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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第27章―――
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第136話 坑道からの脱出

 真っ暗な坑道を滑るように飛んでいく。

 今は道なりに進んでいるようだが、この先に直角に曲がる角が現れたらどうなるだろう? 伊集院の魔導緩衝器マジックバンパーとやらは役に立たずに、そのまま壁面に激突するのではないだろうか。


 そんな不安な思いを抱いたまま涼風の双剣から風を出力させていたのだが、しばらくすると、天井からガリガリガリッとひと際大きな音が鳴り始めた。自動車がガードレールに擦ってしまっているような感覚。


「低地に入るぞっ!!」

 何かに気づいた伊集院がそう叫ぶと、次の瞬間、修馬たちは突然現れた水面にぶつかり、そのまま斜め下の水中に飛び込んでいった。


 顔を打った衝撃と息の出来ないこの状況に、修馬は思わず足をばたつかせる。この異世界での水運が相当に悪い。


 そんな状況でもどうにか気持ちを保ち双剣の風を噴出し続けると、限界が近づき気絶する寸前のところで水面を突き破り水の中から脱出出来た。伊集院が「ぐはっ!!」と死にそうな声を上げる。


 そしてゆっくりと速度を緩め、坑道の地面に着地する4人。下にいた修馬は腹を擦った挙句、上から他の3人が圧し掛かり、それなりのダメージを受けたが、それ以上の疲労があったため最早何の言葉も出ることはなかった。


「はぁ、はぁ、無事だったか……」

 塊の中から転げ落ちた伊集院がそう発すると、ココとマリアンナもゆっくりと立ち上がった。


「びっくりしたね。やっぱりマリアンナが言った通り、道が水没してたみたいだ」

「しかし、見てくださいココ様。出口は近いようです」

 薄暗い坑道の中、マリアンナが指差す先に、小さくぼんやりとした明かりが見えた。あれが旧首都エクセイルに続く出口のようだ。


 修馬は立ち上がり揺れた髪をかき上げると、その明かりに向かって真っすぐに歩き出した。3人もその後を追ってくる。


 揺れた地面を歩く音が響く坑道。しばらくすると前から心地よい雨音も聞こえてきた。


「雨は止んでないみたいだね」

 かなりの時間歩いてきたはずだが、坑道の外は未だに雨が止んでいなかった。むしろ降り方が強まっているくらいだ。


「だけどまあ、ここを出ればすぐにエクセイルに辿り着くって町の人が言ってたから、このまま休まずに行っちゃおうか」

 ココが言うと、伊集院とマリアンナはそれに頷き雨の降る外へ出ていく。


 疲弊していた修馬だったが、重い足を動かし前に進みだすと、突然横の方から「あっ!!」と何者かの声が雨の中に響いた。


 霞む視界の先から、旗を持った軍人が近づいてくる。白地に青い下弦の月が描かれた大きな旗。あれは西ストリーク国の旗。つまり敵ではないということだ。


「速いな。もう援軍が辿り着いたのですか?」

 そう言ってくる軍人の男。そして、その男の顔は何故か見覚えがあった。険しくも精悍な顔つき。彼は黒鉄くろがねの古戦場を馬で駆けてきた騎兵旅団の男によく似ていたのだ。


 不思議そうな目で見つめる修馬たちに気づいたのか、彼は「あ、援軍を呼びに行ったのは、兵長でもある僕の兄です」と答えた。


「道理で良く似ていると思いました」

 修馬の言葉に薄く微笑む軍人の男。

「双子ですから。僕はロイドの弟、カイル・アリアットと申します。しかし、他の援軍はどうしたのですか?」


「いや、とりあえずは俺たちだけなんだ。主要な援軍は君のお兄さんが呼びに行ってるところ……、だと思うよ」


 それを聞くと、カイルは少しだけがっかりした表情を浮かべたが、すぐに精悍な眼差しを戻した。

「成程そうでしたか。確かに援軍が来るには早すぎますからね。しかし少数でありながら、あなたたちには只ならぬ気概を感じます。上手くは言えませんが、例えるなら軍神の加護でも受けているような……」


「うーん。軍神ですかぁ」

 軍神と言えば、確かに修馬はタケミナカタの加護を受けている。彼の言うことは正しいが、修馬自身がタケミナカタのことを軍神と認めていない節があるので、その言葉を受け入れることがいまいち出来ない。


「それと僕は魔法のことはよくわかりませんが、そちらの魔法使いのお2人も恐らく只者ではないのでしょう」

 カイルはココと伊集院を見てそう言いながら、前に進み、そしてマリアンナの前で跪いた。


「そしてこちらの騎士様っ!!」

 その軍人らしい大きいその声に驚いたのか、マリアンナは身を半歩程引いた。


「……な、何かな?」

「その美しき鎧と剣。お尋ねしますが、貴方様はアルフォンテ王国王宮騎士団の方ではありませんか?」


「まあ……」

 マリアンナは言葉を濁しながら「過去に所属していた者だ」とだけ答えた。


「やはりそうですか! アルフォンテ王国と言えば帝国と敵対する国家。このストリーク国の内戦に参加して頂けるのであれば、必ず帝国が軍事介入する東軍に打ち勝つことが出来ることでしょう!」

「いや。だから、今は王宮騎士団の団員ではないのだが……」


「最強の援軍が来てくれました! これはシャンディ准将もお喜びになることでしょう。ついてきてください。我が軍の陣に案内致します!」


 まるで話を聞かないカイルは、ぬかるんだ地面から立ち上がると、大きく足を開き雨の降る細い道を進んでいった。

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