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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第31章―――
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第176話 混乱の処刑台

 円形広場の中心にある舞台の上で、縄によって縛られた修馬は、同じく捕縛されたジーグラスとユーカを見てため息をついた。首元には雷鳥によって槍を突きつけられている。これは正に絶体絶命のピンチ。


「何で、一番目立つ舞台の中央に出てくるんだよ。飛んで火にいる夏の虫じゃないか」

 後ろ手に縛られた手首が痛む修馬は、腕の位置を動かしつつジーグラスに文句を言った。


「俺の見た地図では、階段を上ると円形広場の裏手に繋がっているはずだったんだが、昇降機の位置は少しずれていたみたいだ。すまない」

 申し訳なさそうに頭を下げるジーグラス。しかし今更どうしようもない。後はどうやってこの状況を打破するかだ。


 円形広場の周りには修馬たちの処刑を待つ野蛮な観客たちが、罵声でも浴びせるように野太い声を上げている。ユーカによると、客席にいる観客の多くは『母なる聖戦』の隊員らしい。奴らはこれが最高の娯楽であるかのように目を爛々とさせ腕を高く振り上げている。おおよそ理解出来ない連中だ。


 天から暑い日差しが顔に照り付け、思わず腰を落とす修馬。するとすぐに雷鳥の槍が薄く首に刺さり、たまらず背筋を伸ばした。以前雷鳥によって腹を貫かれたことが、どうしても脳裏に蘇ってしまう。


「……それでは今より、罪人たちの処刑を執行する!!」


 ざわめく円形広場に、ひと際大きな力のある声が響いた。それと共に一気に静まる観衆。

 しばらくすると、舞台の階段を軍師アスコーが神前の儀式でも行うように神妙な顔立ちで上ってきた。奴の手には土色の拳銃のようなものが握られている。こっちの世界にも、小型の銃が存在するらしい。


「処刑は明日だと言ったのにせっかちな男だ。ならばいい、アズベルト家の末裔よ。それ程までに望むのであればアルフォンテ王国の間者より先に、まずはお前から殺してくれよう」

 アスコーはそう言うと、ジーグラスに目掛けて銃口を向けた。首に槍を突きつけていた雷鳥は、その穂先を向けたまま距離を少しあける。


「ちょ、ちょっと待て……。そのちっちゃい武器が本当に『暗黒魔導重機』なのか?」

 そのタイミングで声を上げたのは、ユーカだった。彼女は何とも言えない不可解な表情をしている。


 アスコーは一度己の武器に目をやると、すぐに「ははははははっ」と馬鹿にするような笑い声を上げた。


「何が可笑しい!? お前はベルクルス公国の最新武器を処刑に使用すると私に言ったはずだ!」

「……やはり暗黒魔導重機のことは他国に漏れていたか。まあ仕方あるまい。しかし残念ながらあれは、私に制御出来るような品物ではない。この『魔導銃』よりも、遥かに恐ろしいものだ」


 言葉と共に引き金を引くアスコー。バンッという大きな銃声が鳴ると、ジーグラスの右腿から血が噴き出し、そして沈痛な声を上げながら地面に伏した。


「とはいえ、この魔導銃の威力も弓矢とは比べ物にならない程の威力。これが武力のない者でも充分に戦える、我が国の最新兵器だ。これで頭部を撃ち抜けば、人間の命などひとたまりもないだろう」


 魔導銃の目にも止まらぬ銃弾の速さを目の当たりにし、呆気に取られてしまうユーカ。

「そ、その武器よりも暗黒魔導重機は恐ろしいというのか……?」


「当然である。あれはそもそも、罪人の処刑に使うようなものではない」


 にやりと笑ったアスコーが再びジーグラスに銃口を向けたその時、突然どこからか大きな爆発音が鳴り響いた。円形広場の一部から黒い煙が上がり、爆心地の近くにいる母なる聖戦の隊員たちが混乱に陥っている。


