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76. 金鉱脈

76. 金鉱脈


 翌日、明け方からフィズに連れられ、竜の巣を登り始めた。同行者はギド爺さんのほか、昨日から連れているロルとアーシュとアンだ。魔物と戦える奴隷は全員連れているので、カルサ島のテナはいまごろ休暇中だろう。


 しばらくは鬱蒼とした森の斜面を進んでいたが、徐々に木々がまばらとなり、やがて岩肌が露出した山脈地帯へと景色が変化していった。


 進むだけならば、ただの山登りなのでなんとかついていけた。しかし結構な頻度で出現する魔物が行く手を阻む。火を噴く大型のトカゲや、鹿のような頭をもった猿、それに骨組みだけでうごく巨大なサソリなど、初めて見る魔物ばかりだ。


 どれも強さ的にはランク3か4に分類される強力な魔物らしいのだが、幸いなことにワイバーンとやらに出会うことはなかったので、フィズがロル達を率いて確実に処理していった。


 途中一度夜営をしてから、翌日の昼ごろ金鉱脈へたどり着いた。フィズは半日で下ってきたようだが、一般人の場合には登りで一泊する必要があり、かなり大変な道のりだ。


 切り立った岸壁のそばに設置された野営地がみえてくると、ようやく到着したかと安心した。この一年で多少は体力がついたと思っていたが、やはり山登りは別物だ。すでにヘトヘトである。残った力を振り絞って野営地にたどり着くと、焚き火の前で弓の手入れをしている女性の姿が目に入った。


「エミリア、戻ったぞ」


 フィズが声を掛けると、彼女は立ち上がって出迎える。帝国でよく見かける赤毛の髪を持った細身の女性だった。


「お帰りなさい。早かったわね。お客さん?」

「あぁ、紹介しよう。商人のリョウ殿だ。ワイバーンの魔核を買い取ってもらうことになった。こっちはエミリア。人族の冒険者だ」


 紹介されたので、礼をして自己紹介をする。


「初めまして、リョウ・カガと申します」

「こちらこそ。冒険者のエミリアよ。商人がこんな危険な場所まで来るなんて、珍しいわね」


 エミリアはそう言ってじっと見つめてくる。フィズが言うに昔からの知り合いらしく、帝都の冒険者ギルドでランク5に格付けされるほどの凄腕だそうだ。


「金鉱を実際に確認したいんだと。まったく、商人というやつは金儲けのためなら命知らずだ。あぁそうだ。護衛にこれだけもらってきたから、あとで山分けな」

「へぇ。リョウさん、私は商人があまり好きではないけど、金払いがいいなら別よ」

「ありがとうございます」


 なにやら意味深な表情で流し目を送られている気がするが、まあいい。


「ギドさん。この辺りが金鉱脈なのですね」

「あぁ。露出しているだけでもかなりの範囲だ。実際に掘ってみないと正確にはわからないが、かなりの量が埋蔵されているだろう。例えばそこらへんなんか、掘ればすぐに質の良い金鉱石が得られるはずだ」

「なるほど」


 指をさされた岸壁を見ても、あまり違いは判らない。近づいて目を細めると、たしかにきらきらとした金色の部分があるようにみえる。しかしこれが本当に金なのかどうか、俺には判断できなかった。まあギド爺さんがいうなら間違いないのだろう。


「どれくらいの頻度でワイバーンが現れるのでしょうか」


 フィズには聞いてみると、少し首をかしげ思い出すような仕草をしながら答える。


「最初はこのあたり一帯、そこらの鹿よりも多くいたな。今は私とエミリアでかなり討伐したから、少なくともこの野営地だけなら日に一度襲ってくる程度だろうよ」


 それでも日に一度は来るのか。結構な頻度だ


「なるほど。もし仮にここに数十人規模の採掘施設を作るとして、防衛するにはどれくらいの戦力が欲しいですか」

「守るだけならランク5の冒険者一人で十分だろう。それ以下のランクだと得物にもよるが、まあ4,5人いれば大丈夫かな。ただ今私がしてきたように、下の村との往復を護衛する仕事はランク4以下では難しいだろう」


