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77. 魔石製品

77 魔石製品


 麓の村から扉を使って、竜の巣の野営地に戻ってきた。ギド爺さんは村に残ったので、奴隷以外でここにいるのはフィズとエミリアの二人だけだ。先ほど二人には、相談したいことがあると告げていた。


「なんだ。相談っていうのは」

「少し長くなってしまうかもしれませんが、ご容赦いただければと思います。まずはこちらをご覧ください。アン」

「……」


 おずおずと進み出てきたアンが、ある物を手渡してきた。それは鉄製の筒に取手のついた、奇妙な物体だった。筒の直径は10cmほど。結構な重さだ。頭でっかちのハンマーのような形をしており、筒の先からは杭のような物の先端が見える。ぱっと見、何に使うのかよくわからない。


「なんだこれは」

「一言でいうと、武器です。使ってみせたほうが話が早いでしょう」


 そう言って手近にあった岩の前に立ち、ハンマーもどきを構える。しばらくの間取手を持ってぶんぶんと振り回した後、ガンっと思いっきり岩に叩きつけた。ピシっという異様なほど小さな衝突音が響く。


 そのままゆっくりとハンマーもどきをどけると、そこには小さな穴が開いており、穴を中心に亀裂が全体に広がっていた。その光景に、フィズとエミリアがそろって目を見開く。


「おぉ」

「なにこれ、どうなってるの?」

「これは今みせたように、先端から杭を打ち出す装置です。ただし内部には、ヴィエタさんが発明した魔石が仕込まれています」

「魔石だと?」

「はい。魔核を加工して得られる物質です。魔核の種類によっていろいろな性質を持ちますが、この武器に仕込まれているものは振動を吸収し、衝撃として打ち出す魔石です」


 以前から魔石を使った製品造りを任せていたアンは、この溜め込んだ衝撃によって杭を打ち出す装置、いわゆるパイルバンカーを作りだしてきた。最初に買い取った魔石では上手くいかなかったらしく、ヴィエタに相談してさらに改良した魔石を作い制作したそうだ。その辺りの工夫や改良点については、手渡されたとき熱心に説明してくれたのだが、興味が無かったので聞き流してしまった。


 しかし実際に出来上がったものをみれば、十分な破壊力をもった武器に仕上がっている。何よりこの武器の恐ろしい点は、殴りつけた時の反動さえも衝撃に変換し、攻撃の威力を格段に向上させている点だ。


「殴りかかった時の反動は、一瞬にして魔石に蓄えられます。同時に先端が押し付けられたことで魔石の衝撃を放出する機能が発動し、それまで蓄えた振動と共にまとめて杭を至近距離から打ち出します。その結果がこの威力です」


 アンから教わった説明を完コピして、自信満々に商品説明を行う。実際のところどういう構造になっているのか全然理解していないが、使えるのだからどうでもいい。営業に詳しい仕様など不要だ。


「貸してみてくれ」


 フィズが興味深そうな表情で手を差し出してきた。装置を手渡すとすぐに構え、えいやと大岩に叩きつける。すると再び乾いた衝撃音とともに、大岩にひびが入った。


「なるほどな」

「私にもさせて―」


 エミリアがフィズからひったくり、同じように使用すると、おおーと驚きの声をあげていた。二人とも珍しい武器に感心しているというより、新しい玩具ではしゃいでいるようにみえる。


 暫く二人で色々なものに対してパイルバンカーを試したのち、感想を言ってきた。


「面白い武器だ。扱いに慣れるまでが大変そうだが、まともに刃が通らない相手にも有効かもな」

「そうね。どれくらいの威力になるのか実際に試さないとわからないけど、もしかしたら竜の巣の深域にいる魔物に効くかも」


 竜の巣の深域。そこには竜族、いわゆるドラゴン達が住まうという。彼らは灼熱の炎を吐き、大木をも切断する爪を振るい、さらには鋼鉄よりも硬い鱗を持つという伝説の魔物だ。


 しかしこのパイルバンカーならば、大きな衝撃を一点に集中して打ち出すため、どんなに硬い相手だろうがダメージを与えられるはずである。たぶん、きっと。


「ドラゴンとは一度だけ対峙したことがあるが、私の攻撃が一切通らなかった。しかしこの武器ならば可能性があるかもな」

「非力なものが使っても強力ですが、性質上殴りかかる勢いが強いほど破壊力が上がります。出来うるならば怪力を持つ偉丈夫の方に使っていただければ、最大の威力を発揮すると思います」

「そうか。なるほどな」


 フィズが納得したように頷く。表情を見るに感触は悪くない。さすがはアンの自信作である。


「相談っていうのは、こいつのことだったのか?」

「いえ、まだまだ本題ではないのですが、次はこれをご覧ください」


 そう言って次に取り出したのは、先日ヴィエタに貰った鳶色の魔石をラウンドシールドに装着した盾だった。アンに命じて、徹夜で作ってもらったものだ。


「ここに装着されている鳶色の板も魔石です。ワイバーンの魔核から作られておりますが、これには炎を吸収する性質があります」

「炎を吸収? 本当か?」


 聞いたところによると、ワイバーンは炎を吐く魔物らしい。また竜の巣の奥に生息する竜族の多くが、炎の息を標準装備しているそうだ。そうなるとこの炎を吸収するという新しい魔石の使い道はこれだろう。炎を防ぐ大盾、名付けて防火の盾である。


 実際に薪の中に防火の盾を近づけると、見るからに炎が小さくなった。しっかり炎を吸収しているようだ。


「このように、炎に近づけると吸収されて炎が小さくなります。残念ながらそちらのパイルバンカーの魔石のように、蓄えた炎を放出する術は確立されていませんが、熱として排出されるのでそう簡単に壊れたりはしないでしょう」


 その説明に、フィズとエミリアの目の色が変わる。


「これって……ねぇフィズ」

「あぁ。もしもワイバーンの火の息も防げるなら、戦い方が変わるな」


 フィズは普段あまり動かさない尻尾を振り回し、嬉々とした表情で言った。どうやらこちらのほうがワイバーン相手に即効性があるので、興味が強いようだ。


「リョウ殿。さっそくで悪いのだが、こいつを貸してもらってもいいか?」

「それは構いませんが。どうするつもりですか?」

「ちょっと一狩り行ってくる」


 まぶしい笑顔で宣言するフィズに、エミリアもまた身を乗り出す。


「あ、いいわね。実際にワイバーン相手に試してみましょう。私も行くわ」

「まて、お前まで来たらここに魔物が来た時、誰がリョウ殿を守るんだよ」

「一人で楽しんでくる気? そんなの絶対に許さないんだから」

「それじゃあ、交代で行けばいいだろうが」

「私が先ならいいわよ」

「こっちが先だ」


 いきなり言い争い始めてしまったので、慌てて二人の間に入ってなだめる。


「それではしばらくの間、私は麓の村に戻っておりますのでお二人で行ってください。扉はそちらから適当にふさいでいただいて、頃合いが来たら呼びに来ていただければ」

「あ、そうしてくれると助かるわ」


 エミリアが嬉しそうに言ってくる。それではと礼をして扉に向かうと、その前にフィズに呼び止められた。


「あ、リョウ殿。ついでだからさっきのパイルバンカーとかいう奴も貸してくれ!」


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