「な、何事だっ!!」

 眉を吊り上げ、声を荒げるアスコー。すると上空にいたと思われる黒鳥が舞台の上に降り立ち、その場にうやうやしくひざまずいた。


「申し訳ありません、アスコー様! 賊の侵入を許してしまいました!」

「賊っ!? こんな時に何をしている!!」


 ざわめきが広がる円形広場。そして爆発に乗じて黒煙の中から何者かが攻め込んでくる。それはアーシャを先頭にした虹の反乱軍の隊員たちだった。


 アーシャは身の丈ほどある大剣『跳ね馬』を振るい、目の前の敵を雑草でも刈るように次々と斬り倒していく。流石は反乱軍の隊長だ。

 そして勢いに乗る虹の反乱軍に続き、飛翔魔法を使った伊集院とココが燕のように飛んできた。彼らもそれぞれ攻撃魔法を用い、逃げ惑う母なる聖戦を蹴散らしていく。軍勢では遥かに劣っているが、戦力に関してはこちらに分があるようだ。圧倒的無双状態。


「何をしている、黒鳥よっ!! 侵入者を迎え撃て!!」

 アスコーが叫ぶと、上空から無数の黒鳥が客席に向かって滑空していった。報告のために舞台の上にいた黒鳥も、鉤爪を強く握り舞台から飛び立つ。


 その黒鳥は未だ上がっている煙の中に向かっていったが、その寸前、何らかの攻撃を受けると、鮮血を散らしながらあえなく地面に落下していった。


 そして煙の中から、銀色の鎧を纏った女騎士が姿を現す。黒鳥を一撃で倒したのは彼女のようだ。


「ユーカッ!! ユーカは無事か!!」

 中央の舞台に向かって、大きく声を上げる女騎士。それはマリアンナだった。


「マリアンナ様っ!!」

 束縛されたまま、呼応するユーカ。処刑される予定だったユーカの情報を、マリアンナはしっかり掴み、救出に来たようだ。


「おお、生きていたかユーカっ! 今すぐに助ける!!」

 そう言うとマリアンナは、周りにいる黒鳥たちに白刃を振るう。黒鳥は強敵だが、今の彼女なら簡単に倒せそうだ。


「誤算だった。アルフォンテ王国と虹の反乱軍が手を組んでいたというのか……。雷鳥よ、ここは私1人で充分だ。お前たちも迎え撃て! 反乱軍どもに死の裁きを下すのだっ!!」


 アスコーの号令と共に、8人の雷鳥は白い翼を広げ、戦場となっている客席に飛んでいく。彼らは強敵だが大丈夫だろうか……? 捕らえられている修馬には、ただ祈ることしか出来なかった。


「ははは、これで終わりだ。黒鳥を倒すことは出来ても、雷鳥が相手では反乱軍如きに勝てる道理はない!」


 引きつった笑みを浮かべるアスコー。それと息を合わせるように、縛られているユーカがまるで嘲笑うかのようにふんっと鼻を鳴らした。

「……しかし、雷鳥を1人も残さなかったのは愚策だったな」


 ユーカは何事も無かったかのように立ち上がると、彼女を縛っていた縄がほろりとほどけ地面に落下した。

「残念だったね。私は捕まった振りをするのが得意中の得意なんだ」


「……なっ!?」

 目を丸くすると同時に、アスコーは素早く魔導銃を構えた。しかしユーカの動きの速さも負けてない。彼女は装備している鉤爪の風属性を利用し瞬時にアスコーの横に回り込むと、手を斬りつけ構えていた魔導銃を遠くに吹き飛ばした。銃は舞台から落下し、視界から消えていく。


「お前の負けだ、軍師アスコー。貴様の首は貰っていくし、暗黒魔導重機とやらも粉々に破壊する!」

 両手の鉤爪を構え、にじり寄るユーカ。だが対するアスコーは、どこか余裕のある表情を保っていた。まだ奥の手があるのだろうか?


「暗黒魔導重機を破壊するとは、実に愚かな発想だな」

「……何だと?」


「そう簡単に壊せるものではないのだ。あれはベルクルス公国と帝国、そして東ストリーク国の重工業の粋を結集した兵器なのだからな!」


 こんな状況にも関わらず、得意気にそう語るアスコー。不審に感じた修馬が彼の顔を凝視すると、その視線が修馬たちの背後に向けられていることに気づいた。


「伏せろっ!! ユーカ!!」

 殺気を覚えた修馬が咄嗟にそう叫ぶ。すると後ろから眩い閃光が突き抜け、前方にいるユーカの体を一直線に貫いた。この攻撃は……?


「ははは。雷鳥よ、アルフォンテ王国の間者はアズベルト家の末裔共々ここで始末してしまえ!」

「はっ!!」


 振り返り確認すると、そこには低い位置で羽ばたく雷鳥がいた。1人だけだが、いつの間にか舞台に戻ってきてしまっていたのだ。

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