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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第29章―――
165/239

第164話 条件

 それから休憩を挟みつつ、幌馬車に揺られること約半日。日も完全に沈むと寝ていたベック・エルディーニもようやく起きて、これからについての話し合いに参加していた。


「ガハハハハハッ! まさかこの国でシューマと会えるとは思わなかった。全く嬉しい偶然だ!」

 ベックは陽気な高笑いを車内に響かせながら、修馬の背中をバンバンと叩いている。迎え酒とばかりに飲んでいる葡萄酒のせいで、朝だというのに酒臭い。


「偶然ではないさ。あらかじめシューマには、ベルクルスに向かうことを伝えていたからね。これは必然というものだよ、ベック」

 アーシャも薄く笑顔を浮かべ頷いている。修馬はそのことについてあまりピンと来ていなかったが、しばらくしてユーレマイス共和国の小さな漁港で別れた時に、北にあるどこそこの国に向かうと言っていたことを思い出した。そういえばベルクルスへ行くと言っていたような気もする。


「どっちでもいいさ。俺はシューマと一緒に酒が飲めることが嬉しいんだ。また黄昏の世界の話でも聞かせてくれ!」

「ああ、そうだね……」


 自分たちの世界の話をするのはやぶさかではないのだが、言ったとしてもまた馬鹿にされるような気もするから正直そこまで乗り気にはなれない。


「そういえば、こいつも俺と同じ黄昏の世界の住人だよ」

 修馬が目の前に座る伊集院を指差して言うと、彼は露骨にうんざりとした顔を浮かべた。だが基本無神経なベックは、そんな心の機微を気にするはずもなかった。


「何!? お前もシューマと同じ黄昏の住人か! こいつはいい。ガハハハハッ!」

 そう言ってベックは大笑いするが、伊集院は一度こちらを睨んだ後は不機嫌そうに眉をひそめ、終始仏頂面を崩さなかった。まあ、ベックのことが苦手なタイプの人間だったのだろう。


「ベック。黄昏の世界もいいが、今はこれからの話をしようじゃないか」

 そして空気の読めるアーシャが話の流れを変えた。そう我々は首都ベルディスクに遊びに行くわけじゃない。


「俺たちは首都ベルディスクに行って、そこから帝都に向かうつもりなんだ」

 修馬が答えると、アーシャは驚いたように背筋を伸ばした。


「この時期に帝都だと……? 戦争でも始めるつもりか?」

「その逆だよ。戦争を止めるために、皇帝に会いに行く」

 修馬が自分に言い聞かせるようにそう宣言すると、今度はベックだけでなくアーシャも合わせて大きな笑い声を上げた。やっぱり、反乱軍は失礼な連中だ。


「全くシューマの口から出る言葉には、相変わらず度肝を抜かされる。皇帝に直訴するのか? 戦争は既に始まっているというのに、そんなこと出来るはずもない」

「わかっているさ。だけどこのままじゃ、帝国を中心に世界は大きな戦争へと発展してしまうし、もしかするとそれ以上に大変なことが起こるかもしれない。俺たちはそれを止めるために、どうしても帝都レイグラードに行かなくちゃいけないんだ!」


 修馬は自分の仲間たちと顔を見合わせる。ココは龍神オミノスを封じた時空の扉を、帝国の手によって開放させないために。伊集院は自分のことを騙していた帝国に復讐するために。マリアンナは天魔族の手から友理那を救出するために。

 それぞれの思いが交差し、皆静かに首を頷かせる。俺たちは戯言を言っているつもりはない。全員本気なんだ。


「……冗談じゃないのだな?」

「当然」


 修馬が即答したのを確認すると、アーシャは自分の顎を押さえて「うーん」と小さく唸った。

「言った通り戦争はすでに始まっているから、港から船で行こうにも帝都行きの船には簡単に乗船出来るとは思えない。だからといって陸路では遠回りになる上に、険しい山道を行かなくてはならないぞ」


「……そ、そうなのか」

 そこまで考えていなかった修馬は、目を泳がせて仲間の顔を伺った。皆難しい顔をしているが、マリアンナだけは表情を変えずにじっとしていた。彼女は船に乗れない可能性があることに気づいていたのかもしれない。


「ここまで来たのなら仕方あるまい。帝都へは陸路で向かうことにしよう」

「いや。だがもう一つだけ選択肢がある!」

 マリアンナの言葉に被せるように、アーシャが声を上げる。


「シューマたちが本気で帝都に行きたいというのなら、あたしたちの船、リーナ・サネッティ号を出してやってもよい」


「ほ、本当か?」

 それを聞き、胸の音が高鳴る修馬。これで一気に帝国までの道筋が出来た。


「だが連れていくには一つだけ条件がある」

「……何?」


 その条件とやらを聞くために静まる車内。幌馬車のガタガタとした走行音だけが修馬の耳の奥を響かせる。


「あたしたちは首都ベルディスクで仲間たちと合流した後、母なる聖戦に攻撃を仕掛けるつもりだ」

 それは前日にも聞いたことなので修馬は「うん」とだけ言い、ただ頷いた。


「どうだ。シューマたちもあたしたちの戦いに参加し、共に母なる聖戦を打ち倒さないか?」

 アーシャは覗き込むように修馬の目を見ると、いたずらな微笑を浮かべた。

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