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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第33章―――
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第190話 夢幻の少女

 凍らずの港から出発した修馬たちと虹の反乱軍。

 帝都レイグラード北西に位置する渓谷地帯を抜け、一行はようやく中心部である城とその城下町が一望出来る丘に辿り着いた。


「少々きな臭いな……」

 強力な嗅覚を持つマリアンナ。つまりそれは比喩ではなく、実際に火薬の臭いが漂っているということだ。


「もしかするとアルフォンテ王国軍は、思っている以上に帝都の近くまで攻めてきているのかもしれませんね。それこそ、関所の町ゴルバルくらいまで進軍している可能性もあります」

 その横に陣取るユーカが言う。彼女の情報によると、アルフォンテ王国軍は開戦と同時に国境近くのバンフォンの町を落としているということだった。


「ゴルバルか……。帝国の戦力が上手く分散してくれていれば、城にも攻めやすいのだがな」

 そう言って、城下町から城に視線を動かすアーシャ。

 そういえば彼女と初めて会ったのは、今名前が出た国境の町ゴルバルだった。そこから帝都まではかなり近いが、関所になっているのでアルフォンテ軍がそこを越えるのは容易ではないのかもしれない。


「だが城の中に入ればこっちのもんだ。中の構造は俺が大体把握しているからな」

 ドヤ顔で語る伊集院。彼は一応帝国内では幹部クラスの扱いだったので、城の中も自由に行き来していたそうだ。役に立っているようで何よりである。


「じゃあ、さっさとおっ始めようぜ。暴れたくて肩がうずうずしてきた」

 脳みそが腹筋のように六つに割れていると思われる船大工のベックは、何も考えずに右肩を回している。


「待ちたまえ、ベック。やみくもに暴れて勝利出来る相手ではない。どうやって攻めるか検討しようじゃないか」

 船魔道士のアルカが場を諫めると、彼とアーシャを中心に隊員たちが円状に集まってきた。


 戦術を立てることを得意としない修馬は、円の一番後ろでその様子を伺う。どんな奇抜な戦略でも、基本的にはそれに従うつもりだ。


「まずはどこから入城するのが良いと思う、イジュ?」

 ココが聞くと、伊集院は咳払いをしながら円の中央にやってくる。そして杖の先端で、地面に地図らしきものを描き出した。


「レイグラード城には東西南北全てに入口があるが、周りを囲む堀を渡るための橋が南側にある正門前の『凱旋橋がいせんばし』以外は全て跳ね橋で、基本的には閉じてしまっているはず。有事である今なら尚のことだ。飛翔魔法が使えないのであれば、南から攻めるしかない」


 伊集院の描いた地図を見て、口元を押さえるアーシャ。

「ふうむ。跳ね橋ねぇ……」


 何かを考えているようなので、言葉を止める伊集院。修馬も何となく視線を反らすと、少し見上げた宙空に小さな光の粒が浮かんでいるのが見えた。何だろうと思いつつ、修馬はそれをぼんやりと見つめる。


(……あなたには、私が見えるの?)


「ん?」

 誰かに話しかけられたような気がして、修馬は大きく振り返った。しかし集まった円の一番外側にいたので、当然背後には誰もいない。

 妙だなと思いつつ体を正面に戻すと、先程の小さな光が二回りほど大きくなって宙を漂っていた。


 まさかこの光が?

 そんな思いで見つめていると、突然光がこちらに突っ込んできて、修馬の眉間にぶつかった。それと同時に視界が真っ白くなり、そして暗転してしまう。


 突然広がる真っ暗な世界。仲間たちは誰一人いなくなったが、修馬の目の前には1人の子供がいた。白い仮面を被っているのでよくわからないが、多分、女の子だ。


「私の名前は『アッカ』。お兄ちゃん、一緒に遊ぼう」


 女の子は両手を伸ばしそう誘ってくる。訳のわからないこの状況に一歩後ずさる修馬。幻覚でも見てるのか?


「……それは無理だ。俺はこれから戦いに行かなくちゃいけない」


「戦争? 人が人を殺すのね」


「戦いだけど、戦争じゃない。戦争を止めるために、俺たちは戦うんだ」


「争いごとは、もうたくさんなの……」


 少女が俯くと、修馬の視界は夢から覚めるように次第に晴れていった。目の前に広がるのは、元いた場所の景色。


 今のは、白昼夢か何かだろうか? 

 しばし呆然とする修馬だったが、自分の置かれた状態が、それどころではないことに気づき真っすぐに立ち上がった。意識が暗転する前までいた仲間たちが、一人残らずいなくなっていたのだ。


 ここはさっきの場所ではないのか?

 そう思い、注意深く辺りを確認する。地面には伊集院が描いたざっくりとした城の地図が残っていた。場所は同じ。ということは、仲間たちがどこかに消えてしまったのか?


「シューマ! 何してるの?」


 不安になっていたところに突然降りかかる聞き覚えのある声。顔を上げると、丘の下から飛翔魔法で飛んできているココの姿が目に映った。嬉しさと動揺で、気持ちがあたふたしてしまう。


「コ、ココ! みんなは? みんなはどこに行ったの?」

「えー……。もう、レイグラード城に攻めていったよ」

 それが至極当たり前であるかのように言ってくるココ。まあ、当たり前なのかもしれないが、ちょっと待って欲しい。


「俺が寝てる間に、行っちゃったのかよ」

「シューマ、眠ってたの?」


「いや、眠っていたというか、なんというか……」

 修馬が見ていたのが夢でなければ、寝ていたわけはないのだが、あれは一体何だというのだろう?


「みんな気分が高揚していて、ある程度の作戦が決まったら我先に攻めて行ったからねぇ。シューマがついてきていないことに気づいたのは、しばらくしてからさ」


 軽く笑いながら話すココ。けどそれが本当なら、こんなところで油を売っているわけにはいかない。


「それはやばいね。急いで追いかけよう」

 現状に気づいた修馬は、その場から立ち上がり涼風の双剣を召喚する。


「やばいよ。おいしいところ、ぜんーぶイジュに持っていかれちゃう」


 ココは飛翔魔法で浮かび上がると、丘の下に向かって飛んでいく。修馬も双剣から風を噴かせると、それを追い越す勢いで坂を下っていった。

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