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51. 名前

51 名前


 客家に戻り、リース達に新しく仕入れたノーラを紹介する。


「聞いていたとは思うが、今日から奴隷となったノーラだ。皆、仲良くやるように」

「よろしくお願いいたします」


 ノーラが頭を下げる。自分と似たような年頃の奴隷たちを見て、不安そうな様子は少し収まっていた。


「私は筆頭奴隷のリース、犬獣族ワードッグです」

「ロルだよ。リース姉さまの妹です。よろしくね」

「エルフ族のアーシュと申します。よろしくお願いいたします」


 今ここにいるのはこの三人だけだ。あとは夕飯の時にでも紹介しよう。


「ほかにも4人ほどいるから、後で紹介する。ノーラは狐獣族ワーフォックスで間違いないよな?」

「はい。父は兎獣族ワーラビットですが、私は母方の血が濃かったようです」

「何歳だ?」

「13です」


 確かに幼げだと思っていたが13才か。ロルがこの前12才になったから丁度いい。


「それじゃあロル、お前とほとんど同じだな。年下だが俺の奴隷としては先輩だ。いろいろ教えてやれ」

「はい! 私の一つ上だけど、えっと、ノーラって呼んでもいい?」


 ロルが顔を寄せると、ノーラは少し赤面しながら答えた。


「は、はい。よろしくお願いいたします。ロルさん」

「ロル! ロルだよ!」

「えっと、ロル」

「うん。よろしくね!」


 嬉しそうに尻尾を振りながら握手をするロルにノーラは戸惑いっぱなしだ。まあ笑顔が見えるので問題ないだろう。


「ご主人様。彼女は隷属者になったと聞きましたが、先ほどの話では名前を与える必要があったと思います。どのような名前をお与えになったのでしょう」


 リースが聞いてきた。そういえば、リースは荷物を運びに出ていたから命名の件は知らないのか。


「名前を変えるのも面倒だったのでな。俺の苗字をくれてやった。だから正確にはノーラ・カガとなったわけだが、いつも苗字まで呼ぶ必要もないだろ。これからもノーラと呼べ」

「えっ?」

「え……」

「ほぇ?」


 リースとノーラが同時に固まり、少し遅れてアーシュが困惑した表情で首を傾げ、最後にロルが皆の奇妙な反応に気が付いて間の抜けた声を発した。なんだなんだと思っていたら、アーシュがちらちらとリースの顔色をうかがいながら小声で言ってくる。


「ご主人様、ノーラにご主人様の苗字を与えたとおっしゃりましたか?」

「あぁ」

「えっと、奴隷に苗字を与えるという行為は非常識だと思われます。西方諸国では苗字を持つことは市民や自由民となって初めて可能なこと。一介の奴隷は苗字など名乗りません」


 まじか。


「そうなるとノーラに苗字を与えたのはまずかったか」

「西方諸国でノーラが名乗らなければ、特に問題はないと思います。ただ与えた苗字がご主人様のものというのが少々……」


 アーシュは困った視線をリースにむけた。リースは唇を真一文字にし、涙を耐えるように小さく震えている。なにやらリースの様子がおかしい。はて、と理由を考えていると、ノーラがひどく畏まりながら言ってくる。


「……畏れ多くもご主人様の苗字をいただき、身に余る光栄でございます」


 そのまま五体投地の勢いでひざまずいた。どうも苗字を与えたということよりも、主人である俺と同じ苗字というのがまずかったようだ。


 なるほど。状況は把握した。しかしまあそれなら話は簡単だ。


「よし。それじゃあ、お前たち全員にも俺の苗字を与える。リース、お前は今日からリース・カガだ」

「え……?」


 そう宣言すると、リースは一転して嬉しそうな表情に変わった。苗字を与えるだけで光栄に思うなら全員にくれてやる。別に減るもんじゃないし。


「ありがとうございます、ご主人様」

「あぁ。ナスタ達には夕食時にでも伝えよう」

「ぜひお願いいたします。皆、喜ぶことでしょう」


 うきうきと返事をするリースとのやり取りをみて、ロルが首を傾げる。


「えっと、ロルも苗字をもらったってこと?」

「そうですよ。ロルちゃんもロル・カガとなりました。私もアーシュ・カガです」

「みんな同じ苗字ってこと? すごい!」

「えぇ。ただし家の外では名乗らないように気を付けてくださいね」


 混乱気味のロルにアーシュが釘を刺していた。最初に一人だけ苗字を与えられることになったノーラも、ほっと息をついているところを見るに安心したようだ。


「そういえば、お前たちは苗字を持っていたのか?」


 リース達も奴隷に堕ちる前はそれぞれの村で立場のある生活をしていたはずだ。苗字の一つでも持っていたのではないのだろうか。そう思って聞いてみると、最初にアーシュがこくりとうなずいた。


「私は族名と家名を持っておりました。イクシオン・アーシュ・レルタ。それが元々の名です」


 めっちゃかっこいいんだけど。そっちを名乗ったほういいと思うが、そういう訳にはいかないのか。


「我々姉妹は元々、父の名であるガルナという苗字を持っておりましたが、奴隷に落とされた時点で剥奪されました。しかしご主人様の御名を頂きましたので、今日からはリース・カガと名乗らせていただきます」


 絶対にリース・ガルナの方がかっこいいと思うが……


「西方諸国では名乗らないように気をつけろよ」

「はい。もちろんでございます。ご主人様、ありがとうございます」

「あぁ」



 その後、全員でラーシャーンに移動してノーラを残りの者にも紹介し、その後全員に苗字を与えることを話しておいた。西方諸国出身のサラは少し驚いたもののすぐに受け入れてくれたのだが、砂国出身であるナスタ・ラピス・アンの三人は全力で遠慮してきた。


「ご、ご主人様……砂国において奴隷に苗字を与えるということは、その奴隷を解放することと同義でございます。我々は解放されたくなどございません。どうか、どうかご勘弁ください」


 とナスタが泣きついてきた。砂国では苗字を与えることは奴隷解放を意味するらしい。なんというか、それぞれの地域で習慣が違いすぎて面倒くさい。


「南部諸島では、奴隷は名を与えられる必要があるんだよ」

「しかし……」

「砂国で苗字を貰うとまずいというなら、南部諸島にいる時だけ名乗るようにしておけ。これは命令だ」

「か……かしこまりました」


 説得するのが面倒になって所有者権限を発動すると、ナスタ達はかしこまりながらも結局は了承した。

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