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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第33章―――
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第196話 義侠の騎士

「アレを止められるほどの術が使えるとは驚いたぞ、シューマ」


 手を差し伸べてくるシャンディ・ビスタプッチ准将。修馬はその手を掴むが、膝が震えそこから立ち上がることが出来ない。


 暗黒魔導重機の動きが止まってしまったことで、帝国側は士気は大きく下がっているように見える。兵士の数では五分五分だったが、今は共和国と王国の連合軍が圧倒していると言えるだろう。


 手を借り、どうにか上半身を起こした修馬の元に、鋼鉄の甲冑を身に纏う糸目の騎士が近づいてきた。帝国軍ではないが、味方というわけでもない。そこにいたのはアルフォンテ王国王宮騎士団団長、ミルフォード・アルタインだ。


「まさかこの戦場で出会うことになるとはな。これも運命というものか……」

 ミルフォードの握る王宮騎士団の剣の切っ先が、自由に身動きの取れない修馬の体に向けられる。彼と会うのは、帝国砂漠地帯での戦い以来だ。あの時は逃がしてもらえたが、今回はそうもいかないらしい。


「ミルフォード卿。彼は帝国と戦う同志ですよ」

 シャンディが擁護してくれるものの、ミルフォードの剣は下がらない。


「お久しぶりですね、シャンディ准将。しかし敵の敵は味方という単純な理屈は、この私には通用しませんぞ。そもそもこの者は、素性すらも定かではないですからね……」


「素性ならわかっています。彼は……、シューマは黄昏の世界の人間です」


 シャンディが真剣な口調でそう言うと、剣を握るミルフォードの糸目が、更に細くなった。つまらない冗談でも聞いているかのような顔だ。


「……それは、どういう意味ですかな?」

「お聞きになった通りです。比喩の類ではありません」


 微妙な空気が漂い、皆言葉を失う。そんなこう着状態に、1人の女の声が突然戦場に鳴り響いた。


「シューマッ!! ここはあたしが助太刀する!!」

 巨大な剣を抱え、駆けてくる女。それは虹の反乱軍隊長、アーシャだ。


 彼女は体全体を使って大剣『跳ね馬』を振り、ミルフォードに襲い掛かった。ミルフォードの持つ王宮騎士団の剣、それと大剣『跳ね馬』がぶつかり耳障りな音が鳴る。

 2人は互いに跳ね飛ばされ後方に退くと、体勢と整えて再度武器を構えた。


「何故アルフォンテ王国軍が、あたしたち反乱軍の邪魔をするのか?」

「我々が同盟を組んでいるのは、ユーレマイス共和国だけ。どこの馬の骨ともわからぬ者に、戦場で背中を預けるつもりは毛頭ない」

「……話が通じないようだな。ならば、力でねじ伏せるだけ!」


 2人の戦士が、帝都レイグラードの大通りで火花を散らす。アーシャは身の丈ほどある大剣を片手で操り、ぐるぐると回転しながら横に薙いでいく。ミルフォードは重みのある大剣での攻撃を王宮騎士団の剣で丁寧に受け止めつつ、反撃のチャンスを狙っていた。


 城の方角に移動しながら剣を打ち合っていくと、やがて凱旋橋の上に行き着いた。形勢はアーシャが制しているように見えるが、ミルフォードもまだ力を秘めているだろう。

 修馬の見立てでは、2人の間に力の差はそれほどない。勝負を決めるのは、経験値、それと運。


 攻めていく中で、アーシャは凱旋橋の僅かな段差につまづき体勢を崩してしまった。当然そこを見逃すミルフォードではない。


「勝機っ!!」

 剣を構え跳び上がるミルフォード。


 これはまずいかと前のめりになった修馬だったが、その時不意に頭上からガラスの割れる音が鳴り響いた。見上げると、城の3階の窓を砕いて1人の女騎士が外に飛び出してきた。それは、ヴィンフリートと戦っているはずのマリアンナだった。


 凱旋橋に砕けたガラス片が降り注ぐ。

 身を屈めるアーシャと剣を振り上げるミルフォードの間に落下してきたマリアンナは、くるくると器用に体を回転させミルフォードの剣を弾きつつ、見事に着地を決めた。


「君は副長!? いや、元副長。これは一体、何のまねだ!」

 ミルフォードは糸目を薄く開き、マリアンナを威嚇する。しかし彼女もそれどころではないのか、元上官を無視し、自分が落ちてきた窓を睨むように見上げた。


「……来るぞっ!!」

 マリアンナは声を上げる。


 そしてその宣言通り、残っていた窓枠を破壊しつつ天魔族のヴィンフリートがそこから飛び出してきた。その後を追うように伊集院も飛翔魔法を使い滑空してくる。


「喰らえ、アイシクルスピアッ!!」

 伊集院は空中で氷で出来た槍を投げる。真っすぐに飛んでいった槍状の氷はヴィンフリートの腹部に突き刺さり、そしてそのまま貫いていった。


 城下町にヴィンフリートの断末魔が響く。

「ぐあぁぁぁぁぁっ!! お、おのれ……」


 そして凱旋橋の上で待ち構えるマリアンナは、深く息をつくと落ちてきたヴィンフリートを王宮騎士団の剣で逆袈裟に斬り上げた。


 右腰から左脇にかけて真っ二つに切断されたヴィンフリートは、あっという間に体全体が真っ黒な灰になり、つむじ風と共にその場から散っていった。

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