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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第32章―――
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第186話 水術の修行

「それがアメノハバキリですか……。形は私が想像していたものに近いですねぇ。では、剣身は如何でしょうか?」


 そう聞いてくるのは、天魔族、四枷よつかせのサッシャ。

 修馬は完成した天之羽々斬あめのはばきりを腰に帯び、お披露目のために祠の外へと出ていた。当然見せることが目的なので、剣を抜くのはやぶさかではない。


 日本刀のように反りが無い分、素早くは抜刀は出来ない。鞘の向きをずらし静かに引き抜くと、鏡のような刀身が日の光を反射し、きらりと輝いた。


「流石はお父様の打った剣。美しい刀身です」

「いや。いつもの綺麗なだけの刀身じゃない。何か胸が高鳴るような、不思議な感覚がある」

 葵の言葉に対し、茜が若干の異を唱える。


「わかるのですか? 茜」

「わかるに決まってる! 見てるだけでも、光の鼓動が聞こえてくるみたいだ」

「……へぇ」


 感心するように葵が声を漏らすと、それに重ねるようにサッシャが「はぁ……」と感嘆の息を吐いた。


「シューマ。その剣、私が持ってみても良いですか?」


 どこか優し気にそう尋ねてくるサッシャだが、彼は天魔族のウェルター・ハブ・ランダイムと同様に、天之羽々斬あめのはばきりを奪うためにこの世界にやって来たのだ。持たせてくださいと言われて、「はいどうぞ」と二つ返事で答えるわけにはいかない。


 剣を鞘の中に納める修馬。

 だがそんな思いとは相反して、修馬は鞘に納めた天之羽々斬あめのはばきりを大事に握り、サッシャに対し献上するかのように差し出した。何故そんなことをしたのだろうか? この時の感情は修馬本人さえも、あまり理解出来ていなかった。


 両手で剣を受け取ったサッシャは、鯉口を切って僅かに鞘を動かした。20センチほど見える刀身をまじまじと観察している。そういえば彼は、玉藻前たまものまえから右腕を奪い返していたが、いつの間にかそれも元に戻り、普通に動かしているようだった。随分とワイルドな生命力である。


「これが、龍神オミノスを討つことが出来る剣……。見事なものです」

 鞘に納めたサッシャは頭を下げ、天之羽々斬あめのはばきりを返してきた。受け取った修馬は、再び腰のベルトに鞘を通す。


 しかし武器召喚術を持つ修馬は、武器を携帯する必要がどこにもないので、こうして帯刀しているのは今だけのことだ。非常に文化的価値が高い物になるだろうし、山を下りたら然るべき場所に保管して貰うことにしよう。


「そのアメノハバキリがあれば、先程のあのお方を倒すことも可能でしょうね」

 サッシャが言うあのお方とは、勿論、玉藻前のことだ。奴のことを思い出すだけで、闇特有の不気味な寒気が蘇ってくる。


「けど、玉藻前は何らかの力が復活して……、多分前よりも強くなってしまったんだよね?」

 そう聞くと、サッシャは真剣な表情で深く頷いた。


「ええ、そうですね。あの時にも言いましたが、二重属性の魔物を相手する場合、それぞれの弱点が効きづらくなる傾向があるので、折角のアメノハバキリもその効力が半減してしまうかもしれません」


 淡々と事実を述べるサッシャ。だがそのもう一つの力を蘇らせてしまったのは、修馬が白狐の木面を破壊してしまったことによることだ。その責任は自分自身で取るしかない。


 自責の念にかられる修馬が難しい顔で黙っていると、それを気遣ったのか、サッシャが朗らかな顔で肩に手を置いてきた。


「……ですがご安心ください。シューマには、私が特別に水術を教えて差し上げます。それで、闇属性と火属性を兼ね備える玉藻前にも太刀打ちが出来るはずですよ!」


 自信満々に言ってくるサッシャ。しかしながら、今は一時的に同盟を結んでいるくらいなのだから、直接サッシャが水術で戦ってくれればいいような気がするが、それは駄目なのだろうか?


「水術って言うけど、俺は魔法の類は一切使えないよ」

「それは存じております。教えるのは水術というより、流水の剣の正確な使い方ですね。勿論、タスクも茜さんも水術はお手の物でしょうが、もしかすると玉藻前の火術は我々の想像を上回る力があるかもしれません。皆が水属性の攻撃を使えるようになった方が効果的でしょう。ただ一番の理想は、茜さんに私の氷術の力を伝授してあげることなのですが、それは叶いそうにないもので……」


 哀し気に語るサッシャ。少し離れた大欅の下にいる茜は、こちらに向かってアッカンベーをしている。何でかはわからないが、余程嫌われているようだ。


「でも、サッシャは? サッシャの力があれば、この天之羽々斬あめのはばきりの力と合わせて、玉藻前を倒せるんじゃないの?」

 そう聞くとサッシャは、木漏れ日の落ちる大欅を見上げた。大きく広がった枝葉が揺れ、少しだけ冷たい山の風がお堂の前を吹き抜けていく。


「残念ですがあと数時間の後、私はこの世界を去ることになるでしょう」


 それはアイルも言っていたことだが、世界間を移動する『星巡り』の秘法には精霊との間に時間的な契約があるらしい。つまり次に玉藻前が現れる時には、もうサッシャはこの世界にいないということだ。


「向こうに戻ったら、こっちの世界にはしばらく来れないの?」

「ええ。今は帝国の方が忙しいですからねぇ。理由は言わなくてもわかると思いますが……」


 意味深な表情で視線を向けるサッシャ。どうやらこれから我々が、帝国に入国しようとしていることがばれてしまっているようだ。隣国のベルクルス公国で、国が亡ぶほどの大暴れをしたのだから、まあ仕方がない。


 修馬が仏頂面で口をつぐんでいると、サッシャ表情を緩めこんなことを言ってくる。


「帝都の北西にある『凍らずの港』でハイン・ライヤー・ウェーデルスが出迎えてくれるはずです。彼はシューマと戦えることを、心待ちにしているみたいですよ」


「ハイン!?」


 帝国にあるエフィンの村で出会った、ハインという名の天魔族。彼もサッシャ同様、修馬の異世界での旅で世話になった人物だが、彼が天魔族とわかった時点で、いつかは戦わなければいけなくなるだろうと心のどこかで感じていた。いや。むしろ、修馬も戦いたいと願っていたのかもしれない。それが帝国に着いてすぐに叶うのだ。


「凍らずの港……。そこにハインがいるのか?」

「はい。この時期は通常閉鎖されている、冬限定の漁港です。帝国の人間たちも虹の反乱軍が入国する情報は掴んでいますが、まさか凍らずの港から入国するとは思っていないでしょうからね」


 優し気に微笑むサッシャ。それはもしかすると我々にとって有利な情報……、ということなのだろうか?


「俺はサッシャの言うこと信じて良いのか?」


「それはどちらでも構いませんよ。私はハインに頼まれたことを、シューマに伝えただけですから。それよりも時間がありません。今は水術の修行をしましょう。『流水の剣』を召喚してください」

 そう言って、自らも流水の剣を手の中に出現させるサッシャ。


 修馬は少し考えた後、伊織に稽古をつけて貰うときのように深く頭を下げ、そして流水の剣を召喚した。


「よろしくお願い致します!」


  ―――第33章に続く。

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