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84. 班分け

84. 班分け


「ご主人様。誠に恐縮なのですが、お願いがございます」


 シアンが島を去ってからしばらく経ち、カルサ島に完成した倉庫の出来を確認し終えると、リースからそんなことを言われた。ずいぶんと畏まった雰囲気だったので、真面目ぶった口調で答える。


「言ってみろ」

「ありがとうございます。実は新しい奴隷を仕入れていただきたいのです」


 新しい奴隷か。以前サラが、必要になればリースが言ってくるだろうと話していたが、思ったよりも早く必要になったようだ。


「仕事が回らなくなってきたか」

「はい。以前から少しずつ仕事が増えていたのですが、最近は特にカルサ島での雑務が多くなっております。その上で今回のご主人様の旅にはナスタとノーラが付き添うということで、手が足りなくなるかもしれません。我々も協力して頑張りますが、奴隷を増やしていたただけるならば、ご主人様に無用なご迷惑もおかけすることもないと思います」


 ふむ。どうやら俺の思い付きによる北への旅行のせいでパンクしそうらしい。まあ今の状態でも十分ブラックな状態だったようだから、ここらで奴隷を仕入れておいたほうがいいのだろう。


「わかった。何人欲しい」

「2、3人いれば、当面は問題ないと思います」

「そうか。それじゃあどこかで適当に仕入れてくるか」

「お願いいたします」


 俺が奴隷として仕入れているのは、色々な種族の女奴隷だ。最初の頃はどんな種族でも器量さえ良ければ特にこだわりはなかったのだが、途中からは色々な種族を買い揃えるようにしている。理由は特にない。なんとなくだ。


 旅で見かけた種族で、まだ買っていないものもいくつか思いつくのだが、今回はまだノーラしかウチにいない南部諸島の種族を仕入れるとするか。


「あらリョウ、何の話をしているの?」


 背後から人魚族のテナが声をかけてきた。同じく出来上がった倉庫を見に来たのだろう。細長い腕を腰のあたりに当て、澄ました表情でこちらを見つめていた。


「ちょっと、奴隷を増やそうと思ってな」

「奴隷って、隷属人のことよね。またリースみたいな可愛い女の子を買ってくるつもり? あなたも本当に好きよね」


 ちょっと呆れ気味に言うテナに言い返す。


「今回は人魚族の隷属人も探すつもりだから、もし手に入ればお前の仕事も楽になるだろうよ」

「確かにそうかもね。でも人魚族の隷属人……か。まだ当てはないのよね?」

「あぁ。ガギルダのところにでも行って探すつもりだ」

「そういうことなら、私も力になれるかもしれないわ」

「どういう意味だ」

「人魚族の隷属人に心当たりがあるってこと。あ、もちろんあなたのお眼鏡に適う程度の器量はあるはずよ」


 ちゃんと奴隷の見た目が重要なことも理解しているとは、なかなか気がきく奴である。


「それは是非、会ってみたいな」

「それなら、今日これからテルテナ島に帰って連れてきましょう。例の扉使わせてもらっていい?」

「あぁ。テルテナ島なら大丈夫だろう」

「それじゃあお願いするわ。今日は魔物退治や護衛やらはお休みね」

「アーシュ達には俺から伝えておこう」


 テナはその後すぐ旅の、扉を使ってテルテナ島に帰っていった。とりあえず人魚族の奴隷は当てができたから、テナが戻ってくるまでの間に人魚族の商人ガギルダのところに行ってみよう。



「なんだ。わざわざアスタに来たと思ったら隷属を仕入れたいだけとは、お前も好きだな」


 挨拶もそこそこに隷属を仕入れたいという用件を話すと、ゲラゲラと笑われながらそんなことを言われた。なんだか先程も似たようなことを言われた気がする。


「えぇ。まあもちろんそっちの用途もありますが、今回は単純に人手が欲しいという理由がありまして」

「勿論わかっているさ。カルサ島もずいぶんと賑わってきているようだからな。それで希望は、若くて器量の良い処女でいいんだな」

「えぇ。健康であれば問題はありません。できれば種族は、人族と狐獣族ワーフォックス以外だと良いです」

「そうなると人魚族マーフォーク兎獣族ワーラビットか。そういえば兎獣族ならば丁度いい奴がいる。紹介してやろう」

「おぉ、ありがとうございます」


 しばらく待っていてくれと言われ、応接間で茶を飲みながら待つ。ちなみに今日連れてきている付き人はリースとアーシュの二人だ。この二人は俺が観察する限り、奴隷たちのリーダー的な存在なので、一緒に働けるかどうかはこいつらに確認すれば問題ないだろう。


