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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第27章―――
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第131話 甲冑師ホッフェル

 遠くに町が見えてきた。


 あれから2日程かけて平原を歩いてきた修馬たち。その間、現実世界に戻ることは一度も無かった。何となくだが、しばらくはこちらの世界が続きそうな気がする。ただの勘だが。


「恐らくあそこが、西ストリーク国の首都マドリックだ」

 小高い丘の上に悠然とした様子で立つマリアンナが、真っすぐに向いて呟いた。


「マドリックかぁ。軽工業が盛んな町だと聞いてるけど、シューマに似合う鎧でも置いてあればいいね!」

 ココは邪気の無い笑顔でそう言ってくる。


 修馬は、己の着ている綿織物の鎧を見てため息をついた。本人的には動きやすくて、意外と丈夫なこの服のような鎧が結構気に入っているのだが、何故か理解して貰えないようだ。


 伊集院ならば多少は共感してくれるかと思い視線を向けたのだが、彼は話も聞かずに呆然と空を眺めていた。マリアンナにアッカンベーをされてからこの3日間、ずっとこんな調子なのだ。マジで使えない男。


「そうと決まれば善は急げ。先に行ってるね」

 風を纏ったココが跳ねるように飛び上がると、町の方向にそのまま消えていってしまった。


「全く、ココ様は朴直ぼくちょくなお方だ」

 ゆっくりと歩き出すマリアンナを追うように、修馬と伊集院もそれに続いた。もうマドリックの町は目と鼻の先だ。


 その町は運河に囲まれていた。町の入り口に続く大きな橋を渡り、中に進入する。

 ここは西ストリークの首都だと聞いていたが、そこは同国の他の町と比べてもそれほど華やかでなく、首都と呼ぶには少し見栄えのしない地味な町並みだった。


「ここがこの国の首都なんだ」

 修馬の語調を押さえた声で言うと、少しがっかりしていることに気づいたのか、マリアンナが「ここは内戦によって移転した暫定的な首都だからな」と教えてくれた。


 以前の首都エクセイルが内戦によって分断され立ち入ることが出来なくなったため、その近くにあったこのマドリックの町に首都機能を移したのだそうだ。


「そういえば職人の町だったっけ? 確かにそんな感じだな」

 町並みを見渡すと、中が工房のような造りになっている建物が幾つも見受けられる。政治や経済の中心というイメージはないが、人々の活気は大いに感じることが出来た。


縫製ほうせい職人に木工職人、鍛冶職人も有名な町だ。噂では世界最強の鎧が作られた町でもあるそうだから、ココ様の言う通り、良い鎧が手に入るかもしれぬな」

「世界最強の鎧ねぇ……」


 どう考えても、いかつい鎧を想像してしまう修馬。ウィルセントの星屑堂で重戦士の鎧を着させて貰ったことがあるが、あれを着て動けるのはゴリラ並みの人間かゴリラだけだ。


「その鎧の話なら、俺も前に帝国で聞いたことがある」

 寝ているように静かだった伊集院が、何かに目覚めたように喋り出した。


 彼が言うには、その世界最強の鎧はストリーク国が東西に分裂する以前に作られた魔法の鎧で、強力ではあるものの扱いが難しく、製作者の1人しか装備することが出来ないという不憫な鎧ということだった。


「魔法の力が宿ってる鎧なのか?」

「ああ。名前は確か、『覇者の物の具』。その強さは、中隊一つ分に匹敵するらしい。これは絶対に手に入れないとだな、修馬」


 伊集院にそう言われても、全く気持ちが乗らない修馬。幾ら強くても、装備出来なくては意味がないと思われる。


 少しだけ肩が重く感じる修馬の横を、小さな子供たちがバタバタと通り過ぎていく。建物で挟まれた細い通りには人が溢れており、冴えない街並みが少しだけ華やかに感じられた。


「しかし人の数は流石に多いな。かつては職人の町だったが、今は旧首都から多くの人たちが移り住んでいるということだからな」

 マリアンナが道行く人々を見てそう言うと、突然背後から兜を被った不審者がふらふらと近づいてきた。


 千鳥足で近づく不審者。そしてもたれるようにマリアンナに密着すると、彼女の鎧をべたべたと触りだした。

「そ、それだけじゃねぇですぜ、旅の騎士様。今、この町にはユーレマイス共和国から騎兵旅団が大量に派兵されてますからね。へへへ……」


「何者だ、貴様は?」

 その行為に苛立った様子のマリアンナだったが、振り返ってその不審者と向き合うと、若干態度を軟化させた。よく見るとその不審者、若い女性だったからだ。


「き、汚い格好で失礼しやした。あっしは甲冑師のホッフェルと申します。職業柄綺麗な鎧を見ると、つ、つい触らずにはいられなくなる性質でして」

 女の不審者はへりくだりながら言う。彼女は頭部の半分が隠れる鋼鉄の兜を被りつつ、その下には薄汚れたカーキ色の職人装束を着ていた。随分と奇妙な格好だ。


「甲冑師? 鎧専門の鍛冶師ということか」

「へい、以後お見知りおきを。か、甲冑の中でも小具足、つまり籠手や脛当なんかを好んで作っておりやす」

 兜の下から除くホッフェルの茶色い瞳。意外と可愛らしい顔をしているが、顔色がやたらと青白く弱々しい。


「若い女が職人をやっているとは、随分珍しいな」

 マリアンナは女だてらにと言いたいのだろうが、そんな彼女も男勝りの騎士なのだから人のことは言えないような気がする。


「マドリックは職人の町でやんすからね。お、女の職人も決して珍しくは……」

 ホッフェルはそう言いながら首を左右に振り、足元をふらつかせた。兜が重いのだろうか?


「如何された?」

 マリアンナが声をかけると、ホッフェルは目を虚ろにして天を仰いだ。


「あっし、今日は体調がすぐれないようで、少し頭がふらふらするでやん……す」

 そう言い終わると共に、ホッフェルは体を真っすぐに保ったまま地面に倒れてしまった。

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