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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第4章―――
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第17話 星巡る

 修馬は机の上で膨らんだり縮んだりしているハンドボールサイズの黒い玉を、いぶかしげな目で眺めている。


「成程、貧乏神とは聞いていたが、俺の想像の斜め上をいくフォルムだな……」

「貧乏神とは無礼な。わし剛毅木訥ごうきぼくとつ金科玉条きんかぎょくじょうの軍神、『建御名方神タケミナカタノカミ』なり。儂のことは親しみを込めてタケミナカタと呼ぶがいいぞ」

 黒い玉は机の上で小さく跳び上がりながら、そう主張してくる。ちょっとだけ可愛い。


「あー、けど少し長いから、ナカタさんでいい?」

「何だその蹴鞠けまりで世界に通用しそうな名前は!? 却下じゃ。却下!」

 不満げな態度で体を横に振るタケミナカタ。少し気になる単語があったが、一々つっこんでると面倒くさそうなので、勝手に脳内変換することにする。蹴鞠はつまり、サッカーのことを言っているのだろう。


「神様も、人間のスポーツとか知ってるんだな」

「如何にも。全知全能ではないが、運動競技には少々覚えがある。今さっき召喚した鈍器も、本来は競技用の道具であろう? 競技名は確か野球だったはず……」


「そう、正解」

 サッカーが蹴鞠に変換されたように、またも雅な感じに改変されてしまうのかと思ったが、野球はさすがに野球のようだ。


「単純に説明すると野球というのは、つるつるの兜を被って互いに金棒で殴り合う戦闘競技である」タケミナカタは得意気に説明する。

「全然違う! 野球の球の字はどこいったんだ!?」

「球の字……? ああ、それはそうじゃな。タマの取り合い、取られ合いということかも知れぬ」


 何で野球が、暴力団の抗争みたいになってしまったのか? さすがに落ちぶれた神様と言われるだけあって、言っていることが支離滅裂だ……。思わず白眼視する修馬。だがしかし、彼のおかげで術が使えるようになっているのだから、多少の感謝はしなければならない。


「そういえば、武器召喚術が使えるのはナカータさんのおかげなんだってな。ありがとう」

「礼には及ばぬが、ナカータさんではない。建御名方神タケミナカタノカミである。軍神ゆえ、いくさでそなたが武具に困ることはないであろう。カカカカカカカカカッ」


 偉そうに笑うタケミナカタに少々うんざりしていると、修馬のその思いを代弁するように目の前にいる友梨那が「偉そうなじじいね……」と割と大きめの声で言ってきた。

 急な毒舌に面食らい、視線を上げる修馬。彼女はどういう立ち位置から、そんな悪態をつくのだろう?


「まともな魔法1つ使えない神がこの世にいるなんて、本当にびっくりするわ!」

「こらっ! 武器召喚術だって、充分凄いでしょ。あんな術の使い手、中々いないんだから」


 目前で繰り広げられる会話のやり取りを聞いて、瞬きを繰り返す修馬。いさめている方が友梨那で、ののしっている方が友梨那の頭の上に乗る純白の爬虫類的な謎の生き物。


「えーっ!! 何だその、でっかいトカゲはっ!?」

 わざとらしく大きなリアクションをとってしまう修馬。突然爬虫類が現れたこともそうだが、最早人間以外の生き物が喋ったくらいでは、それほど驚かなくなってしまっている自分がいる。人間の適応力は存外たくましい。


「むう。トカゲではない、奴はヤモリであろう」と、タケミナカタ。

「トカゲでもヤモリでもないわよ! わらわは『星巡りの白き竜』であるぞ」

 純白の爬虫類がそう言うと、背中からにゅるにゅると羽が生えてきた。そして翼を羽ばたかせ、友梨那の頭から飛び上がる。魔霞まがすみ山へ続く楼門ろうもんで見た小型の飛竜を、更に一回り小さくしたような姿だ。


「友梨那、その白い飛竜は何なんだ?」

 修馬が尋ねると、友梨那は右腕を高く上げ、飛んでいる純白の爬虫類をそこに留まらせた。


「彼女の名は『ディバイン』。私のことを加護してくれている神様よ」

 そう言われると、ディバインは爬虫類のくせに誇らしげな顔を浮かべた。


「いや、神様って何かこう、もっとあるじゃん! トカゲと黒玉って、イメージと全然違うんですけど!!」

 頭を抱える修馬。ディバインは友梨那の右腕をよじ登り、肩の上にしゃがみ込んだ。

「若いくせに固定概念に捕らわれ過ぎなのよ。ねぇ、ユリナ」

「う、うん。そうかもね……」


「ヤモリは家を守る神様みたいなもんじゃからな。頭の柔軟な儂は、このくらいのことで驚きはせぬ」

「うっさいわね、じじい! あんたの造形が一番おかしいのよ!!」

 わーわー言いながら、タケミナカタとディバインが喧嘩している。何でこいつらはこんなに仲良しなのか?