 もちろん前提条件として、ある程度の器量を持っていることが必須だが。


「待たせたな。これがそうだ」


 戻ってきたガギルダの後ろに、長く垂れ下がった耳を持つ兎獣族が立っていた。おっとりとした垂れ目が印象的で、すこし癖のある亜麻色の長髪をした美人だ。背は兎獣族にしては高く、俺より少し低いか同じくらいで、おそらく年も同じくらいだろう。


「兎獣族のスーだ。歳は確か18だったか。俺の取引先の一つが借金のかたに押し付けてきたんだ。どこかの開拓村にでも売りに行こうと思っていたんだが、リョウ殿に買ってもらえると手間が省ける」


 適当に扱っているような口ぶりにしては、器量もスタイルもなかなか良い。もちろんリースやアーシュに比べると肌の状態や、髪や毛の光沢が見劣りするが、それは磨けばどうにでもなるだろう。


 結局少し会話した後、リースとアーシュにも意見を聞いてから、隷属権を買い取って連れて帰ることにした。支払いはつけだ。今回ガギルダが紹介できそうなのがスーだけだったので、良さそうな隷属が手に入ればまた紹介してほしいと約束して帰ることにした。



 カルサ島に戻ると、テナが例の人魚族の隷属候補を連れて戻っていた。簡単に話を聞いて、すぐに隷属人とすることに決まり、そのままその日の夕食時に皆の前で先ほど仕入れてきたスーと一緒に紹介することにした。


 夕食時はいつもなら砂国で集まることが多いのだが、今回はテナと彼女から紹介された隷属人もいるので、カルサ島の広場に集合している。


「兎獣族のスーと申します。アスタの街では父の屋台で仕事を手伝っていました。先月からガギルダ様のお世話になっておりましたが、今日からリョウ様の隷属としてお世話になることになりました。どうかよろしくお願いいたします」


 まずはスーが早口で自己紹介し、ぎこちない動きで頭を下げていた。先ほど話した感じ、普段はもっとおっとりとして落ち着いた雰囲気なのだが、随分と緊張しているようにみえる。ここに来る時に利用した扉や、見たこともないであろう多様な種族の奴隷達にでも驚いているようだ。まあ、すぐに慣れるだろう。


 ちなみに屋台で働いていたということで、ある程度料理をつくることができるそうだ。サラと一緒にウチの食事環境の維持に頑張ってもらおう。


「ちなみにスーと名乗っているが、それは父親からもらった名前か?」

「いえ、ガギルダ様から付け直していただいた名前です。元はシュリと呼ばれていました」

「そうか。それじゃあどちらの名前が気に入っている?」

「え……っと。スーという名前は頂いて一年も経っていないので、まだ少し違和感があります。どちらかといえばやはり昔の名前の方が……」

「それじゃあ、今日からお前はシュリ・カガだ。みなもシュリと呼ぶように」

「あ、えっ? えっと、ありがとうございます」


 シュリが少し困惑しながら頭を下げる。亜麻色の髪の毛とともに兎獣族の特徴である大きな灰色の兎耳が垂れ下がった。柔らかい毛で覆われたその長耳は、先ほど少し触らせてもらったが、触り心地が最高だった。


「次はレンだ」

「はい」


 指名された少女が立ち上がり、大きく息を吸って喋り出す。


「人魚族のレンです。テルテナ島ではテナ様のお父上であるラウ様の隷属人として奉公しておりました。島の偉大な恩人であるリョウ様のお仕えすることができ、大変光栄です。どうか皆様、よろしくお願いします」


 一息で言い終えると、小さな身体をちょこんと折り曲げて礼をしてみせた。レンはショートカットの黒髪がよく似合っている人魚族の少女だ。歳は11なので、ウチの奴隷のなかでは最年少となる。テルテナ島からテナが連れてきたのだが、わざわざ島に里帰りしてまで紹介してきたのには理由があった。


「レンはこのカルサ島の出身なの。生まれてすぐに島はリヴァイアサンに滅ぼされたけど、その直前にレンの親が彼女だけ私の父に預けたそうよ。それ以来、隷属人としてイスタ家で奉公していたの」


 レンに続いて始まったリース達の自己紹介の最中、隣に座っていたテナがそんな話をしてきた。


 テナが俺の護衛としてカルサ島に行くといった時も、レンはついて行きたいと言ってきたが、その時はカルサ島で俺が何をするのかわからなかったため止めたらしい。しかし現在のカルサ島が人も建物も増えて賑わってきている様子をみて、テナもレンを連れてくる気になったそうだ。