 今回は運よくワイバーンとは出会わなかったが、道中でも普通に出現するそうだ。ワイバーンは飛行しながら炎を吐き散らかしてくるため、防衛設備も何もない道中で非戦闘員を護衛しようとすると非常に厄介な相手らしい。


 そしてワイバーンは討伐するにも、それなりの対策が必要だそうだ。撃退するだけならば、フィズの使う槍のように近接武器でもなんとかなるが、討伐までしようとすれば、普通は遠隔武器である弓矢が必須らしい。


「だからわざわざ帝都からエミリアを連れて来たんだ。こいつはちょっと金には汚いが、弓の腕だけは世界一だからな」

「フィズ、一言余計よ」


 エミリアが張り付けたような笑顔で、ちくりとつぶやいた。切れ味のある抗議の声だったが、まあこんなところで一緒に狩りをするくらいだ。仲は良いのだろう。


「そんなことより、リョウ殿。いい加減、話を聞かせてもらえないか。わざわざここまで案内させたんだからな」

「なになに。何の話?」

「なにやらここに来ないとできない話があるそうだ」

「へぇ」


 フィズが急かすように言うと、エミリアもまた顔を向けてくる。ギド爺さんもまた、無言で腕組みをして待っていた。


「ではお話ししましょう。まずはこちらをご覧いただきたい」


 手近にあった岩に印を設置し、扉(小)を開く。繋げる場所はギドの村の広場にあった大岩で、先日温泉に入った後に印を設置しておいた場所だ。


「なんだ、これは」

「穴?」

「なになに?」


 三人とも興味津々といった様子で、地上からの少し暖かい風が吹き込む扉に近づいてくる。彼らと扉の間に立ち、簡単に説明する。


「これは離れた地点を繋げる魔法のようなものです。この場所と麓の村の広場を繋げたので、この扉を通れば麓まで一瞬で移動できます」


 説明しても3人とも困惑した表情を浮かべていたので、いつものようにロルを先に行き来させて安全だと示した後、実際に扉をくぐらせる。扉を抜けて麓の村の広場にたどり着くと、皆一様に驚いていた。


「こんな魔法があるとは……」

「信じられないな」

「はえー」


 唖然とする三人だったが、特に感心していたエミリアがぽんと手を叩いた。


「そうか。帝都の広場に開いた穴を作った魔法使いって、リョウ殿だったのね」

「あぁ、確かにそんなものがあったな」


 フィズもそういえば、とうなずく。もはや隠しとおせるものでもないので、素直に認めておく。


「えぇ、まあ。できるなら、あまり広めないでいただければ幸いです」

「もちろん、秘密は守るさ。しかし本当に驚いた」

「こんなことができるなら、昨日話した問題はほとんど解決するぞ」


 ギド爺さんが激しい口調で割り込んできた。そりゃ興奮もするだろう。ギドが最も問題視していた金鉱脈と村との行き来が、一瞬で可能になったのだから。

 

「この扉は自由に使っていいのだな」

「もちろんです。金鉱の開発・運営についてはギドさんに一任したいと考えています。また道具や資金の援助も行おうと思いますので、遠慮なく相談してください」

「資金まで出してくれるのか。それならいくらでも開発してやるさ。これから忙しくなるな」

「お願いします。残る問題は精錬の知識のある人材くらいでしょうか。私には当てがないのですが」

「それなら心当たりがある。任せておけ」


 ギドが胸を張って即答してきた。瞳が子供のように輝いている。どうやら相当やる気になってくれたようだ。


「資金を出す代わりに、金をインゴットにまで加工できるようになれば、優先的に買い取れせていただきたいのですがよろしいですか」

「もちろんだ。ただ、それまでには少なくとも半年はかかろう。目途が立ったら連絡するから、待っておれ」


 興奮した様子のギドはそういうと、さっそく若い衆を集めてくるといって屋敷に戻ってしまった。俺はフィズとエミリアに対して相談したいことがあると言って、再び扉を使い竜の巣の野営地に戻ることにした。


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