リアルダンジョン
サメがひるんでいる隙に、スクリューを回し、階段のある方まで泳いだ
そして、水圧で固く閉ざされた扉を、モーターの力で強引にこじ開けた
「よし、水圧の問題はクリアだな」
そこから中に入り、エレベーターのある場所まで来ると、エレベーターの扉を開け、中のワイヤーにつかまり、降りて行った
ワイヤーをひたすらたどり、下へ、下へと降りていく
「やっぱ、結構深いな」
建物の高さはおよそ50階建てのため、エレベーターの扉を50個ほど通過すれば、1階にたどり着く
1つの扉を通過するのに、大体10秒
今あるだけの酸素でギリギリなんとかなりそうだ
50個目の扉を通過し、地下に入る
地下鉄につながっている扉がどの階のものかわからないため、ここからは一枚ずつ開けていく
「頼むぞ…… ここも浸水してたら俺は窒息しちまう」
通常の階よりも深い位置にある一枚目の扉を開けると、そこが地下鉄への入り口であった
扉を開けるとザバーっと水が漏れだし、体も流された
「おわっ」
前のめりになり、水の勢いもあって、そこから飛び出した
幸いにも、そこは密閉された空間であり、浸水を免れていた
再度扉を閉めて、魚クンを脱いだ
「すっげえ、これが地下鉄か」
そこは、かつて世界一複雑な駅として、ギネス登録までされた、新宿駅の地下であった
正面には改札があり、見渡す限り、いろいろな路線に続く道が存在している
「ここはやみくもに動いたら迷子になる」
そう直感した
俺は冒険者としての嗅覚で、それをかぎつけた
事前に新宿駅のことを知っていたわけではないが、そういった危機察知能力に長けていたのである
「大体、迷子になるやつってのは、なんのアテもないくせに、その道が正しいと思って突き進んでいくんだ だから迷う しっかり道を記憶して、自分がどこを通ったのかわかっていれば、迷子になるはずがない」
そう言って、自信満々に端っこのほうから進んでいった
しかし、あることに気が付いた
目的地がわからない
まさかこの複雑そうな駅構内をしらみつぶしに探していかなければならないのか
俺は早くも途方に暮れてしまった
どうしようかと考え、ふとあることを思い出した
○コニコ動画の生放送をしている地底世界の住人
彼女ならどこをどう行けば地底世界にたどり着けるか知っているはずだ
スマホを取り出し、放送が始まる時間を調べた
この放送の履歴を調べると、大体深夜に行われている
深夜まであと5時間ほどあるが、それまで駅を散策することにした
駅の中にはコンビニがあるため、そこで腹ごしらえをすることができた
また、地上に続く道は大体砂で埋まっており、出ることは不可能だった
少し休憩するため、駅のベンチに寝ころんだ
そして、気づいたら眠ってしまっていた
「やべっ」
俺は飛び起き、時間を確認した
0時ジャスト
すでに放送の時間である
急いでサイトにアクセスし、コミュニティの放送が始まっているか確認した
「地底世界より 挑戦者求む」
前とほぼ同じ見出しの放送が始まっていた
「やべえ、25分も過ぎてる」
そう言って急いで放送を見た
そこには、前回より鮮明に映し出された女性の姿があった
「前回放送に来たものです 地下鉄からはどこを目指せば地下世界に行けるんですか?」
と要点だけを急いでコメントした
すると、「都営大江戸線のホームに作られた地下行きの扉があります」
と返事がきた
トエイオオエドセン……
「とにかくそこを目指せばいいんだな」
しかし、標識はほとんど読むことができないほどに、古ぼけていた
「くっそ、トエイオオエドセンが分からねえよ」
駅の中に設置されている地図を見ても、ほとんど分からない
かろうじて現在地だけは表示をみて確認できた
しかし、どこをどう進めばいいのかはやはり分からないままだった
標識には矢印が書いてあるが、肝心の行き先が分からない
唯一わかるのは、その看板の色だけだった
俺はもう一度、放送2分前に、「トエイオオエドセンの標識の色を教えてください」
と答えた
「それは……覚えていません」
俺の期待を裏切り、そう返事が返ってきた
「マジかよ……」
そこで放送は途切れた
「トエイオオエドセン」と、「駅のホームに地下に行くための扉がある」
この2つのヒントを頼りに、散策しなければならなくなった
「やみくもに探しても絶対だめだ、何か考えがなければ……」
しかし、ゴールまで案内人でもいない限り、迷わずそこにたどり着く手段はない
もはや地下すべてを散策する以外に道はないのだろうか
俺は少し考え、歩き出した
そしてコンビニにやってきた
そこで、あるものを手に取った
さっき言った通り、自分の歩いた道をすべて把握すれば、時間はかかるが、ゴールまではたどり着ける
しかし、新宿駅のように複雑な駅の場合、記憶することは困難である
今からとる方法は、確実にゴールに向かうことのできる俺の中での必勝法であった