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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第27章―――
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第142話 西の橋を渡れ

 修馬と白髪の老戦士のいる住宅の屋根の上に、武器のぶつかり合う音と陣太鼓の響きが聞こえてくる。


「戦いの中でしか生きることが出来ないって、一体どういうことですか?」

 修馬はそう問いかける。老戦士は前方にある大きな橋を見つめながら、少しだけ口角を上げた。雨に濡れた頬に深い皺が入る。


「別に深い意味はない。鉄を叩かない鍛冶屋がいないように、戦をしない戦士などいないということだ。戦うことこそ、我の生きる証」


 彼は理念や政治的心情などは関係なく、戦士としての誇りを持って戦いに挑もうとしているのだ。それこそ、己の命を賭けてまで。


「理解出来ない。俺は戦争なんて嫌いだから」

「そうか。それもお前の価値観。否定はしないが、ならばお前は何故戦うのだ?」


 老戦士に言われ、修馬は思いを蘇らせる。自分が戦う意味は、この内戦が始まる前から決まっている。


「……この先に起きる、大きな戦争を止めるため」


「ほう……」

 特に表情を変えもせず、老戦士はその場で小さく頷いた。

「信念こそ違うが、わしとお前は共に戦う同士というわけだ」


 雨と共に徐々に風も強くなってきた。いよいよ嵐が本格化しそうだ。


 老戦士は背負っていた巻貝を手に取り、その先端に口を当てた。「オーンッ……」という独特の音色が、遠くに響いていく。


「お前もわしのような魔法具を持っているようだな。それでは、行くぞ!」

 老戦士は巻貝を逆手に持つと、貝笛の鳴り口から突風のような風が噴き出した。その勢いを利用して西の橋に向けて飛んでいく老戦士。急いで涼風の双剣を召喚した修馬も、その後を追った。


 片手で器用に巻貝を操作しながら滑空し、地面に着地する老戦士。そしてもう片方の手に持った鍔の長い直剣を振るうと、前方に立ち尽くしていた帝国の重装兵を一太刀で吹き飛ばした。


