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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第33章―――
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第189話 ハイン・ライヤー・ウェーデルス

 勝負だ……、ハイン。

 心の中でそう呟き、修馬は登っていたリーナ・サネッティ号の手すりを蹴った。


 両手に持つ涼風の双剣が突風を吹かせると、ハインのいる桟橋の上に高速で突っ込んでいく。しかしそれを迎えるハインは、その場を動こうとしない。


 あっという間に距離を詰める修馬。20メートル、10メートル、5メートル……。そして手に持つ翡翠色の短剣を振り被ろうとしたその時、ぎりぎりのタイミングでハインは上空に向かって飛び上がった。攻撃を避けられてしまった修馬は、桟橋の上で靴を滑らせ、弧を描くようにしてブレーキをかける。


「俺の涼風の双剣が役に立っているようで何よりだ。折角だから、ついでにもっと良い使い方を教えてやる。喰らえ、涼風の双剣『鎌風かまかぜ』!!」


 空中に留まるハインは、その場で双剣を何度も振り抜いた。同時にブーメラン状のエネルギー体のようなものが、天から降り注いでくる。尋常でない数だ。


 慌てて涼風の双剣を投げ捨てた修馬は、すぐに王宮騎士団の剣を召喚した。白獅子の盾と王宮騎士団の剣に備わる自律防御で、どうにかその攻撃を凌いでいく。


「涼風の双剣をありがとよ。けど俺が使えるのは、それだけじゃないんだぜ! 出でよ、流水の剣『白線』!!」

 手のひらを天空に向けると、そこからレーザービームのような真っ白い帯状の水が伸びていった。


「うわっ!!」

 空中でのけ反るハイン。当たったのかはわからないが、数枚の羽根のはらはらと空から降ってくる。


 サッシャから教わったこの『白線』という技。彼は5本同時に出現させることが出来たが、今の修馬には精々2、3本出すのが限界だった。しかし今は、その限界の力を超えなければいけない時。


 再び修馬は、天に向かって流水の剣『白線』を放った。始めに右手で3本放ち、続けて左手で3本放つ。これでサッシャをも超える白線。しかしハインは、その6本の白線をジグザグに避けながら急降下してくる。


「やるじゃねぇか、シューマ!!」

 2人は桟橋の上で勢いよくぶつかり、激しく火花が散らす。ハインの双剣での攻撃を、修馬は流水の剣で見事に防いでいた。


「流水の剣の使い方は、サッシャ直伝だからな」

「ふん! あいつめ、本当に余計なことをしてくれたもんだ」


 涼風の双剣で連続攻撃を仕掛けてくるハイン。流水の剣と白獅子の盾で防ぐも押されていき、何度目かの攻撃で流水の剣を弾き飛ばされてしまった。


 目を光らせ、喜色を浮かべるハイン。

 そして深く腰を落とすと、両手の双剣を交差させるように前方に振り抜いた。


 2本の短剣で体を挟み斬るような攻撃。しかし修馬はバク宙のように後方に回転し移動しながら、その攻撃をかわした。


「何!?」

 ハインの想像の上をいく修馬の動き。そしてそのまま地面を蹴り前へ跳び出すと、妖刀『迷わし』を召喚し逆袈裟に斬り上げた。


 耳をつんざくような金属音が、連続で響く。そのまま交差する2人。妖刀『迷わし』による連続攻撃は2本の短剣によって見事に防がれたようだ。ハインはその場で高く飛び上がり、空中に避難する。


「涼風の双剣を使わずに、そんな動きが出来るようになったのか? 目まぐるしい成長だ」


「修行の成果だけでもないさ。俺にはこの、ホッフェルからも貰った靴があるからな」


 ホッフェルの造った靴。それは重力を軽減させる力があった。

 その能力を使い、垂直に高く飛び上がる修馬。そして涼風の双剣を召喚した修馬は、浮揚するハインに向かって風を噴かせ水平に突っ込んでいった。


 そこから始まる激しい双剣の打ち合い。修馬とハインは空を滑空しながら、全力で剣をぶつけ合った。


「成程、地属性の靴か。良い物を手に入れたな。しかし俺には翼がある。空中戦で分があるのは俺だ……。涼風の双剣『鎌風』!!」


 再び襲い掛かる、ブーメラン状のエネルギー体。空中であったが、修馬はすぐに涼風の双剣を捨て、新たな武器の召喚を計った。


「出でよ、流水の剣『水鏡みかがみ』!!」

 水で出来た円盤状の障壁が目の前に出現し、降り注ぐエネルギー体を防ぐ。だが滑空能力を失った修馬は、徐々にその高度を落としていった。ホッフェルの靴で重力を軽減しつつ、桟橋の上に軽やかに着地する。


「ならば、これで止めを刺すっ!!」

 翼を閉じたハインは空中で身構えると、そこから真っすぐに突っ込んできた。


 迎え撃つ修馬は、初代守屋光宗『贋作』を召喚し、鞘と柄を強く握りしめる。

「望むところだ!!」


 体が交差したその刹那、2人の接点に閃光が走った。


 双剣を前にかざし矢のように飛んできたハイン。だが修馬の放つ抜刀術に弾かれ、双剣は粉々になって吹き飛んだ。ハイン自身も胸部に深い斬撃を刻み、受け身も取れずに桟橋の上に叩きつけられる。