「しかし、本当に俺の隷属にしてよかったのか」

「えぇ、父様にも許可はもらっているわ。どうせ生まれつき隷属だし、島でも嫁の貰い手がいなかったでしょうから、ちょうどいいのよ」

「なんで貰い手がいないんだ。十分に器量は良いだろう」

「あなたみたいに女性を見た目だけで判断してくれる素敵な男性ばかりだと、話は簡単なのだけどね」


 軽く皮肉を言われた気がするが、気のせいだろう。レンは背丈こそ年齢相応に小さいが、凛々しく整った顔立ちをしている。可愛い少女というよりは格好いい女子という雰囲気で、十分に可愛い部類だ。まだまだあどけなさは残っているが、もう5年もすれば立派な美人に成長するだろう。


「レンはリヴァイアサンに滅ぼされた島の娘だから、テルテナ島ではずいぶんと忌み嫌われていたの。同年代で話す相手がいなくて、一番歳が近くて話をするのが私くらいだったから、結構苦労していたのよ」

「いわくつきの娘ということか」

「そういうこと。もしもカルサ島の生き残りだとリヴァイアサンにバレたら、自分たちにも怒りが降りかかるかもしれないって、随分と恐れられていたわ」

「それならリヴァイアサンは倒されたんだ。普通の娘に戻ったんじゃないのか」

「まあそうなんだけど……さっきあの子と話して分かったでしょう?」


 テナが呆れたようにため息をつく。実は先立ってレンと話をした時に、異常なほど尊敬した眼を向けられたのだ。それはまるで憧れの芸能人にでも会った時のような反応だった。


 テナが俺を魔法の師匠だと偽って紹介して以来、随分と憧れていたらしい。そしてさらに今は、俺がリヴァイアサンを倒した際に海に開けた大穴の術者であり、島を救った恩人だとテナが教えてしまったため、好感度がさらに上がってしまっていた。


「あの子が望んであなたの隷属になるって言っているのだから、貰ってあげるのが男でしょう」

「もちろん遠慮なくもらうが、特別扱いする気はないぞ」

「えぇ。ただ一応言っておくけど、あの子はまだ、そういうことはできないと思うわ。知識的にも身体的にもね」


 テナが少し眉をひそめながら言う。なんだこいつ。俺がレンの身体を目当てに隷属権を買ったと思っているのか。それは間違ってはいないが、誤解だ。


「安心しろ。俺も子供には興味ない。ただ時期が来れば使うというだけの話だ」

「……格好よく言ったつもりなのかもしれないけど、普通にドン引きよ」

「……」

「まあいいわ。一応私にとっても妹みたいなものだから、泣かせるようなことをしたら許さないからね」

「……安心しろ。せいぜい他の奴隷達と同じようにこき使うだけだ」



 その後、自己紹介も終わり、歓迎会も兼ねた夕食を終えると、片付けを始めてもらう前に皆の注目を集める。


「シュリとレンを加えて、これで俺の奴隷は10人になった。これからも増えるだろうが、今後のために少し班分けをしておこうと思う。まずはリース」

「はい」

「お前はこれからも筆頭奴隷として皆を率いてくれ。その上でナスタとラピス、それにノーラと一緒に取引や商談を手伝ってもらう。しっかり頼むぞ」

「かしこまりました」


 リースと共に名前を挙げられたナスタ、ラピス、ノーラもまた立ち上がって礼をしてきた。


「次にアーシュ」

「はい、ご主人様」

「お前にはこれからも護衛や魔物退治を頼むだろう。ロルとレンにも同様の仕事を頼むだろうから、一緒に仕事をする時には二人に指示を出してくれ」

「かしこまりました」

「ロルも頑張るよ! レンちゃんも!」

「は、はい」


 早速レンの隣で仲良くなっていたロルが楽しそうに返事をする。苦笑いしながらも、レンはこくりと頷いていた。


「次はサラ」

「はぁい」

「お前にはこれからもウチの食事や料理について一切を任せる。シュリも料理ができるそうだから、色々と教えてやりながら一緒に働いてくれ」

「お任せください、ご主人様ぁ」

「足手まといにならないよう、頑張ります」


 料理班はサラとシュリの2人だけだが、今のところ手は足りるだろう。


「最後にアン」

「……はい」

「お前の仕事は魔石関連だ。いまは一人だが、これから奴隷が増えれば下につけてやる。とりあえずは一人で進めておいてくれ」

「……かしこまりました、ご主人様」


 アンは控えめに礼をしてみせた。次に奴隷を仕入れることになれば、できるだけアンの班に加えてやることにしよう。


「勿論それぞれ雑務や屋敷の管理などは、これまで通り皆で分担してやってもらう。人数は増えたが、皆お互いに尊敬しあって仲良くやるように」


 そうして新入りが来て初めての夕食の場はお開きとなった。なぜか隣で、私には何もないのかと言いたげなテナが視線を向けていたが、無視してその場を後にした。





 



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