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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第33章―――
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第188話 凍らずの港

 夏季は閉まっているはずの水門を潜り、湾内へと進入していく虹の反乱軍の船、リーナ・サネッティ号。

 奥には寂れた漁港があるのだが、その岸壁には人間の体に鳥の頭部と翼を持つ半人半鳥の魔物がずらりと並んでいた。その数はざっと見て100はいるかもしれない。


 甲板の上で武器を構える虹の反乱軍の隊員たち。だが、半人半鳥の魔物は翼があるにも関わらず、飛んできて襲い掛かろうということはしなかった。皆、こちらの船が着岸するのを待つように、じっくりと見守っている。


 船は岸に隣接された木製の桟橋に近づいていく。その桟橋の先端には、現実世界でサッシャが言っていた通り、ハインが木箱の上に腰をかけ待ち構えていた。久しぶりに会えて嬉しいというわけでもなく、出来ればこんな形で再開したくなかったという感じでもない、何とも言えない表情をしている。


「久しぶりだな、兄弟。鍛錬は続けていたようだな」

 マントを羽織ったハインが、その場から立ち上がる。


「ああ。俺はあれから強くなった。それこそ天魔族にも負けないくらい」

 船で近づきながら修馬が答えると、ハインの周りにいる魔物が、こちらに向かって「ギャーッ、ギャーッ」と威嚇しだした。人語を話せる種族ではないっぽい。


「……そういえばクリスタを倒したらしいな。シューマがやったのか?」


 ハインの言う通り、クリスタ・コルベ・フィッシャーマンとはベルクルス公国で戦っていた。しかし奴を倒したのは、修馬ではない。


「クリスタを倒したのは俺だよ」

 横にいた伊集院が一歩前に出る。それを見たハインは、驚いたように目を大きくした。


「お前はヴィンフリートの弟子の、確か『天稟てんぴんの魔道士』だったか?」

「おい、その通り名を二度と口にするな! 俺は俺を騙したヴィンフリートを絶対に許さないし、天魔族は根絶やしにすると決めたんだ!!」


 穏やかじゃない言葉を口にする伊集院。周りの魔物共は「ギャーッ、ギャーッ!」と更に声を上げだすが、当のハインは若干嬉しそうに頬を緩めた。


「ほう。ヴィンフリートの野郎を嫌っているのか? お前とは気が合いそうだな」

「うるせーっ!! お前ら天魔族は、全員まとめて嫌ってるんだよ!」


 感情的に喚く伊集院を押さえ前に出る修馬。リーナ・サネッティ号は桟橋に着岸すると、静かにその進行を止めた。


「一つ提案なんだが、俺はハインとサシで戦いたい。ここは一騎打ちで勝敗を決めないか?」


 帝国到着早々、大きな戦いは出来れば避けたいというのはアーシャの意向。だが元より修馬は、サッシャに凍らずの港でハインが待っていると教えられてから、1対1の戦いを望んでいたのだ。

 何故かはわからない。どうしてなのか、ハインに強くなった姿を示さなければ先に進めないような気がしているのだ。


「一騎打ち……か」

 ハインが羽織っていたマントを脱ぎ棄てると、右腕を天に掲げ指を鳴らした。


 音を合図に、一斉に飛び上がっていく半人半鳥の魔物たち。その影によって、一瞬にして空が暗くなる。そして翼を羽ばたかせた魔物たちは、編隊を組んで東の空へと消えていった。


「ふふふ。受けてやろうじゃないか、一騎打ち。四枷よつかせ、ハイン・ライヤー・ウェーデルスが相手する!」


 ハインは邪号と呼ばれる隠し名を口にした。

 すると背中から猛禽類のような大きな翼が生え、顔の上半分と上半身の一部が茶色い羽毛で包まれた。これが天魔族としてのハインの本当の姿。


「来い、シューマ!! それとも、その船の上を戦場にしてやろうか?」

 声色が変わり、凶暴性が増すハイン。だが、ハインと出会った頃ならいざ知らず、そんなことで恐れる修馬ではなかった。


 船べりの手すりの上に上った修馬は、ハインの武器である『涼風の双剣』を召喚した。翡翠ひすいのような色が特徴の2本の短剣。

「アーシャ。悪いけどこの戦いは、手出し無用でお願いする」


 そんな修馬の望みに対し、アーシャは仏頂面でこう答えた。

「……良いだろう。だが、1つ条件がある」


 条件……?

 手すりの上で振り返り、無言のまま言葉を待つ修馬。アーシャは何かを考えるように腕を組むと、にこやかな表情で顎を上げた。


「いいか、絶対に勝て! 負けることは許さん。そいつが条件だ」


「了解。約束する……」


 涼風の双剣を持つ修馬の周りにつむじ風が発生する。それが海風と交じると、閉じかけていた船の帆にぶつかり、ボッと大きな音を立てた。


「シューマがどれだけ腕を上げたか、船の上で確かめさせて貰う」

 アーシャのその言葉を聞いた修馬は、手すりに乗ったまま背中越しに小さく頷いた。


「アルフォンテ王国から始まり、二度目の帝国に辿り着いた俺の旅の成果。ここで存分に発揮させてやる!」

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