「おい、じいさん。あんまり飛ばし過ぎるなよ!」

 後に続いて地面に足をついた修馬は言う。


「じいさんと呼ぶな。わしの名は、バロック。貝吹きのバロックだ」

「わかったよ、バロックじいさん! とりあえず無茶はやめろ。あんたが死んだら、モナちゃんが悲しむんだからな!」

「……わしは化け物じゃない。人間である以上いつかは死ぬさ。年寄りなら尚のこと」


 そして前を向くと、バロックは再び橋の入り口に向かって飛んでいった。修馬も雨を弾きながらその後を追う。


 敵陣に近づくにつれ、大きくなっていく陣太鼓の音。

 橋の近くに辿り着くと、大きな灯篭のような親柱が立つ見事な欄干が目に映った。その橋は横幅が5メートルはあり、橋上でもあちこちで戦闘が行われていた。


「喰らえっ!!」

 修馬は向かってきた重装兵に剣撃を喰らわせた。しかし全身を覆うような鉄の鎧に阻まれ、決定打を与えることが出来ない。


 猛攻にもひるまない重装兵は、持っている鉄斧を振り被り兜の奥の目を光らせた。

 前から突風が吹く。そしてその風に乗せて振られた鉄斧が、修馬の目の前を掠めた。背筋に冷たいものが走る。今の攻撃を喰らっていたら、一撃で頭が砕けていただろう。


「くそっ! 出でよ、天地の大槍!!」

 クリスタの使用する大きな槍を召喚した修馬は、目の前で一回転させると、その大きな刀身を橋の上に突き刺した。地響きと共に破壊音が鳴る。

 石造りの橋の一部はその重さに耐えかねるように崩壊し、対峙していた重装兵諸共、堀の下へと落下していった。


 眼下に見える堀底の景色に足がすくみ身を退くと、どこからかやってきた伊集院がキレ気味に抗議してきた。

「おい、修馬! 橋をぶっ壊すんじゃねぇよ!!」


「わりい。剣が通用しないから、つい……」

「いや、重装兵団に物理攻撃はないだろ。こいつらには魔法で攻撃するんだよ」

 両手に炎を宿らせる伊集院。すると左右から別の重装兵が2人、共に体を揺らしてやってきた。


「ふん、帝国の裏切り者め。斬撃はおろか、この鎧は炎も通しはせぬ。帝国重装兵団を甘く見るな!!」

 鉄斧を振り被る左側の重装兵。しかし光の翼で飛ぶように接近した伊集院は鉄斧の攻撃をすり抜けると、重装兵団の首を抱えて反対の手を兜の目の位置に当てた。


「『火葬クリメイション』っ!!」

 伊集院の手のひらから、赤い閃光が放たれる。


「ぐあっ!!」と悲鳴を上げた重装兵は、もがきながら卒倒してしまった。鎧の中に火を放ち、中から焼き殺す戦法のようだ。えぐいことしやがる。

 そして倒れた重装兵は水を求めるかのように地面を這うと、先程開けた穴の中に自ら落ちていってしまった。


「外から蒸し焼きにしてやっても良かったんだがな。まあ、重装兵はこうやって倒すんだ。出来なきゃ死ぬ。わかったか?」

 そう言ってくる伊集院。だが修馬は魔法を使うことが出来ない。


「まあけど、なんちゃって水術なら少しは使えるかな!」

 残る右側の重装兵に対し、流水の剣を召喚した修馬はその切っ先を向け、真っすぐに構えた。


 するとそこからレーザー光線のような水流が放たれた。始めは体をくねらせて水流を避けていた重装兵だが、どんどんと鎧の中に水が溜まっていき、やがて動くことが出来なくなっていった。


「鎧の中で溺死させようってか。いくら何でも、それは無理だろう」

 伊集院はそう言うと、また重装兵に接近し魔法を放った。

「『凍結フリーズ』!」


 鎧から溢れる水が、一気に凍り付いていく。そしてその重装兵は天を仰いだまま、まるで氷の彫刻のようにその場で身動きが取れなくなった。


「けどこうしちまえば、倒せないこともないか……」

 狂気に満ちた目を向ける伊集院。これが人と人が殺し合う戦争なのか……。


「お前、大丈夫か?」

「あ? 何がだよ?」

「お前も戦争に魅入られたじゃないよな?」


 修馬は嫌な予感がした。自分も伊集院もこのまま戦闘の中に身を置いていたら、バロックじいさんのように戦いの中でしか生きることが出来ない人間になってしまうのではないだろうかと。


「お前もって、誰のこと言ってるんだよ? もしかして大魔導師様のことか? さっき見たら、嬉々として重装兵団に雷術を放ってたからなぁ」伊集院は言う。


「ココが?」

 突然出てきたその名前に首を捻らせる修馬。


「ああ、何かちょっとおかしな雰囲気だったぞ。あれは助けに行った方がいいかもしれないな」

 伊集院のその言葉を聞き、顔を青くさせる修馬。そういえばココは最近魔法の調子が良くなさそうだった。あまり負担をかけるのは良策ではないかもしれない。


「わかった、先を急ごう。とっとと向こうの大将の首を取るぞ!」


 そして、敵を倒しながら先へ先へと進んでいく修馬と伊集院。橋を進むにつれ、陣太鼓の音はより大きくなっていった。


 橋上の重装兵をあらかた殲滅しつつその屍を越えて駆けていくと、長い橋の終わりに堂々と立つ青い鎧の重装兵の存在に気づいた。

「もしかして、あいつが重装兵団の親玉のゼノンとかいう奴か?」


 そう聞いたが、伊集院は首を傾げ難しそうに眉を中央に寄せた。

「いや、ゼノン少将の鎧の色は真紅。あの青い鎧は恐らく『青鬼』の異名を持つパンデル大佐だ……」

「パンデル……?」


 敵の左官の登場に緊張感が一気に増していく。大きくなっていく陣太鼓の気高き響きが、修馬の闘争心を微かに盛り立てた。

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