍らずの港を出航した反乱軍の船リーナ・サネッティ号は、数日の航海を終えユーレマイス共和国にあるウィルセント港へ入港した。


 湾内にあるため波も穏やかなその港は、客船や漁船など数多くの船が岸壁に停泊している。そして漁船の停まっている岸の近くには市場が併設されており、賑やかな笑い声と威勢の良い掛け声が鳴り響いていた。


「ここがウィルセント港か……、流石に活気があるなぁ」

 錨を下す大きな滑車を回しながら修馬は呟いた。


 以前ウィルセントの街に来た時は、ここではない別の小さな港から入国したので、実際にこの港を見るのはこれが初めてだった。白い建物と青い海のコントラストが美しい非常に風光明媚な港町である。


 軍隊のものと思われる船も多く停泊しているが物々しい様子はまるでなく、むしろ市場の建物と立てられた柱には紐に三角旗をつけた飾りが幾つも繋がれていて、船人を歓迎するように港を彩っていた。帝国との戦争も終結したので、当然お祭り騒ぎなのだろう。


「活気があるって? それはそうだ。ここは千年の栄華を誇るウィルセントの街! この港は多くの国と繋がる船の交差点、世界中の船乗りが集まってくるんだ!」

 そう言ってガハハハハッと豪快に笑い声を上げるのは、船大工のベック・エルディーニ。彼は修馬と共に滑車を回しながら、我がことのようにこの街のことを自慢気に語っている。


「知ってるよ。あの三豪家さんごうかとかいう貴族が造った街なんだろ」

 素っ気ない態度でそう返す修馬。飛んでくるベックの飛沫に若干うんざりしているからだ。


 ちなみに三豪家とは、ビスタプッチ家、ガーランド家、マルディック家という3つの貴族のこと。1000年程前にその三豪家が、この地に国を造ったというのは以前聞いていた話だ。


「如何にも! 周辺の小国と合併を繰り返し、今では君主を持たない共和制の国家になったがな」


 ベックのその言葉を聞いた修馬は、頭の中に疑問符が浮かんでいた。ユーレマイス共和国はビスタプッチ家が治めている国家だと聞いた気がしていたからだ。

「けど、この国の国家元首はビスタプッチ家の人間なんじゃないの?」


「……勿論そうさ」

 そう言ってその場に近づいてくる、虹の反乱軍隊長のアーシャ・サネッティ。彼女はそのまま錨を下す作業を手伝い、修馬の質問にも答えてくれた。


「元々はビスタプッチ家が代々治めてきた国だが、共和制を変わってからも国民投票によって国家元首に選ばれるのは、結局ビスタプッチ家の当主なんだよ。特に現職のサリオール・ビスタプッチは圧倒的な支持率で選出されているから、来期の選挙でも当選は確実のようだ」


「ふうん。サリオールは国民から愛されているんだね」

「さて、それはどうかな? 政治を行うには、清廉潔白だけでは務まらないだろうからね……」

 滑車を回しながら、アーシャはにやりとほくそ笑む。


「それは何? 悪い噂もあるっていうこと?」

「いや。あたしは一般論を言ったまでだ。サリオールが善人か悪人かなんて、わかりはしないよ」


「おいおい、滅多なことを言うな。千年都市でビスタプッチ家の批判なんてしたら、不敬罪で取っ捕まるぞ」

 ベックが顔しかめてそう言うと、3人で回している滑車が急に軽くなった。錨が海底に到達したようだ。


「ベック。ここは帝国じゃないんだ。不敬罪なんて法律は存在しないよ」

「……なら良いけどな。だが捕まりはしないが、ビスタプッチ家の使いは来たようだ岸を見てみろ」


 ベックに促され、腰を上げる修馬。

 手すりに捕まり船の外に目を向けると、岸壁の上に2人の兵士が立っているのが見えた。見覚えのあるその顔。彼らはストリーク国の内戦で共に戦った、ロイド・アリアットとその弟のカイル・アリアットだった。


 縄梯子を伝い船から降りた修馬は、彼らとの再会に頬を緩ませた。最初に会った時は2人の区別がつかないくらいに似ていると思ったが、こうして並んで見てみると身長から髪型まで違っていることに気づかされる。


