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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第32章―――
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第185話 神聖なる剣

 玉藻前たまものまえが姿を消し、暑苦しい真夏の気温を取り戻した戸隠山。

 その騒動の後、修馬と友理那の2人は、大欅おおけやきほこらのお堂に中にいた。


「山奥までご苦労様でした。それではこれから、天之羽々斬あめのはばきりのお清めと御祈祷を始めます」

 横に座る巫女装束の珠緒は言った。


 屋外に比べ、涼し気な空気が漂うお堂の中。榊の枝で作られた神具を持つ珠緒は、清らかな表情でそれを振っている。玉藻前との戦いで闇を大量に浴びたので、大蛇神楽でやって貰った時より少し長めにお清めをして貰った。穢れが落ち、心が現れるような気分だ。


 それが済むと、隣の部屋から真っ白い神職の衣装を着た伊織が現れた。普段はぼさぼさの髪で作業着姿の彼だが、今日は烏帽子も被っていて雰囲気がまるで違う。


 伊織は両手で一振りの剣を掲げ、こちらにやってきた。あれが鍛造されたばかりだという剣。それを見た修馬は、自然と息を呑み込んだ。


「『贋作』と銘する物しか造れなかった高祖父も、その名をつけることを許してくれるはず……。納めてください。これが五代守屋光宗『天之羽々斬あめのはばきり』です」


 差し出される十字型の直剣。修馬は神妙な面持ちで、その剣を受け取った。見た目の以上の重量を腕に感じる。これが現代に蘇った、神の時代の剣。


「……こちらにどうぞ」

 伊織に勧められ、剣を受け取った修馬と友理那はそのまま奥の部屋へと通される。薄暗く中の様子はわからなかったが、後から蝋燭の灯りを持った伊織が入ってくると、部屋の中央に艶めかしい白肌を持つ、巨大な何かが鎮座していることに気づいた。


「うわっ!!」

 と驚いたのは修馬だけだった。友理那は中央にいる何かを目にしても、特に驚く様子は見せない。


「大きくなっているからわからないかもしれないけど、彼女はディバインよ」

「ディ、ディバイン!?」


 目を擦った修馬は、じっと中央を見据える。そこに居たのは紛れもなく友理那の守護神である純白の飛竜、ディバインだった。

 そういえば最近見てないと思ったら、いつの間にか巨大化していたようだ。以前は頭に乗る程度の大きさだったのに、今は4畳分くらいのスペースに寝転んでいる。成長期にも程がある。


 そして伊織が、蝋燭を使って部屋の四隅にある松明に火を移していく。部屋の中が炎の灯りで照らされると、寝ていた様子のディバインが薄く瞼を上げた。しかしどこかがっかりしたような顔をして、すぐにその目を閉じる。

「ここに来るまでずいぶん時間がかかったものだな、ひょうろく玉」


 開口一番、悪態をついてくるディバイン。成長しても、口の悪さは相変わらずのようだ。


「玉藻前っていう大妖怪が現れて大変だったんだよ。友理那が来てくれなかったら、普通にやられてるところだったし」

「そんなことはわらわも知っておる。思念体を飛ばして、空から観察していたからな」

「思念体?」


 よくわからない言葉だったが、それを聞き修馬はあることを思い出した。それは山登りの途中で、空に巨大な飛竜の影が現れたことを。


「もしかして崖の途中で見た飛竜は、ディバインだったのか?」

 修馬が言うと、ディバインは眉間に大きく皺を寄せた。


「……思念体は人間に見えるものではないのだが、まあ、見えてしまったのなら仕方ない。たまたま周波数が合ったのであろう。まあ、それはさておき、わらわが空から闇の領域で戦っているそなたちを確認し、ユリナに知らせてやったのだ。精々感謝するが良いぞ」


 ディバインにそう言われ、何だかわからぬまま頭を下げる修馬。彼女に口答えしても良いことはないというのは、これまでに学習しているのだ。


「色々あったようですが、皆さんが無事で良かった。修馬くん、剣を抜いてください。天之羽々斬あめのはばきり、最後の祈祷を行います」


 伊織に言われ、修馬は両手で水平に持った剣の鯉口を切る。そしてゆっくりと鞘の中から剣を抜き取ると、鍛えられた見事な刀身が現れた。その肌目はまるで鏡のようで、修馬の顔をくっきりと反射させている。


高天原たかあまはら神留かむづまりす……」


 どこか不慣れな口調で祝詞を読み上げる伊織。

 そんなつたない祝詞だったが効果はあるようで、ディバインの体が微かに発光しだした。そして、それと呼応するように、天之羽々斬あめのはばきりの鍔が光を放ちだす。気づいていなかったが、見ると鍔には、大きな蜻蛉玉が埋め込まれていた。


神漏岐かむろぎ神漏美かむろみ命以みこともちて、皇親神伊邪那岐乃大神すめみおやかむいざなぎのおおかみ


 歌うように読まれていく、意味もわからぬ言葉。友理那はそれを聞きながら、四隅にある松明の1つに蓋を被せた。ディバインは重たそうに首を上げると、修馬の持つ剣に鼻先を近づけた。埋め込まれた蜻蛉玉から、耳鳴りのような甲高い音が聞こえてくる。


筑紫つくし日向ひむかたちばなの、小門おど阿波岐原あはぎはらに、禊祓みそぎはらたまとき生坐あれませる、祓戸はらへど大神等おほかみたち


 そこから時計回りに部屋を移動していく友理那。そして順番に、残った松明も次々蓋をし消していく。炎の灯りは全てなくなったが、剣とディバインから放たれる光で目を開けるのが辛いくらい眩しくなってきた。


諸々もろもろ禍事罪穢まがことつみけがれを、はらたまひ、きよたまふと、もうことよしを」


 怯みながらも修馬は、真っすぐに剣を握っている。すると光は、その鏡のような刀身と蜻蛉玉に全て吸い込まれ、やがてディバインの体から光が途切れた。部屋の周りを歩いていた友理那も元の位置に座り、そして土下座するように深く頭を下げる。


天津神あまつかみ地津神くにつかみ八百万神等共やおよろずのかみたちともに聞こしせと、かしこかしこみもうす」


 耳鳴りのような音も消え去り、ゆっくりと目を開いた修馬は、何度か瞬きを繰り返した。

 松明の消えた暗い部屋の中で、薄っすらと光を帯びる天之羽々斬あめのはばきり。その刀身には、水面に光を投影したような美しい文様が浮かび上がっていた。

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