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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第34章―――
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第204話 サイレンが響く町

 伊集院に抱えられ空を滑空する修馬。出発した戸隠山から、今は長野県庁の方角へと向かっている。頭上からは真夏の日差しが容赦なく照り付け、露出した肌がぴりぴりと痛んだ。


「あれが渦雲か……」

 善光寺の遥か上空、長野市街地を全て覆う程の大きさで渦が広がっている。テレビ画面を通して観るよりも、かなり大きいようだ。


「あれは多分、異界の門だ」

 背中越しにそう呟いてくる伊集院。修馬は抱えられたまま、少しだけ顔を後ろに向けた。


「異界の門?」

「ああ。あの門が開き切った時、龍神オミノス。いや、禍蛇まがへびがこの世界に現れるはずだ」

「ふーん、そういうことか……」


 修馬は異世界で、龍神オミノスを次元の狭間に封じる瞬間に立ち会っていた。あの時、アイル・ラッフルズが発生させた『次元の扉』と呼ばれるものが、これに酷似した光の渦だった。

 この渦雲は異界の門になっていて、これが開いてしまうと禍蛇がこちらの世界に降臨してしまうということなのだ。


 これから未曽有みぞうの大災害が発生するかもしれないというのに、長野県庁の周辺には野次馬たちが多く集まってきている。何とかして彼らを避難するように誘導させなくてはいけないのだが、今は玉藻前たまものまえを倒すことを優先しなくてはならない。


 すると、何かに気づいたように伊集院が唸った。

「んあっ!? 渡邉たちがいる」


「わたなべ?」

 空中から見下ろすと、国道の路肩を自転車で走る3人の若者の姿があった。それはイケてるグループに属するクラスメイトの、渡邉と佐藤と齋藤だった。


 伊集院は空中移動を止め勢いよく道路の上に降り立ち、彼らの走行を強引にせき止めた。


「うわっあぁ!! あっぶねっ!!」

 前のめりになりながら、ぎりぎりで自転車を停止させる渡邉他2人。面食らった顔をしていた3人だが、伊集院のことを確認すると皆大きく眉をひそめた。


「何だよ、伊集院か……。それと広瀬も。っていうかお前ら今、空から降ってこなかったか?」

 怪訝そうな表情で言ってくる渡邉だが、今はその辺りのややこしい説明をしている暇はない。


「そんなことはどうでもいい! これからとんでもない災害が起こるかもしれないから今すぐここから逃げろ!」

 伊集院が身振り手振りでそうアピールするが、その深刻さは恐らく彼らには通じていない。


「そんなことって……、どういうことだよ?」

「いや、何て言っていいかわかんないんだけどさぁ……」


 伊集院は口を濁しながらも、玉藻前について掻い摘んで話した。だがそれだけ話してもとても信じて貰えるような内容ではないので、渡邉たちの表情は益々疑念に満ちてくる。


「オカルトかよ。この暑さで頭がいかれちまったのか?」

 そうぼやく渡邉の後ろで、佐藤と齋藤が大きく口を開けたまま修馬たちの背後を指差した。


「何だ、あの燃えてるの?」

「み、未確認飛行物体……?」


 2人が指差す修馬の後ろ、それは長野県庁の方向。修馬と伊集院は息を合わせるように振り返ると、視界の先、長野県庁の上空に尻尾を赤く燃やす玉藻前が浮かんでいた。


 不気味に浮遊する玉藻前が腕を下に向けると、長野県庁の上層階で再び大きな爆発が起きた。響いてくる大きな重低音。炎上する熱気が、爆風と共にこちらまで届いてくる。


 そして玉藻前は笑うように体を揺らせるとその場でくるりと宙返りし、東南東の方角に向けて飛んでいってしまった。


「ちっ! 玉藻前の奴!!」

 舌打ちする伊集院。ただその横にいる修馬は、あることに気づき顔が青褪めていた。


「玉藻前が飛んでったのは、もしかして市役所の方角じゃないか?」

「市役所……? そうか、まずいな」

 伊集院は再び修馬の脇腹を抱え、飛び上がる準備を整える。


「おい。お前ら、何をするつもりなんだ? さっきのは、一体何なんだよ!?」

 渡邉が問うが、これ以上彼らに説明している時間はない。


「あれがさっき言った妖怪だ! もしも何も起こらなかったら、俺が馬鹿なことを言ってたんだと笑いものにすればいいから、とりあえず今は連絡出来る人に拡散して、皆でここから……、長野から離れるんだ!!」


 語気を強めそう言うと、伊集院は地面を蹴り空に飛び上がった。渡邉たちの驚く声が下方から聞こえてくるが、気にしている場合ではない。


 伊集院はここまで来た時よりも速い速度で、東南東に向けて飛んでいく。

「くそっ!! 間に合ってくれよ!!」


 消防車と始めとする様々な緊急車両のサイレンが、けたたましい音を立て町中に響いている。それは修馬たちが飛ぶ上空まで、大きくこだましていた。

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