 勝負あり。

 ぐったりと倒れるハインを見て、修馬は『贋作』を鞘に納めた。嬉しくも哀しくもない、何とも言えない感情に支配される。あえて言葉にするならば、それは虚しいものだったのかもしれない。


 リーナ・サネッティ号から、仲間たちが下りてきた。何か言葉をかけてくれるかと思ったが、彼らは「えっ!?」と声を上げると、その場で足を止めた。


 不穏な空気を感じ、振り返る修馬。

 最初はハインが立ち上がったのかと思ったのだが、そうではなかった。ハインは血を流し倒れたままだったが、その傍らにどこからやってきたのか、全く別の男が立っていたのだ。まるで見覚えのない、白い軍服を着たがたいの良い男。


「お前……、もしかしてリクドーか?」

 そう口を開いたのは伊集院だった。しかし軍服の男は何も答えない。


「リ、リクドー……だと? こんなところに、何をしにきた?」

 瀕死のハインが顔を上げてそう聞くと、軍服の男は面倒くさそうにため息をついた。


「無様な姿だな。魔族よ」

「何だと……」

 這いつくばりながらも、歯を食いしばるハイン。軍服の男は、気味が悪い程生気の無い目でハインを睨んだ。


「帝国に弱者はいらぬ」


 震えるほどの殺気を感じ、身をすくめる修馬。

 そしてその瞬間、軍服の男はその大きな足でハインの頭部をいとも簡単に踏み砕いた。桟橋の上に、真っ赤な血と肉片が派手に飛び散る。


「お、お前……。お前、ハインに何してくれてんだ!!」

 信じがたい状況に肩が震える修馬。対するリクドーは、またも面倒くさそうに「はぁ」とため息をついた。


「何故、怒る? そもそも、こいつを半殺しにしたのは貴様の方だろうが」


 確かにこいつの言う通り、ハインの胸を斬り裂いたのは修馬だ。しかしこれは、2人が本気で戦った結果なのだ。後から来た事情も知らない奴が止めを刺すことなど、絶対にあってはならない。


 修馬はアメリカ製軍用オート拳銃『コルトガバメント』を召喚し、引き金に指をかける。

 それと合わせるように、いつの間にか背後まで来ていたアーシャたちも、軍服の男に武器を構えた。

 

 だが終始気だるそうな態度の軍服の男は、全く戦うそぶりも見せない。ただ首を左から右に動かし全員の顔を一瞥していくと、ユーカの顔を見てその動きを止めた。


「おい、女。お前は妙な魔玉石を持っているようだな。それは何だ?」

 1対複数のこの状況になっても、傲慢な態度を崩さない軍服の男。怯んでいるのは、むしろユーカの方だった。彼女は言葉を返すことも出来ずに、胸を押さえ小さく震えている。


「答えぬと言うなら、私が当ててやろう。お前が持っている魔玉石は、恐らくアルフォンテ王国の国宝である『光の結晶』。我らが帝国軍の最終兵器『暗黒魔導重機』を止めるために、そんなものまで手に入れるとは恐れ入ったな」


 軍服の男が言ったのは憶測のことなのだが、彼はそれを確証しているかのように言う。確かにユーカは暗黒魔導重機を破壊するという使命がある。その光の結晶という魔玉石が暗黒魔導重機に有効だというならば、所持していてもおかしくはない。


「お前たちは戦争で、暗黒魔導重機を使用するつもりなのか?」

 銃口を向けたまま、修馬は尋ねる。暗黒魔導重機はユーレマイス共和国の『悪魔の雷』に並ぶ闇の兵器。その使用だけは何としても避けなければならないのだ。


「……さてな。あんなものを使わなくてもアルフォンテ王国に勝利することは出来るだろうが、事態は急速に変化している。アルフォンテ王国はユーレマイス共和国と同盟を組んだらしい。帝都に共和国騎兵旅団が攻めてくるのも、最早時間の問題。さすれば皇帝陛下も、暗黒魔導重機の使用を認めざるを得ないだろうな」


 最初は無口な印象だった軍服の男だが、何故か彼は自分たちの手の内を惜しげもなく話してくる。一体どういうつもりなのだろうか?


「伊集院。こいつは一体、何者なんだ?」

 修馬が問うと、伊集院は闇堕ちの杖を構えたまま、生唾を飲み込んだ。


「リクドーは帝国近衛団で副長を務める男。だがこいつの不誠実な振舞いは、帝国内では有名だった。団長のエンリコ・ヴァルトリオ様も、リクドーに関しては苦慮していると聞いている」


 自分の悪評判を直接聞かされているリクドーだったが、その表情は特に変化しなかった。終始つまらなそうに、虚ろな目をしている。


「リクドー……。もしかして、お前の裏には誰かいるのか?」

 更に伊集院は、そのように尋ねた。修馬も思っていたことだが、この軍服の男は存在自体が怪しいのだ。味方ではないだろうが、単純に敵として見るのも違う気がしてしまう。


「私が忠誠を誓っているのは、皇帝陛下ただ1人。暗黒魔導重機がこちらの手にある以上、戦争で負ける道理はない。もしもお前たちが光の結晶を持っていて、それを暗黒魔導重機の動力炉にぶち込むことが出来るというのなら話は別だがな……」


 それだけ言うと軍服の男は、堂々と背中を向け、そこから去っていってしまった。

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