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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第33章―――
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第198話 白剣と妖刀

 そこは帝都レイグラードの目抜き通りと、城に続く広小路が交差する大きな十字路。その中央で『剣聖』エンリコ・ヴァルトリオと対峙する修馬は、微かな震えを悟られないように体全体に力を込め、背の高い相手を見上げるように睨んでいる。


 この男は間違いなく強い。まず身長が190センチメートルくらいありそうなのだが、異常な威圧感のせいでそれより更に大きく感じてしまう。それこそ2メートルを軽く越えているのではないかと思えるくらい。


 シャンディ准将もマリアンナも、アルフォンテ王国王宮騎士団のミルフォードでさえも、手を出すことが出来ないでいる。それ程までに他を圧倒しているのだ。


「……さて、久しぶりに骨のある者と戦えそうだな」


 エンリコは金色に装飾が施された壮麗な鞘から、長剣を引き抜いた。その刃は純白と呼ぶにふさわしい白く美しい剣身だった。見る者の目を虜にしてしまう、芸術品の如き長剣。


 周りの破壊された建物からは、まだ煙がくすぶっている。不快な焦げの臭気が鼻先を通り過ぎ、修馬は顔をしかめながら考えた。

 まずはどの武器で戦うべきだろうか? 相手は世界最強の騎士だ。様子を見ていたら、あっという間に命を奪われるかもしれない。


「悪いが、一瞬で終わらせる!」

 心を決めた修馬は、右手の中に魔導銃を召喚し素早く引き金を引いた。白煙を上げ、弾丸が発射される。


 だが銃口の先にいたエンリコは、瞬間的にその姿を消した。

 目を見開く修馬。そして刹那の後、白刃の長剣を振りかざしたエンリコが、突然斜め前に姿を現した。


「えっ!?」

 予想を遥かに超える素早い動きに、体をすくめることしか出来ない修馬。だが背負っていた白獅子の盾が独りでに反応し、頭上近くでエンリコの攻撃を弾き返してくれた。


「ほう、自律防御の盾か……。中々良い反応をしている」

 渋みのある声でそう言いにやりと笑うと、エンリコは目にも止まらぬ速度で追撃を放ってきた。


 白獅子の盾で防ぎながら後退していく修馬。エンリコの剣は、時折予測出来ない軌道から飛んでくるため、自身の力だけではどうしても防ぐことが出来なかった。攻撃速度が速いとかいうレベルの話ではない。


「修馬っ!! エンリコの持つ剣は星魔法が備わっていて、僅かだが時間を操作することが出来るらしいぞっ!!」

 離れたところにいる伊集院が声を上げた。


「えっ、時間っ!?」

 苦し紛れに今一度、魔導銃の引き金を引く修馬。


 だが銃口の先にいたエンリコは、一瞬で修馬の目の前に移動すると、両手で握る長剣をゴルフのスイングのように振り上げた。剣の切っ先が当たり、修馬の持つ魔導銃は遠くに吹き飛ばされてしまう。


如何いかにも。この白剣はっけん『時知らず』は、自分以外に流れる時間を遅くすることが出来るのだ。貴殿は一瞬で勝負を決めたかったようだが、瞬間を制するのは、むしろ我輩の得意とするところ」


 エンリコが掲げる白刃の長剣。彼は星魔法の備わったそれを使って瞬間的に移動し、銃撃をもかわしていたというのだ。

 何とも恐ろしい性能の武器ではあるのだが、条件はさほど変わらない。何故なら修馬には武器召喚術があるのだから。


「……だったら、これでどうだよ?」

 修馬は手の中に、白剣『時知らず』を召喚した。己の武器をコピーされたエンリコだったが、彼はあざ笑うように目を細めた。


「貴殿のその能力は話に聞いていた。しかしこの白剣『時知らず』、一朝一夕で扱えるものではないぞ」

「……そうみたいだな」


 修馬自身もその剣を手にした時に、そのことを何となく理解出来ていた。この剣は星魔法の使い手でないと、その力を発揮出来ないのだ。つまり修馬にとっては、これはただの長剣。


 エンリコが一瞬で近づき、高速の剣撃を浴びせてくる。

 時間を止めることが出来ない修馬は、辛うじてその攻撃を防ぐと、涼風すずかぜの双剣を召喚し後方に跳んで一旦距離を空けた。


「逃げ足には自信があるようだな」

「言ってろよ、おっさん!!」


 離れた位置から凄む修馬は、アメリカ製のサブマシンガン、イングラムM10を召喚しその引き金を引いた。自動で連射される9㎜パラベラム弾。エンリコはそれを左右にかい潜り、更に前進してくる。


「出でよ、王宮騎士団の剣、並びに妖刀『迷わし』!!」

 マシンガンを捨て両手に剣を召喚した修馬は、接近してきたエンリコの剣を左手の王宮騎士団の剣で防ぎつつ、右手の妖刀『迷わし』で斬りつけた。


 エンリコは白剣『時知らず』での攻撃を王宮騎士団の剣で防がれた瞬間、目にも止まらぬ速さで剣を返し、妖刀『迷わし』による攻撃を防いだ。瞬間を制しているのはエンリコ。だがそれは同時に油断も生んでいた。妖刀『迷わし』の攻撃は、常に二段構え。


 幻影のように現れた妖刀による二発目の剣撃が、右脇腹の鎧の隙間を鮮やかに斬り裂く。


「なんとっ!?」

 予測出来なかった攻撃に驚愕するエンリコ。しかし驚いたのは彼だけではなかった。剣撃を放った修馬自身も、逆方向に現れた剣撃に戸惑いを覚えている。この妖刀『迷わし』の性能が、いまいち理解出来ていない。