「皆さん、お久しぶりです! 話には伺ってますよ。帝国ではあの『剣聖』エンリコ・ヴァルトリオを討ち倒したそうですね。我々もシューマさんの雄姿を拝見したかったです」

 興奮気味に語るカイル。それに食いついたのは、飛翔魔法を使いゆっくりと船から降りてきたココだった。


「剣聖を倒しただけじゃないよ。シューマは城みたいにでっかい戦車を、強力な術でぶち壊したんだから」

「城みたいな戦車! 何ですかそれは!? 詳しいお話聞きたいです!」


 わいわいと盛り上がりを見せる、ココとロイドとカイル。

 3人の話は尽きそうになかったので、仕方なく修馬はその会話に割って入った。

「あの……、ところでロイドもカイルも、何か用があってここに来たんじゃないの?」


「ああ、そうでした! サリオール国家元首がシューマさんたちを城にお迎えしたいと申しております。本日泊まる宿もこちらでご用意しておりますので、お手数なのですがこれからご足労願いますか?」


「国家元首が直々に? 俺たちが?」

「勿論です。シャンディ准将は、シューマさんを英雄だと仰っておりましたからね。サリオール様もお会いすることを楽しみにしているようです」

 帝国との戦いで戦闘を共にしたシャンディ准将が、その功績を父であるサリオール国家元首に伝えたようだ。


 実際のところ修馬たちがウィルセントにやってきたのは、魔王の城があるという『竜のうつろ島』に向かうための情報収集という目的があったからだが、そこは船の航行がない辺境の海域にあるらしく、アーシャたちはそこへ向かうための方法も海図も知らないとのとこだった。しかしユーレマイス共和国の国家元首なら、そこに辿り着くための何か有益な情報を知っている可能性はあるかもしれない。


「アーシャ!! サリオール国家元首が城に招いてくれるんだって!」

 船上に向かって大きく声を上げる修馬。船べりから顔を出したアーシャはにこりと微笑むと、身を乗り出すように手すりに寄りかかった。


「行ってこい、英雄!! 今回の主役はお前だからな!」


 英雄だなんて呼ばれるのは柄ではないので、改めて言われると耳が赤く火照ってしまった。アーシャの言い方に、冷やかすようなニュアンスがあったのもその要因の一つだ。


「……いや、アーシャたちは行かないのか?」

「あたしたちは反乱軍。城に招かれるような立場じゃないからな。まあ、何か金目の物でも貰えるなら少し分けてくれればそれで良いさ」


 そう言ってカラカラと笑うアーシャ。どこまで本気で言っているのかはわからないが、共に国家元首と謁見するつもりはないようだ。


「虹の反乱軍の活躍も伺っております。皆さまにも上宿を用意しておりますよ」

 ロイドがそう説明するもアーシャは「立派な宿の寝床では、どうにも寝つきが悪い。折角だがあたしたちは船の中で寝泊まりさせて貰うよ」と言ってそれを辞退した。


「そういうことなら、僕たちだけで行こうか」

 ココがそう言い、その時船を降りてきたマリアンナと伊集院もそれに頷いた。


 そういえば伊集院はかつて帝国の幹部的な地位にいた人間だが、ユーレマイス共和国の城に連れて行って大丈夫だろうか? 少しだけ不安になりつつも、修馬はロイドとカイルの元に近づきそしてリーナ・サネッティ号に振り返る。


「それじゃ、アーシャ。俺たちちょっと言ってくるよ。竜のうつろ島があるという辺境の海域『ヴェストニア』への行き方も聞けるかもしれないし」


「ああ、胸を張って堂々と行ってこい! あたしたちはその辺境の海域でも航海出来るように、今のうちに船を強化しておく。願わくばこのリーナ・サネッティ号で、修馬たちを魔王の城まで送りたいからな」


 はっぱをかけてくるアーシャ。そして自分たちの船で、竜のうつろ島まで送ってくれるのだという。しかし聞いた話では、辺境の海域は大しけの荒れた海。まともな船乗りなら絶対に行きたがらないような場所ということだが大丈夫なのだろうか?


「……行く方法がわかったとして、アーシャたちも魔王のいる島まで付き合ってくれるのか?」

「何を当たり前のことを言っている。お前とあたしたちは、志を共にする同志。シューマたちが辺境の海域に行きたいと願うなら、あたしたちはそれを全力で助けるに決まっているだろう」


 心強いアーシャの言葉を受けた修馬は、リーナ・サネッティ号に向かって深く頭を下げた。

「ありがとう! アーシャ!!」


 竜のうつろ島にある魔王ギーの居城。

 そこで修馬たちは禍蛇を倒すための武器の一つ『アグネアの槍』を手に入れ、そして幽閉されている友理那を救出しなければならない。

 竜のうつろ島があるという辺境の海域ヴェストニアが如何なる海なのかはまだわからないが、何が何でも乗り越えていかなくてはならない。虹の反乱軍に隊員たちには本当に感謝することばかりだ。


 そしてロイドとカイルの後についていった修馬たちは、ウィルセントの街の中心部、サリオール国家元首のいる城に向かって歩いていった。

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