第195話 暗黒魔導重機
市街地大通りをガタガタと音を立てて走行する暗黒魔導重機。
修馬は涼風の双剣を使用し浮きながら平行移動すると、途中でアメリカ製のサブマシンガン、『イングラムM10』を召喚しその引き金を引いた。連続で発射される9㎜パラベラム弾。しかしそれでも暗黒魔導重機の鋼の装甲には、傷一つつけることが出来なかった。随分頑丈な素材で造られているらしい。
一度地面に着地し、周囲を囲んでいた帝国獣魔兵をイングラムM10で一掃する。さて、雑魚を倒すのは朝飯前だが、あのでかい戦車を破壊するのは、現代の武器を持ってしても容易いことではない。果たしてどうしたものか?
「シューマ、危ないっ!!」
大声が聞こえてきて咄嗟に身構える修馬。背後でドサリと音がしたので振り返ると、そこには剣を持った帝国憲兵団が血を流し倒れていた。そして空から、その傍らに着地するココ。どうも彼が助けてくれたようだ。
「ありがとう、ココ。少し考え事してた」
「考え事? ああ、あの戦闘車のことだね。魔法も全然効かなくて、どうやって倒したらいいのか、僕にも見当がつかないよ」
大魔導師と呼ばれるココでさえも、あの暗黒魔導重機の攻略の仕方がわからないという。魔法も銃器も通用しないとは、本当に厄介な敵だ。
ココは襲い掛かってきた帝国獣魔兵を魔法で火達磨にすると、「けど、一つだけ朗報があるよ」と言って東の方角を指差した。見ると市街地の入り口に、大量の兵士たちが隊列を組んで進んできている。
「……あれは?」
「多分、アルフォンテ王国軍だよ」
「王国軍!?」
修馬が驚きを見せると、またも空から人が落下してきた。そしてその人物は、地面にうちつけた背中を痛そうに押さえると、同じように「王国軍!!」と叫ぶ。それはアルフォンテ王国の間者、ユーカだった。相変わらず空は飛べるのに、着地は下手なままだ。
「もうゴルバルの関所を抜けてくるとは、流石我が軍。これで軍勢では、逆転したのではないか?」
現段階では帝国軍の数の方が勝っているようだが、共和国騎兵旅団と虹の反乱軍の中に、アルフォンテ王国軍が加われば、数では圧倒出来るかもしれない。
だが帝国には暗黒魔導重機がある。それをどうにかしなければ、幾ら兵士が増えようとも意味はないだろう。
「よし、わかった。この状況を打破するため、俺は今から一か八かの超必殺技を発動させる!」
イングラムM10を投げ捨てた修馬は、暗黒魔導重機の正面に立ち、力強く身構えた。
「超必殺技!? 何それ、超楽しみ!!」
「超必殺技だ!? ふざけてるのか? 超馬鹿っぽい」
それぞれの反応を示す、ココとユーカ。だがこの技を目の当たりにしたら、2人とも必ず言葉を失ってしまうはずだ。
「いいか。この場にいる、全員の度肝を抜いてやる……。出でよ、『RPG-7』!!」
修馬が何かを抱えるような姿勢を取ると、右肩上部の空間がぐにゃりと歪んだ。そしてそこに召喚されたのは、弾頭が装填された大型のグレネードランチャー。これはロシア製擲弾発射器、RPG-7だ。
「何、その武器!? でけー! 長いっ!!」
「槍か鈍器かわからないが、その構え方は何だ!? 戦う気あんのかよ!?」
若干おかしなテンションになっている2人を無視し、修馬はRPG-7をしっかりと肩に固定させた。
「お前ら、耳塞いどけ! 鼓膜が破けても知らないぞ!」
そう警告し、正面に狙いを定める。この武器を使用するのはこれが初めてだが、標的はこちらに向かって真っすぐに移動しているだけなので、比較的狙いやすいはずだ。風穴を空けてやる!
修馬は震える指をトリガーにかけ狙いすました後、息を止めそれを引いた。
とてつもない爆音と衝撃が辺りを支配する。白煙を上げながら飛んでいった細長い榴弾は、加速度を高めながら進んでいくと、暗黒魔導重機の正面に見事着弾した。車体から上がる、赤い炎と黒い煙。それは上出来すぎるビギナーズラックだった。
「シューマ、すげぇぇぇっ!! 大砲が吹っ飛んだよ!!」
歓喜するココ。修馬のいる位置からでは煙でよく見えないが、上手く暗黒魔導重機の砲台を潰すことに成功したようだ。
出来ればもう一発喰らわせて機動力も奪いたいが、大技だったため体力の消耗が激しい。
立っているのも辛くなった修馬が地面に片膝をつくと、暗黒魔導重機は異音を上げながらキャタピラを停止させた。砲台以外にも、損傷を与えることが出来たのかもしれない。
「ユーカ、今がチャンスだ。暗黒魔導重機の中に入って、動力炉を止めてきてくれ!」
呆然としているユーカに、修馬が声を上げる。ユーカが我に返ったように大きく頷いたのを確認すると、修馬は膝立ちから前のめりに倒れてしまった。
地面に顎を乗せた修馬の虚ろな目に、暗黒魔導重機に向かって走るユーカの後ろ姿が映る。そしてその後を追うココの姿も確認できた。2人は暗黒魔導重機の上でハッチを見つけると、強引に扉を開け乗り込んでいった。
これで一安心かと思ったが、2人と入れ替わるように入口から1人の憲兵団員が出てきた。あれは操縦者だろうか?
「やってくれやがったな、くそ野郎っ!!」
汚い言葉を吐き、こちらを睨むサーベルを持った人物。それはこれまでに何度か会ったことのある、帝国憲兵団大佐、フィルレイン・オズワルドだ。
あいつか、まずいな。
そう思いはするものの、どうしても身動きを取ることが出来ない修馬。
フィルレインは怒りの形相で、こちらに向かって駆けてきた。魔眼と呼ばれるルビーのような右の瞳が不気味に光り、彼の持つサーベルにオレンジ色の炎がまとわりつく。
「灰燼と化せっ!!」
焦げの臭気と炎の熱気が、辺りを覆う。
するとその時、うつぶせに倒れる修馬の頭上を何者かが跳び越えていった。
武器と武器がぶつかり、激しい金属音が響く。
フィルレインは血反吐を吐くと、魔眼でない左が白目を剥き、無残にも倒れた。
「凡人の魔眼……、やはり口ほどにもないな」
修馬を跳び越えフィルレインを一刀で倒したのは、共和国騎兵旅団准将、シャンディ・ビスタプッチだった。