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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第27章―――
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第143話 巧者の対決

 修馬の視線の先にいる青い鎧の重装兵。それは敵の左官、パンデル大佐という人物だそうだ。


「いよいよ幹部の登場か……。さて、どう戦うべきかな?」

「さてな。重装兵には魔法を喰らわせれば仕舞いなんだが……」


 横に立つ伊集院が、そう言って大きく首を上げた。向かい合うパンデルも首を上げている。修馬も合わせて空を見上げると、上空に神々しく光を放つ、ココの姿があった。彼は体全体に薄い炎を纏わせている。


「きゃははははははっ!!」

 気の触れた女のように叫び笑うココ。それと共に両方の手のひらから、巨大な火の玉を出現させた。


「燃えろっ! 『紅蓮の煉獄』!!」

 空中から放たれる二つの火球。その炎は雨を物ともせずに、螺旋を描きながら橋上にいるパンデルに向かって飛んでいった。あの速度と大きさでは、避けることはまず困難だろう。


「……無駄を!」

 兜の奥から、パンデルは叫ぶ。すると彼の纏う青い鎧の中心から球状のバリアが展開していき、二つの火球を直前で受け止め綺麗にかき消した。彼の鎧には何らかの防御魔法が備わっているようだ。


「いいねぇ。そうこなくちゃ……。『白金はっきんの刃』!!」

 薄ら笑いを浮かべるココの周りに、氷で出来た三日月型の刃が無数に出現する。そしてその刃は、ブーメランのように回転しながら次々に飛んでいった。


「滑稽だ」

 パンデルは手に持つ戦斧せんぷを回転させ、飛んでくる刃を全て弾いてみせる。見事な斧捌き。


「どいておれ、魔法使い。この者相手に魔法攻撃は分が悪い」

 そして横から飛び出してきた1人の戦士。それは大きな直剣を持つ、バロックじいさんだった。


 戦斧と直剣が、激しい音を立てて交わる。それを持つ2人の気迫も、音もなくぶつかり合った。


「その十字剣……、貴様は貝吹きのバロックか。まだ生きておったとは。老戦士がこの戦場に何の用か?」

「愚問。戦士が戦場にある用など、ただ一つであろう!」


 互いに攻撃を打ち合う2人。その強い気迫は、他の者が近づけなるほどのものだった。ただ1人を覗いては。


「僕の獲物、何で横取りするのー!!」

 ばたばたと暴れるココ。だが今の彼は、伊集院によって羽交い絞めにされ押さえつけられている。


「落ち着けよ、大魔導師っ!! こいつの鎧には、魔法障壁が備わっているみたいだ。俺たちは不利だから、ここは他の奴に任せて先に行こう!」

「えーっ! やだーっ!!」


 手足をばたつかせ嫌がるココ。魔法の翼を背中に生やした伊集院は、問答無用にココを掴んだまま宙に向かって跳んだ。

「俺は大魔導師を連れて先に行くからな。後は任せた!」


 城の方角に飛んでいく2人を見送る修馬。一刻も早く『護国の広場』と呼ばれる所に行きたいわけだが、今はこの戦いの行く末をしっかりと見届けなくてはいけない。


 強烈なバロックの剣撃と、重装備でありながらそれを感じさせない身のこなしのパンデル。雨の降りしきる中、修馬は身動きもせずにその戦いを見つめていた。加勢したい気持ちは勿論あったが、今の自分の実力では手を出したとしても足手まといにしかならないだろう。


「その装甲、少しばかり厄介だな」

 巻貝から噴射した風に乗って後方に宙返りしたバロックは、着地と同時に地面を蹴り、前に跳びながら鋭い突きを首元に放った。


 いかづちを思わせる激しい金属音が橋上に鳴る。冷静に見極めたであろうパンデルは、戦斧の腹でその突きを受け止めていた。

「風魔法が備わった魔法具による移動攻撃か……。その十字剣が模造品でなければ、あるいは一太刀くらい喰らっていたかもしれぬな」


 パンデルはそう呟くと、剣を弾き返した手でそのまま戦斧を振りかざし、そして勢いよく下方に叩きつけた。


 ギンッ、と甲高い音が鳴り響く。その攻撃を正面から受けたバロックの直剣は、刀身が真っ二つに折れてしまい、飛んでいった刃先はくるくると回りながら橋の上に突き刺さった。静まり返る橋上。これは勝負あったか?