「魔剣の類か……。邪悪な気配が感じられるぞ」

 傷口もそのままに、攻撃を仕掛けてくるエンリコ。修馬は慣れない二刀流のまま、打ち合いに応じた。


 互いに軌道の読めない攻撃を繰り返す。

 王宮騎士団の剣の自律防御で防ぎながら、妖刀『迷わし』で連続攻撃を放つ修馬。しかしエンリコは、たった1本の剣でそれを凌いでくる。剣速で勝つことは出来ないようだ。


 ならば手数を増やそうと、防御は白獅子の盾の自律防御に任せ、妖刀『迷わし』と王宮騎士団の剣による三連続攻撃を繰り出した。すると数回に一度当てることが出来るようになったが、いずれも銀色の鎧に阻まれ決定打には至らない。


「我輩の重金鎧じゅうきんがいは、通常の倍の強度を誇る特注品。そのような軟弱な剣では、傷一つつけることは出来ぬ!」

 そう言って殺気を放つエンリコ。修馬が思わず瞬きをしてしまった次の瞬間、目前まで迫ってきていたエンリコが高速の剣撃を浴びせてきた。


 激しい金属音が何度も鳴り響き、目の前が真っ白になる。

 修馬は白獅子の盾と王宮騎士団の剣を駆使し攻撃を防いでいたが、何度目かの攻撃で完全に防ぎきれず、剣の上から左肩を押し斬られてしまった。


 斬られた左肩が、焼かれたように熱を帯びる。

「くそっ!! だったら、鉛の弾でも喰らいやがれ!」


 鬼の形相で睨んだ修馬は、妖刀『迷わし』を振りエンリコとの間に僅かに距離をあけると、剣を手放しつつアメリカ製の散弾銃『ウィンチェスターM1300』を召喚し、至近距離から引き金を引いた。


 甲高い発砲音と共に放たれた装弾が、エンリコの鎧に着弾する。すると彼の大きな体は、思い切り後方に吹き飛び地面に背中を滑らせた。だがエンリコは、すぐに片膝をつきその巨体を起こす。見事に命中したものの、やはり鎧が頑丈なのか大きなダメージを与えるほどではなかったようだ。


「だけどこれで、傷の一つもついただろうがっ」

「ぬかせ!」


 互いに息を切らす2人が、再び向き合った。

 剣撃を与えることはそれほど出来ていないが、体力は確実に消耗させていると予想できる。何故なら星魔法の使い手であるアイルが玉藻前たまものまえとの戦いで時間を止めた時、かなりの魔力を消費しているようだったからだ。同系統の術を使い続けているエンリコの疲労は相当なはず。


 次で決着をつけよう。

 修馬は重力を軽減するホッフェルの靴を最大限に使い、高く前方に跳んだ。それを仁王立ちで待ち構えるエンリコ。


 速度では敵わない修馬は、更に手数を増やす必要があった。マシンガンを召喚するのも良いが、一瞬で懐まで近づいてくるエンリコが相手では、銃器をメインで戦うにはリスクがある。


 防御の要である王宮騎士団の剣と、連続攻撃出来る妖刀『迷わし』はどうしても外すことが出来ない。修馬は再び2本の剣を召喚する。


 これでは先程と変わらないのだが、修馬はサッシャとの修行の中で色々なことを教わっていたことがあった。常識に捕らわれない武器の使い方や、その可能性について。武器の召喚が1つしか出来ないなどという決まりはないこと。2つ同時に出来る可能性はあるし、それが出来るというならその上だってあるのかもしれない。


 宙を舞う修馬は、両手それぞれに武器を持った状態で更にもう1つの武器を召喚してみせた。

「出でよ、流水の剣『白線』!!」


 白い帯状の水流が放たれたのは、修馬の右足からだった。

 飛び蹴りでも放つように足を向けると、靴の裏辺りから白線が伸び地上に飛んでいく。


 時間を止めて白線を避けたであろうエンリコが、修馬の目の前に現れた。後退する可能性も考えられたが、彼もそろそろ勝負を決めたいようだ。受けて立とう。


 修馬の左手に持つ王宮騎士団の剣が、エンリコの攻撃を防ぐ。そしてすぐに妖刀『迷わし』を振り上げたが、その連続攻撃は時間を止めたであろうエンリコに丁寧に防がれてしまった。


 しかし攻撃はこれで終わりではない。

 体をひるがえした修馬は、ふらつくエンリコに回し蹴りを放った。


「出でよ、涼風の双剣『鎌風』!!」

 左足の蹴りと共に、かまいたちのような見えない斬撃が襲い掛かる。


「ぐ、はっ!!」

 腹部から鮮血が舞い散り、のけ反るエンリコ。


 修馬は畳みかけるように、妖刀『迷わし』で激しく斬りつけた。1発目こそ剣で防がれたが、2発目は兜と鎧の間を通り、彼の頸動脈を見事に斬り裂いた。傷口からは大量の鮮血が溢れ出す。


「おおぉぉぉっ!!!」

 周りから上がる、大きな歓声。


 そして世界最強と謳われた騎士エンリコ・ヴァルトリオは、そのまま卒倒し背中から地面に倒れた。


「この勝負、俺の勝ちだな」

「……み、みご、と」


 王宮騎士団の剣を逆手に持った修馬は、腹部と腰の間にある鎧の隙間にその刃を真っすぐに突き立てた。

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