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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第27章―――
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第145話 真紅の重装兵

 無数の重装兵によって囲まれている護国の広場。そこでは敵軍の将、ゼノン相手にココと伊集院、そしてバロックが戦いを挑んでいた。


 修馬もすぐに参戦しなければと思ったのだが、周りに佇む重装兵たちの異様な雰囲気に気圧され二の足を踏んでいた。

 彼らは皆一様に、東軍の赤い旗をしっかりと両手で掲げ円状に並んでいる。修馬が戦いに加われば4体1という構図になるのだが、それでも意に介す様子はない。身動きも取らずに広場の内側に向かってじっと立っていた。


 そこまで自分たちのリーダーを信頼しているのかと驚きもしたが、その信頼は間違いではなかった。何故なら今はココ、伊集院、バロックと戦う3体1の状態だが、それでも真紅の鎧のゼノンは互角に争っていたからだ。


 ドーンッ、ドーンッという東軍の鳴り物の音が、護国の広場に鳴り響く。

 修馬はそれに反応して我に返り、戦闘の中心に駆け出した。視線の先ではバロックが今まさに攻撃を仕掛けようとしている。


「うおおおおおおおおっ!!」

 風に乗ったバロックは、光の如き直剣を振り抜く。対するゼノンは長い鉾槍ほこやりでその攻撃を縦に弾いた。その武器同士が接触の瞬間、2人の間に謎の爆発が起きる。バロックは吹き飛ばされたが、重い鎧を装備したゼロンはびくともしなかった。


「貴殿は貝吹のバロック殿か。また手合わせする日が来ようとはな。人生、一寸先は闇である」

 ゼノンは鉾槍ほこやりの鋭利な先端を倒れるバロックに向ける。橋の上で戦ったパンデル大佐もそうだったが、彼もバロックとは顔見知りのようだ。


 止めを刺されそうなバロックを目の当たりにして、修馬の持つ涼風の双剣が加速度を上げた。それと同時に伊集院も攻め込む。


 一気に距離を詰めた修馬は、そこで双剣を手放し新たな武器を召喚した。

「出でよ、天地の大槍っ!!」


「出でよ、『アイシクルスピア』ッ!!」

 横に並んだ伊集院は、槍状の氷柱を手元に召喚した。2人とも槍を持ってゼノンに突っ込んでいく。


 5メートル、2メートル……。充分に接近し、2人が槍を突き出そうとしたその瞬間、僅かに速いタイミングでゼノンが鉾槍ほこやりを地面に向かって振り下ろした。すると先程のような大爆発がまたも発生する。


 石畳が砕け、修馬と伊集院に飛礫つぶてが飛んできた。体のあちこちに打撃を受け、たまらず膝をついてしまう修馬。あの武器は一体、何なのか?


「……うへへへへ。喰らうがいい、『金色こんじき雷火らいか』!」

 するとキャラが変わってしまったかのようなココが、不気味に笑い雷術を放った。だがその手からは数十センチの放電が確認出来ただけで、ゼノンの元へは全く届いていなかった。ここに至るまで散々暴れていたので、魔力が尽きてしまっているのかもしれない。


「駄目だ、大魔導師! あんたの『オド』はもう枯れちまってる!」

 伊集院はココの元に移動し再び羽交い絞めにしようとするが、ココはそれに抵抗する。

「やだー! まだ、戦うー!」


「……愚かな。戦場は幼児の遊び場ではない」

 ゼノンは両手で持った鉾槍ほこやりを体の後方に下すと、足元で爆発が起きた。爆風に乗ったゼノンが、それを利用して前に飛び出し、ココに襲い掛かる。


 やばいっ!! と思うより先に足が動いた。修馬の反対からはバロックも跳んでくる。バロックは光を帯びた黄昏の十字剣、そして修馬は王宮騎士団の剣を召喚させ、共に攻撃を受け止めようとしたが僅かに届かない。


 これはもう無理かと諦めかけた時、黄昏の十字剣の切っ先の光が太く長く伸び、ぎりぎりで鉾槍ほこやりを受け止めた。


「馬鹿者めっ!」

 ゼノンの攻撃を止めることは出来たが、3人の中心でまたも爆発が起きた。修馬とバロックは爆風によってそれぞれ吹き飛ばされてしまう。


「ほう……。黄昏の十字剣にそのような魔法属性があったとは知らなんだ。しかし、我が『爆砕ばくさい鉾槍ほこやり』も世界的に希少な爆破属性。まずは厄介な貴殿から死んで頂こう」


 ゆっくりと近づいてきたゼノンは雨空を見上げ小さくため息をつくと、倒れるバロックの胸に鉾槍ほこやりの先端を突き下した。

「さらば、貝吹のバロック……」


 鉾槍ほこやりの刃が爆発し、血と肉片が飛び散る。爆風の影響を受けたゼノンも後方に跳び、石畳に片膝をついた。そして何かに拝礼するかのように小さく俯く。


 顔から血の気が引いていく修馬。今の爆発の後、全ての音が耳から遮断された。降り続ける雨の音も、東軍が強く打つ鳴り物の音さえも。


「バ、バロックじいさん……」

 薄氷を踏むように静かに近づく。バロックの胸からは真っ赤な血がどくどくと溢れ、もう手の施しようのない状態だった。


「死ぬなよ、じいさん。俺、あんたを連れて帰るって、モナちゃんと約束したんだぞ……」

 覚束ない口でそう言うと、バロックはまるで笑うようにゆっくりと目を細め、そしてがっくりとうな垂れた。


 そこで修馬の耳に音が蘇る。石畳に打ちつける雨音が、わずらわしい程に鼓膜を揺らした。


「うわあああああっっ!!!」

 発狂したように叫ぶ修馬は、ゼノンの持つものと同じ鉾槍ほこやりを召喚し強襲を図った。


「うむ。報告は受けていたが、お前が武器を召喚するという術士か。しかしこの爆砕の鉾槍ほこやり、一朝一夕で使いこなせるものではない!」


 攻め込む修馬とゼノン。互いの鉾槍ほこやりが勢いよく交わるとまたも爆発が起こり、修馬は吹き飛ばされ、ゼノンは頑丈で重い鎧のおかげで少々後退するに留まった。


「……若い戦士よ。次はお前の番だ」

 倒れた修馬に接近してくるゼノン。バロックにしたように、鉾槍ほこやりを突き刺し体内で爆発させるつもりだろう。


 死を諦めた修馬が、横たえたまま暗い空を見上げると、視界が一瞬だけ更に暗くなった。真上を何かが横切っていったようだ。


「ヒヒーンッ!!」

 調子のよい馬のいななきに交じり、痛みを堪えるようなうめき声が微かに聞こえる。


 ゆっくり体を起こすと、修馬の視線の先には、栗毛の馬に乗ったシャンディ准将が勇猛なる姿で佇んでいた。更にその向こうには、左の腕の関節を押さえるゼノンがいる。


「貴女はユーレマイス共和国騎兵旅団、シャンディ・ビスタプッチ准将であるな……」


 颯爽と馬から降りたシャンディは、睨みつけるように周囲の重装兵たちを威嚇し、そしてゼノン少将に焦点を合わせた。

「いかにも。此度の戦で多くの命を失った。最後は将官同士で雌雄を決しようではないか!」

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