「くそっ!!」

 己の剣の実力では勝てないとわかっていながらも、修馬の足は無意識の内に走り出していた。そして涼風の双剣を召喚し、パンデルに急接近する。


「ふむ、同じ風属性の魔法具のようだな……。芸がない」

 パンデルは攻撃の向きを変えた。


「芸じゃねぇ! 高速の斬撃を受けてみろっ!!」

 修馬は風の勢いで体を回転させると、渾身の一撃を放った。避けようともしないパンデルだったが、その攻撃は彼の厚い装甲に阻まれ簡単に弾き返されてしまった。


「戦場の愚人は、例外なく屍を晒すだろう」

 雨風と共に、パンデルの戦斧が真横から襲い掛かる。身動き一つ取れない修馬だったが、背中に担いでいた白獅子の盾が独りでに跳ね上がり、攻撃の間に割って入った。


 だがそんな白獅子の盾の自律防御も空しく、修馬はパンデルの攻撃によって弾き飛ばされ、濡れた橋の上をごろごろと転がっていった。記憶を一瞬失い、すぐに立つことも出来ない。


「仕留め損ねたようだな。中々運がいい」

 追撃を放つために、パンデルは体をねじらせる。立つことの出来ない修馬と、武器を折られたバロック。これは絶体絶命の危機。


「おい。このけったいな魔玉石はお前さんの物か?」

 そんな状況だというのに、バロックは何かを地面から拾い上げそう言ってきた。目を向けると、それは勇者モレアの石碑があるところで拾っていた綺麗なガラス玉だった。


「それは魔玉石じゃない。細工を施した、ただのガラス玉だ」

「いや。ガラス玉の内側にどうやって細工を施すというのだ? これは恐らく、光の結晶を閉じ込めた特殊な魔玉石に違いない。見ておれ」


 直剣の柄と一緒に、そのガラス玉をしっかりと握るバロック。するとガラス玉と直剣が共鳴するように互いに光を放ち、薄暗い橋上が微かな光に包まれていった。


「ほう。十字剣が真の力を発揮したか。しかし所詮、贋物は贋物。まがい物で我に勝つことなど出来はせぬ!」

 そう言って、戦斧を構えるパンデル。対するバロックも己の直剣を構えるのだが、どういうわけなのか折れたはずの剣が元に戻っていた。


「贋物が本物を超えることが出来ないと誰が決めたというのか? この『黄昏の十字剣』、魔玉石の力があれば真物に引けを取ることはない」


 バロックは両手で柄を握り、右肩の上に合わせ直剣を水平に構える。その時、修馬は気づいたのだが、直剣の折れた部分は復活したわけではなく、水流の剣の刀身が水そのもので出来ているように、光が刀身を補うように折れた部分から真っすぐに伸びていたのだ。まるでSF映画に出てくる電光剣のように。


「帝国製の重金鎧じゅうきんがい。簡単に破壊出来ると思うな!」

「相手にとって不足なし。いざ、尋常に勝負!!」


 戦斧と光の直剣、互いが同時に攻撃を放つ。


 一瞬、速いのはパンデルの方だった。薙いできた戦斧がバロックの腹を鋭くえぐる。すぐに真っ赤な血が弾けたが、それでもバロックは攻撃の手を止めなかった。

 体を歪めながらも、直剣を前に突き出す。その光の刃は青い鎧の胸部を一気に貫き、パンデルの体を串刺しにしていた。その場で制止する2人。


 そしてバロックが直剣を引き抜くと、パンデルの胸部から大量の鮮血が噴き出し、そのまま倒れるように卒倒した。


「……肉を切らせて骨を断つ。かつて異界から来たという勇者の言葉だ」

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