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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第29章―――
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第162話 宣戦布告

 クリスタ・コルベ・フィッシャーマンとの戦いに勝利し、村にあるジーベルトの家で一晩休んだ修馬たちは、夜が明けると共に村を発ち、首都ベルディスクへと向かっていた。


 朝露で濡れた細い雑草を踏みしめ、まだ青白い空を眺める修馬。幾らか冷えた空気を肺の中に吸い込み、気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと吐き出す。ここからは徒歩での移動となるので、また長い旅になるのだろうか。


「しかしまあ、こんな時期に帝国に行くなんて馬鹿げた連中だ。まさか、戦争でもしにいくつもりじゃねぇだろうなぁ?」

 ジーグラスは両手に盾を持ったまま腕を高く上げ、大きなあくびをした。彼はこんな態度だが、わざわざ港のあるベルディスクまで修馬たちを案内してくれるのだという。意外と優しい男だ。


「戦争はしないよ。むしろ俺たちは、戦争を止めるために帝国に向かってるんだから」

 修馬が言うと、ジーグラスは鼻を頭を指で掻きながら目を虚ろにさせた。


「止まりゃしないのよ、戦争なんてものは。すでに帝国は、アルフォンテ王国に宣戦布告をしたらしいからな。ユーレマイス共和国がそれに参戦するもの最早時間の問題だよ」


「は? アルフォンテ王国に宣戦布告……」

 聞いたこともない情報にはっとした修馬は、マリアンナの顔をそっと伺った。当然、アルフォンテ王国出身の彼女は表情が凍り付いてしまっている。


「ジーグラス、それは本当のことか?」

「ああ。発表があったのは、つい先日のことさ。このベルクルス公国からも大量の武器が帝国に渡ったみたいだ。中でも帝国と共同開発していた大型兵器『暗黒魔導重機』も遂に完成したみたいだから、アルフォンテ王国は万が一にも勝てる可能性はないだろうな。うん」


 彼の口から出た暗黒魔導重機という兵器の名は、以前共和国騎兵旅団のシャンディ准将から聞いたことがあった。共和国が開発した『悪魔のいかづち』と並ぶ、帝国の闇の兵器だ。それらは現実世界の核兵器にも似た効果があるようなので、使用することになれば間違いなく多くの犠牲者を出すことになるだろう。


「おい、マリアンナ。大丈夫か?」

 眩暈でも起こしているかのようにふらついているマリアンナに対し、珍しく伊集院が気遣いを見せている。聞かれた彼女は動揺を隠すように一度目を瞑ると、静かに瞼を開け小さく息をついた。


「……帝国との戦は、元々想定していたことだ。問題ない。それより、お前の手の調子はどうなんだ? イジュ」

「手……? ああ、今はすっかり回復している。もう大丈夫だ」


 一時は石化されてしまっていた自分の左腕を眺める伊集院。そういえばこの2人は、それほど仲が良くなかったはずだが、何故だか今は距離感が少し近い気がする。昨日のクリスタとの戦いで、紅斑瘡こうはんそうの細菌から身を挺して守ったことで彼女の中の気持ちに変化があったのかもしれない。


「けど戦争が始まっているのなら、急がなくちゃだね。世界を巻き込む大戦になる前に!」

 ココの言葉に皆が頷き、そして歩く速度を少しだけ上げた。目指す首都ベルディスクへは、徒歩でどのくらいかかるのだろう。馬車でもあればよかったのだが、ラズールの村にあったのは牛車だけだった。あれでは借りることが出来たとしても徒歩でいくのと速度は変わらないだろう。


 そんなことを思い畦道を歩いて行くと、東の方角からガタガタと大きな音が聞こえてきた。目を向けると道の向こうから一台の幌馬車が走ってくる。


「こんなところを走る馬車とは珍しい。旅人か?」

 首を捻るジーグラス。だがそんなことはどうでもいいと、伊集院はここぞとばかりに前に出た。


「向かってる方向は、俺たちと一緒みたいだな。あれ、ヒッチハイク出来ないかな?」

「それは載せて貰うってこと? また危ない人たちかもしれないよ」

 もっともなことを言うココ。国境で遭遇した武装集団の仲間の恐れもある。


「ここに来て余計な揉め事は避けたいな。何者かわからぬ以上、通り過ぎるまでやり過ごした方が賢明だろう」

 最終的には皆マリアンナの意見に同調し、離れた場所でその足を止めた。


 東から走ってきた幌馬車は、修馬たちの30メートルくらい前を斜めに横切って行った。

 一応警戒していたが特に何も起きなかったので、再び歩を進めようとすると、突然前から馬の大きないななきが聞こえてきた。それと共にゆっくり停止する幌馬車。


「……これは何だろう? 嗅ぎ覚えのある柑橘系の香水の匂いだな」

 停まった幌馬車を見つめ、マリアンナが言った。


「柑橘……?」

 鼻をひくつかせてもよくわからない修馬は、念のために戦闘態勢を整え様子を伺った。


 すると、停まった幌馬車の荷台から1人の短髪の女性が降りてきた。兵士のような身のこなしをしているが、丸腰で落ち着いた雰囲気。戦闘の意志は無さそうだ。


「おーい、シューマじゃないかっ!! 久しぶりだな!」

 短髪の女がそう言って手を振っている。修馬は首を前に出し、目を見開いた。

「あ、あんたは……」


 その兵士のような短髪の女は、『虹の反乱軍』隊長のアーシャ・サネッティだった。

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