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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第31章―――
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第174話 捕らわれた間者

 修馬とジーグラスは地下通路の分岐点を左に曲がり、『円形広場』と呼ばれているガーランドの城の処刑場に向かっている。


 特に会話もなく黙々と歩いていたのだが、しばらくすると何やら前方からひそひそと喋る人の声のようなものが聞こえてきた。互いに顔を見合わせる修馬とジーグラス。


 何か居る……。

 2人は無言のままにそう確認し合うと、息をひそめ忍び足で壁沿いを進んだ。前方からの声は徐々にはっきりと聞こえてくる。


「泣きそうな顔をしているな。まあ、これから殺されるのだから当然か」

「泣いたところで処刑が延期になることはない。諦めてとっとと歩け!」


 そんな会話が聞き取れ、修馬はジーグラスの肩を指で突いた。彼も理解したように大きく頷く。前にいるのは、これから処刑されるアルフォンテ王国の間者と、それを処刑場に連れていくガーランドの手下たちのようだ。手下は少なくても2人以上はいる。


「……行くか?」

 小声で尋ねるも、ジーグラスは譲るような仕草で手を前に差し出した。彼は守りの専門家で攻撃は不得手のようだ。盾は2枚持っているのに、武器は何も装備していないので仕方といえば仕方がない。


「出でよ、涼風の双剣……」

 静かに武器を召喚すると、通路の中に一陣の風が吹き抜けた。


 数10メートルは先にいると思われるガーランドの手下たちも、その突風で異変に気付き慌てるように声を上げる。しかしその時にはもう遅かった。


 涼風の双剣で風を出力した修馬は、一足飛びで狭い通路を突き進む。その先に居たのは鉄製の手枷をつけられた小柄な女性と、それを囲む黒装束の兵士が4人。黒装束の兵士は、あの『黒鳥』のようだ。


 滑空したまま双剣の刃を向ける修馬。円を描くように移動しながら、戦闘準備の整わない黒鳥たちを次々と薙いでいく。


 3人を一瞬の内に倒し、残る1人には鉤爪かぎつめで攻撃を跳ね返されてしまったものの、すぐに銃を召喚し至近距離からそいつのこめかみに鉛の弾を喰らわせた。

 跳ねるように卒倒する黒鳥。中央にいる小柄な女は、圧倒されたように口を塞いでいる。


「もう大丈夫だ。俺たちは敵じゃない」

 修馬はそう伝えるが、小柄な女は口をつぐんだまま何も喋らない。


「大変な目に合ったな。あんたアルフォンテ王国の間者だろ? 名前は言えるか?」


 後からやってきたジーグラスにそう聞かれると、小柄な女は無駄に大きく「はぁー」とため息をつき両腕を下した。するとその拍子に、女の両手首にはめられていた手枷が勝手に外れ、ガシャリと地面に落下する。


「誰だか知らないが余計なことをしてくれたな! 私は捕まってなどいない。一芝居打って、捕らわれた振りをしていただけだ」


「は? 捕らわれた振り!? 何でそんなことを?」

 意外な返答に頭が混乱する修馬。小柄な女は苛立ったように足元の手枷に蹴りを入れるが、鉄製で意外と頑丈だったのか、足先の痛みを堪えるように顔をしかめた。


「……それについて答える義理はないっ!」

「何でだよ、折角助けてやったのに!」


「何度も言わすな。私は任務のために捕まった振りをしていただけだと言っただろ!」

 近づいてきた小柄な女は、修馬の首根っこを掴むと脅すように腕の力を強めた。だがそんな状況の中で、意外なことに小柄な女は涙を流していた。


「……何で、泣いてんだよ?」

「泣いてなどいない! 私がアルフォンテ王国のためにやってきたことが、全て無駄にされたのが虚しいだけだ」

 そう言って涙を拭う小柄な女。救出したはずが、何だかとても申し訳ないことをしてしまった気分になる。


「余計なことをしたなら悪かったね。俺たちの仲間にもアルフォンテ王国の騎士がいるから、助けなきゃって思ったんだよ。悪気は無いんだ」


「王宮騎士団が仲間だと? 嘘をつけっ、本当なら名前を言ってみろ!」

「名前ねぇ……」


 マリアンナ・グラヴィエ。

 その名を告げると、小柄な女は顎が外れるほど大きく口を開いた。


「マ、マリアンナッ!? 王宮騎士団副長のマリアンナ様のことか!?」

「様……? 知ってるのか?」

「当たり前だ、私の剣の師匠だぞ! マリアンナ様が、お前たちのような者と知り合いなはずはない。仲間だというのなら証拠を見せろ!!」


 仲間の証明。残念ながらそんなものは持ち合わせてなかった。だからといって言葉だけで彼女を説得することは出来ないだろう。


「証拠になるかわからないけど、とりあえずこれを見てくれ。……出でよ、王宮騎士団の剣!」

 その場で腕を振ると、修馬の手の中に一振りの剣が召喚された。マリアンナが持つ、アルフォンテ王国王宮騎士団の剣。とりあえずこれで納得してもらうしかない。


 奇妙な術に驚いたのか、始めは遠巻きに見ている小柄な女。しかし暗くて良く見えないのか少しずつ近づいてくると、最終的には鼻先を近づけ、様々な角度からその剣を眺めた。


「この柄頭に刻まれているのは、間違いなくヴィヴィアンティーヌ家の紋章……。お、お前ら本当に敵じゃないのか?」

 わなわなと震える小柄な女。どうにか懐柔出来そうなので、修馬はほっと肩を撫でおろした。


「ああ、信じてくれ。俺たちは処刑される君を助けにきたんだ」


 そう言うと小柄な女は、目尻を震わせながら瞼を細め、歯を食いしばるように唇を一文字に広げた。いかん、これは泣く直前の表情だ。


「うえーんっ!!」

 案の定、涙をぽろぽろと流しだす小柄な女。だがその状態で抱き着いてくることまでは想定していなかった。突然の出来事に体が硬直する修馬。


「本当は初めての単独任務で不安だったんですよぉ! えーん!!」

 小柄な女は、まるで幼子のようにえんえんと泣く。深呼吸で心を落ち着かせた修馬は、とりあえず泣き止むまで、その胸を貸してやった。その間、横にいるジーグラスが白い目でこっちを見ていたが、俺は何もやましいことはしてないはずだ。


「……申し訳なかった。私の名はユーカ・スレイヴル、『暗黒魔導重機』なる最新兵器を破壊するという任務でこの国にやってきた」


 泣き止んだ彼女はそこでようやく己の名を言った。そして、この国にやってきたその目的も。


「まあ色々あったけど、暗黒魔導重機を破壊したいというのなら運が良かったな。俺たちもそのつもりで、これから円形広場に行くつもりだったんだ」

 

 そう。修馬の目的も危険度の高いその兵器を使用させないために、処刑を止めに行くつもりだったのだ。ただその辺りをきちんと理解してなかったジーグラスは「そうだったのか?」と言って首を捻った。しっかりと説明しておくべきだった。


「これはあくまで俺の想像だけど、暗黒魔導重機はただの武器じゃない。使用されることになれば対象者だけでなく、その周りの多くの命が奪われるはずだ。2人ともこれだけは肝に銘じていてくれ」

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