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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第27章―――
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第144話 護国の広場

 バロックが直剣を下すと、折れた部分から続いていた刃の如き光が、電池が切れたようにふっと消え去った。静かに肩を落とすバロックと、地に伏せるパンデル。武器は破壊されてしまったものの、この勝負、バロックの勝ちだ。


 とは言え、バロックの右腹部からは大量の血が滴っている。流石にもう戦うことは出来ないだろう。


「大丈夫か? バロックじいさん」

「当然だ。私を誰だち思っている?」

 唸るようにそう返すバロック。だが、斧でえぐられた腹部は真っ赤に染まっており、明らかに大丈夫そうではなかった。


 後方で戦いを見ていた仲間の西軍兵士たちがそそくさと集まってきて、バロックに応急処置を施し始める。特に衛生兵と言うわけではないので本格的な治療は出来ないようだが、持っている白い布でバロックの傷口を塞いでいった。


「しかしこの異形の魔玉石、微かに光の色を感じていたが、ここまでの力を発揮するとは驚きだったな」

 兵士たちの治療を素直に受け入れているバロックは、手の中にあるあのガラス玉を見て頬に小さく皺を寄せた。


「折れた先から出てた光の刃は、それのせいなのか? そいつは勇者モレアの遺跡で見つけたもんだよ。俺も始めはただのガラス玉だと思ってたんだけど、何となく捨てられなくて……」

「成程、やはら勇者モレアの遺物であったか。力は失いかけているが、これこそが真物ということなのだな」

 バロックはそう言うが、修馬はその真意がわからない。口を閉じたまま、しばし立ち尽くす。


 未だに降り続く雨に打たれながら、バロックは刃の折れた直剣を持ち上げ、そして前に差し出した。

「私の持つこの『黄昏の十字剣』。これはかつて勇者モレアが持っていたと言われる剣を再現して造られたものなのだ」


「えっ! モレアの剣の複製品?」

 勇者モレアの剣といえば現実世界でいうところの『天之羽々斬あめのはばきり』のこと。それであるなら、初代守屋光宗『贋作』も天之羽々斬あめのはばきりの複製品であるが、この直剣は初代守屋光宗『贋作』とは似ても似つかない形状をしていた。


「さよう。これは東西のストリーク国がまだ一つの国だった頃に造られた剣なのである」


 バロックが持つのは、横に長い鍔がついた十字型の直剣。一方の初代守屋光宗『贋作』はいわゆる日本刀と変わらる形状。修馬は一度、守屋家の工房でぼろぼろに腐食した本物だと言われている天之羽々斬あめのはばきりを目にしたことがあったが、流石にあの状態ではどちらの形が正解なのかは判断がつかない。


 包帯巻き終わったバロックは、治療してくれた兵士たちに短く礼を言い、城の方角を睨みつけた。

「この黄昏の十字剣……。完全なる再現は出来なかったと聞いていたが、私はこの戦いで確信することが出来た。勇者モレアの剣には、魔玉石によって光の力が込められていたのだと。……この石、悪いがもうしばらく借り受けるぞ」


「じいさん、大怪我してるのにまだ戦う気かよ!」

「じいさんではない。私の名はバロック。貝吹きのバロックだっ!」

 そう言うとバロックは巻貝から風を噴出させ、勢いよく前に飛び出していった。


 斧で腹部をえぐられているにもかかわらず、バロックは怪我を感じさせない動きで飛ぶように駆けて行った。戦闘の興奮状態でアドレナリンが過剰に分泌され、痛みに蓋でもしてしまっているのだろうか?

 どちらにせよ、これ以上戦わせるのは賢明ではない。修馬は涼風の双剣を使いバロックを止めるべく、その後を追った。


 西の橋を渡ると、また重装兵がわらわらと大量に湧いてくる。

 バロックは黄昏の十字剣に光を宿らせ、目の前の敵を次々に斬り伏せていった。一太刀で卒倒していく重装兵たち。光の力を得たその剣の威力は、目を見張るものがあった。


 後ろに続く修馬も、バロックが討ち漏らした雑兵を倒しながら前に進んでいく。視界の先には雨で霞むエクセイル城が見えている。目指す護国の広場はもうすぐだ。


 先に進むにつれ、どんどんと数を増していく重装兵。バロックが修羅の如き形相で敵をほふり続けていくと、やがて進行方向に壁のように隙間なく並んだ重装兵の一団が現れた。


 その頃には2人とも大きく息を切らしていたが、それでもバロックは怯むことなく重装兵の壁に突っ込んでいった。

 敵兵団との間に緊張感が走る。斧を構えた重装兵たちがこちらに向かって歩を進めると、バロックは貝笛の風を下方に向け空高く飛び上がった。


「う、嘘っ!?」

 優雅に壁を飛び越えるバロックを見て、修馬も慌てて風を下に向けて噴出させる。真っすぐに進んでいた体が、楕円の曲線を描き雨空を舞った。


 そこで視界が開けた。重装兵の壁の向こうは、全く人のいない異様な空間が広がっていた。城の前にある綺麗に並んだ石畳の広場。ここが間違いなく護国の広場だろう。


 しかし、なぜこの広場には人がいないのだろうか?


 ただそこに、誰もいないというわけではなかった。広場の中心にはココと伊集院、そしてその2人と戦う真紅の鎧の重装兵がいた。ハルバードのような鉾槍ほこやりを持った、只ならぬ雰囲気の重装兵。恐らく彼がゼノン少将という人物なのだろう。


「重装兵団のゼノンか……、これは懐かしい。老兵同士、今日こそ決着を着けてやろう」

 バロックは広場に着地すると同時に、争いの中心に突っ込んでいった。

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