「お前らは元々知り合いなのか?」

「そんなわけないでしょ、ウスラトンカチ! こんなじじいとわらわが知り合いとか、へそでお茶が煮えくり返るわ! へそとかないけど」

「うむ、その通り。そこの娘っ子とは、昨日会ったばかりじゃ」

 タケミナカタは友梨那の顔を見て言う。


「昨日、修馬と屋上で会った時、タケミナカタが急にあなたの肩の上に現れたの。修馬はすぐに気絶しちゃったから覚えてないかもしれないけど……」

 そう説明する友梨那の横で、ディバインがこちらを見ながらけたけたと笑っている。なんか、精神的苦痛で胃痛がやばい。


「そういうわけで、儂らはすでに交流済みなんじゃ」

 タケミナカタの言葉を受け、「ふーん」と納得する修馬。屋上に行った時の記憶がごっそり抜け落ちてると思ったら、そういうことだったようだ。

 改めて2体の神様に視線を向ける修馬。トカゲと黒玉が喋ることに関しては順応することができたが、彼らが神様であることは、しばらく受け入れられそうにないと思う。


「ところで修馬は今、ココのお屋敷にいるの?」

 友梨那にそう聞かれ、修馬は小さく頷いた。

「う、うん」


「これからの予定は決まってる?」

「予定……?」

 修馬と友梨那は、2つの世界を行き来している。今日眠りにつけば、また異世界で目が覚めるのであろう。


 魔霞み山にあるココのお屋敷に滞在している俺は、これからどのような行動を取ればいいだろうか?

 元々はサッシャと2人で、グローディウス帝国のバンフォンという町に向かうはずだったが、現在はその目的を失ってしまっていた。とはいえ、アルフォンテ王国王宮騎士団から追われる身であることは今も変わりない。やはり当初の目的通り、バンフォンに向かうのが良いだろうか?


「しかし、あんたみたいなひょうろくだまが、よく魔霞み山の山頂まで登れたわね。悪運だけは神掛かってるってこと?」

「そう。全ては神である儂のおかげと言えよう。まあ、礼には及ばぬが……」

 好き勝手なことを言ってくる、ディバインとタケミナカタ。しかし、自律防御のついた王宮騎士団の剣や、悪運なんかもうまく絡まって生き残ることができたので、彼らの主張は概ね間違っていないのも事実。なので反論はできない。


 自称神様たちのどうでもいい話を聞き流しながら、修馬は異世界での出来事に思いを馳せた。

 土蜘蛛を魔法で始末してくれた、アシュリー。王宮騎士団から身を守ってくれた、サッシャ。そして、魔霞み山の山頂に連れて行ってくれ、そこにある屋敷に泊めてくれた、ココとイシュタル。様々な人の手助けを受け、危険な異世界を生き抜くことができた。しかしこれからは、己の意思と己の足でこの不可思議な状況を解決しなければならない。今までの旅は、言わばチュートリアル。本当の冒険は、ここからが本番なのだ。


「俺は魔霞み山を下りたら、バンフォンの町に行くよ」

 誰かに言われたからそうするんじゃない。これは自分自身で決めたことだ。


「バンフォン? 本当に? 私たちも丁度、バンフォンに滞在しているの。修馬さえ良かったら、合流してそこから一緒に行動する?」

 1人で旅をするという一大決意をした直後にきた、友梨那の優しき言葉。確かに同じく転移を繰り返す彼女と共に行動すれば、その謎が解明しやすいことは請け合いだ。このタヌキ顔は、絶対的に正しい。やっぱり可愛いは正義だったんだ!


「わかった。行く、バンフォン! よろしくっ!!」

 口にこそしていなかったが、前言は撤回。異世界でのソロプレイは無理があり過ぎる。他人の敷いたレールの上を走ったって、別に良いじゃない。人と人との助け合いって、とっても素敵なことだ。


「じゃあ、決まりね」

 背を向けた友梨那は、教室の後ろの扉まで歩を進め、そしてもう1度こちらに振り返った。

「私たちはバンフォンの町外れにある小さな修道院でお世話になっているの。一応追われている身だから長居はできないけど、そこで3日間だけあなたを待つわ」


 そう言い残し、教室を後にする友梨那。修馬はその後ろ姿に向かって、大きく声を返した。

「オッケー、わかった! 修道院だな。必ず行くから、そこで待っててくれ!」


 俄然やる気が出てきた修馬。仲間ができた安心感からなのか? それとも、美少女と一緒に旅ができる嬉しさからなのか?

 気勢が上がったことへの因果関係がはっきりしないまま、修馬もその教室を後にした。


  ―――第5章に続く。

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