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88. 巨人族

88 巨人族


 新しく仕入れた屋敷に戻り、片づけと掃除をしていた奴隷達に、先ほど買ってきたラキリスを紹介することにした。


「新入りだ。巨人族のラキリスという。歳は13才らしいからロル、ノーラ、お前たちと同じくらいだな」

「は、はい」

「おっきい……」


 ロルとノーラは圧倒されながらラキリスを見上げていた。これまでの奴隷の中で一番背が高いアーシュより、さらに頭3つ分は大きいラキリスの姿に、ほかの奴隷達も興味津々だ。


「夕食時にもあらためて紹介するが、リース」

「はい。ご主人様」

「このラキリスはあまり教育されていない。無作法なところが多いかもしれないから、色々と教えてやってくれ」

「お任せください」


 リースの瞳がきらりと光る。獲物を見つけた猟犬のような目つきだ。これは少し、フォロー役が必要だな。


「……アーシュとロルも、気を使ってやってくれ」

「かしこまりました」

「あ……はい!」


 アーシュは俺の意図を察してくれたようで、微笑みながら頷いていた。一方でロルの方は慌てて返事をしたものの、先ほどからずっとラキリスを見上げて口を開いている。腰のあたりまでの背しかないので、顔を見上げようとするとほとんど真上に視線を向けていた。


「ロル。ラキリスは巨人族だが、まだまだ子供だ。これからもっと大きくなるだろう」

「そうなのですか。すごい」

「実際のところ、巨人族の村にはどれくらい大きな者がいるんだ。ラキリス」


 話を振ると、ラキリスは首をかしげながら答える。


「えぇと。爺様が村で一番の大男です。大きさはどれくらいなんだろう。私でも爺様の腰くらいだから、倍以上はあるかなぁ」


 そうなると軽く5mは超えていそうだ。そんな人間がいるなんて信じられないな。いきなり雪山で遭遇したら全力で逃げ出す自信がある。


「巨人族の村っていうのはヨトゥン山脈の奥にあるんだよな」

「えっと、そうです。ここはウードの街だか、北西の峰を目指していけば着くはずです」

「何人くらい巨人族が住んでいる?」

「村にですか? えっと、うちの村だけなら50人くらいかな?」

「うちの村ってことは、ほかにも村があるわけか」

「はい。うちは爺様の村で、他にはセロさんの村とか、サイシさんの村とか、ラルルさんの村とか。あ、でもうちの村以外、正確な場所は知らないかもです」


 巨人族の村は何カ所かあって、それぞれ長の名前で呼ばれているらしい。


「お前は捕まった時、薪を集めに来ていたといっていたな。もう少し詳しく教えてくれ」

「詳しくですか……えっと、この時期の村は冬に向けてみんなで準備しているの。爺様や男の人たちは熊やアイスウルフを狩りにいくけど、私みたいな女子供は木の実や薪を集めてくるのが仕事だから、この近くの森まで来ていました」


 どうやら本当にただ単純に街の近くまで採集に来たところを運悪く捕まってしまったようだ。割とのんびりとした性格のようだし、なんというか奴隷として買った俺が言うのもなんだが、心配事が多そうな奴だ。


「そうか。まあこうして俺に買われたのも何かの縁だ。よろしく頼む」

「は、はい……わかりました。でもあの、一度くらい、村に帰ることはできないでしょうか。お母さんが心配してると思うのですが」


 それはまあ、普通に考えれば無理だろう。そう答えてやると、ラキリスは涙目になりながら首を垂れた。


「うぅ……お母さん。親不孝な私を許してください」


 そんなラキリスをロルとノーラが慰めていたが、ちょっと早とちりだ。帰れないとは言っていない。


「ラキリス」

「……はい」

「少し協力してほしいことがある。もしやってくれるというなら、村に帰ることもできるだろう」

「本当に? なにをすればいいのでしょう、えっと、ご主人様」

「俺を巨人族の村に案内してくれ」

「えっ……」


 意外な提案だったのだろう。ラキリスは驚きの声を上げ、固まってしまった。


「だから、巨人族の村に案内してほしい」


 ぽかんとするラキリスにもう一度言うと、今度は慌てて答えてきた。


「そ、それは。私はうれしいですが、ご主人様の身が……」

「巨人族は大人しく聡明な種族だと聞いたが、やはり人族が村に行くと危険なのか?」


 先日カインから、ウードは帝国領になってから巨人族を排斥したという話を聞いている。そうなると巨人族が人族に対して恨みを持っていてもおかしくはない。ラキリスも人族について偏見を持っていたようだし、やはり危ないのだろうか。


「えっと、昔人族の猟師が村に迷い込んできた時は、食事を振る舞ってから帰ってもらったことがあります。でもだからといって、奴隷となった私がご主人様を連れて行っても、歓迎してくれるとは思えません」

「別に歓迎されたくて行くわけじゃあない。巨人族の人たちと取引がしたいんだ」

「取引、ですか」


 先日カインによると、昔は巨人族の人々は普通にウードを訪れ、山脈の奥で取れる品々を売り来ていたという。それらの交易品には少し興味がある。


「あぁ。昔はウードにも巨人族が来て、人族と交易を行っていたそうだ。可能ならば俺も巨人族と交易をしてみたい」

「えっと、その話は村でも聞いたことがあります。村のみんなも昔と同じようにウードの街に行きたいと話していました。でも奴隷になってしまった私が話してみたところで、どうなんだろう」


 まあたしかに、村の娘を奴隷にしておいてほいほい故郷の村に行くというのは、普通に考えれば危険だろう。ただ先ほどから聞いていると、こいつは村の長の孫娘だ。それならば交渉する余地はある。


「お前の爺様とやらの考え次第だが、もしも案内してくれるのであれば、村についた後お前を解放してやってもいい」

「ほ、本当ですか?」

「あぁ。ただしお前の爺様が俺の身の安全を確約してくれたらの話だ。だからお前からも爺様に、全力でお願いしてくれ」

「爺様にわたしが……わ、わかりました」


 この2メートルはあるラキリスがビビッて震え声になってしまう爺様とは、やはり随分と恐ろしい相手なのだろう。


 ただまともな考えを持っている相手なら、孫を助けた相手を無下に扱うこともないはずだ。最悪の場合、地面に扉を開いて逃げ出せばいいだけのことだしな。


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