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この異世界はラノベよりも奇なり  作者: 折笠かおる
―――第23章―――
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第99話 二つのストリーク国

 国境を越え、西ストリーク国領の村が見えてきたのは、もう夕刻が近づく時間帯だった。西の方角に微かに見える石の森の奇岩群が、夕日を浴びて幻想的な風景を作り出している。


「また新しい国に来てしまったな」

 現実世界ではまだ海外旅行をしたことのない修馬だったが、異世界ではすでに数か国を渡り歩いている。小高い丘に囲まれた牧歌的な集落を見下ろし、旅とは中々いいものだとしみじみ心に感じた。


「西ストリーク国はユーレマイス共和国と同盟を結んでいるから関所もないし、国境越えが楽で良かったねぇ」

 ココは杖で肩を叩きながら、のん気にそう言った。


「同盟国かぁ。じゃあ、次に向かう予定の東ストリーク国も、もしかして同盟国だったりする?」

 名前からして恐らく似た国なのだろう。単純な修馬はそう思ったのだった。


「いや、ストリーク国は元々1つの国だったんだけど、先代の王が亡くなった後に、王位継承を巡って王族同士が対立し最終的には国土も東西に分断されちゃったっていう経緯があるから、同盟どころの話じゃないよ」


 ココは言う。詳しく聞くと、第一子である姉の王女と第二子である弟の王子が互いに王位を主張し、それぞれを支持する者たちによって王族が2つに割れ、都が壊滅するほどの争いに発展したらしい。王族の骨肉の争いに、国民までもが巻き込まれる形になってしまっているようだ。


「面倒くさい姉弟きょうだい喧嘩だな。そんな状況じゃあ、国境越えは楽にいかなそうだ」

「今でも冷戦状態だからね。けど逆に、シューマの捜しているマリアンナもそこで足止めさせられている可能性はある」

「おお、成程!」

 戦争という重苦しい単語に陰鬱な気分になっていたのだが、マリアンナの捜索に一筋の光明を見出し、少しだけ軽やかな心持になった。


 空が夕闇に包まれていくと共に、村には幾つかの赤い外灯が灯されていく。修馬とココはそれを眺めながら、滑らかな足取りで歩を進めていった。国の外れにある村のせいか、先程の話が嘘のようにとても平和そうに見える。


 曲がりくねった九十九つづら折りの山道を下っていく途中、集落の手前に一軒の石造りの家がぽつんと建っているのを見つけた。その庭先には、切り株の上に腰かけキセルを吹かしている中年男性がいる。傍らには大量の薪が転がり、よく使いこんでいる斧も近くに立てかけてあるので、たぶん薪割りをしていたのだろう。


「こんにちはーっ!」

 ココが元気よく挨拶すると、キセルの男は驚いた拍子に後ろにひっくり返り、「熱っ!!」と叫んで顔全体を両手で何度も拭った。


「……大丈夫ですか?」

「ななな、何だあんたら! 軍人じゃねぇよな?」

 心配する修馬をよそに、キセルの男は体を起こし警戒の色を強めた。彼は山男のような髭面で、肌もキセルの火傷で黒くなったのか、元から浅黒いのかよくわからない風貌をしていた。


「僕たちは旅の者です。この村には軍人さんがよく来るんですか?」

「旅人だぁ? 共和国の役人でもないんだな?」

 ココの質問を無視して、そう聞いてくるキセルの男。だが修馬もココもどう見ても軍人や役人には見えなかったようで、少し安心したように切り株に腰かけ直し、どこからか取り出した刻み煙草をキセルに詰め、石を叩いて器用に火をつけた。


「旅人かい。それは悪い時期に来ちまったな」

 紫煙をくゆらせながら、暗い表情を見せるキセルの男。だが、先程みっともない姿を見たばかりなので、その深刻さがいまいち伝わってこない。


「悪い時期っていうのはもしかして、ストリーク国で戦争が始まりそうってこと?」

 真っすぐにそう尋ねるココ。軍人がどうのこうのと言っていたので、たぶんそういうことなのだろう。


 キセルの男は頷くわけでもなくただ浮かんでいく煙を見つめ、「まあ、そういう噂だなぁ」と呟いた。


「けど東ストリーク国との国境はここから遠いんでしょ? 戦争が始まるからっといって、こんなところにまで軍人が現れるの?」

 修馬が疑問をぶつけると、キセルの男はフンッと鼻を鳴らして威嚇するようにこっちを睨んだ。

「こんなところだからだよ。ユーレマイス共和国の軍人が我が国の首都を目指して、こんな国境の村に何度も押しかけて来ているんだ」


「ユーレマイス共和国? 自国の軍人じゃないんだ」

「ああ。もしも戦争になったら同盟国である共和国の軍事力を借りないと勝ち目はないだろう。東側には帝国が軍事支援してるって話だからな」

「帝国がっ!?」

 食い気味に言葉を重ねる修馬。それと同時にココが「ああ」と要領を得たように小さく頷いた。


「何となく筋書きが見えてきたよ。この内戦、早めに手を打たないと、もっと大きな争いに発展するかもしれないよ」


 ココとキセルの男は目を合わせると、同調するように互いに頭を下げた。だが、修馬には何のことなのかよくわからない。

「どういうこと?」


「東ストリーク国に軍事支援しているグローディウス帝国と、西ストリーク国と同盟関係にあるユーレマイス共和国。恐らく帝国と共和国は、東西ストリーク国を舞台に代理戦争を始めようとしているんだねぇ」

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