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47. 水浴び

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 3日後の朝には旅の目的地である南部諸島に向け、ラーシャーンの東に広がる大砂漠へ出発した。今回は三人ずつローテーションを組み、それぞれラクダに騎乗して進むことにしている。今日の午前は俺とアーシュとサラの三人の番だ。


 大砂漠は見上げるような大きさの砂丘ばかりだった。最初の頃は砂丘を一つ越えるたびに謎の達成感があったのだが、いくつか越えたところからは何も感じなくなってしまった。何処まで行っても砂色の同じ景色の中、たまにアーシュ達と会話しなければ、どうにかなってしまいそうだった。


 しかし幸いだったのが、朝方と夕方は思ったより暑くなかったことだ。ラクダの背に乗っているので地面からの照り返しはそれほどでもないし、直射日光も幌で防いでいるからだろう。少なくとも日が高くないうちは、全く問題なく旅を続けることができた。


「ご主人様。そろそろお昼前かと思いますぅ」


 先行するラクダに乗っていたサラが知らせてくれた。同時に後ろのもう一匹に乗るアーシュに手を振り、立ち止まる。


「それじゃあ天幕を張っておいてくれ。俺は水を持ってくる」

「はぁい」

「わかりました」


 砂漠のど真ん中でラクダから降りると、早速ラクダの背にくくり付けている板に設置している扉を使い、ラーシャーンの倉庫に戻る。するとそこではラピスとナスタが、なみなみと水を注いだ瓶を並べて待っていた。


「お待ちしておりました。ご主人様」

「すぐに撒きに行こう。もうだいぶ気温が上がっている」

「はい」


 二人が扉から砂漠へと移動し、俺も用意してあった瓶を持って移動する。


 砂漠ではサラ達が天幕を張り、ラクダたちを日影に避難させていた。砂漠の昼間はさすがに暑すぎるので正午付近は天幕を張って休憩した方がいいと、アーシュがどこかで聞いてきた話を採用している。


 ついでに周囲に打ち水もして暑さを和らげている。砂漠の真ん中とは思えない水の浪費だが、実際いくらでも持ってこれるのだから問題ない。


 それからは日が傾き始めるまで、しばらく待機である。何かあってはいけないので、俺はできるだけ砂漠で待機していたが、奴隷たちは学校に行ったり屋敷の仕事を片付けたりと結構忙しそうにしていた。まあ、俺が忙しくさせているんだが。



 やがて日が傾き始め、気温が峠を越えた頃に天幕を片付けて出発する。午後のメンバーはリースとナスタだ。日が沈んだあとも、基本的には松明を焚いて進み続けた。夜は冷えるが、灼熱の昼間よりはずっと過ごしやすい。


「ご主人様。そろそろ晩御飯の時間かと」


 隣を行くリースがラクダを並べて声を掛けてきた。


「そうだな。それじゃあ今日はこれくらいにしておこう」

「かしこまりました。ナスタ!」

「はい、リースさん」


 後ろのラクダに騎乗していたナスタに声を掛け、ラクダを止める。夜は天幕を張る必要はないが、ラクダ達は一繋ぎにして待機させておいた。その背に固定している扉から屋敷に戻り、簡単に砂を落としてから食卓に向かうと、サラが笑顔で料理を準備してくれていた。


「お帰りなさいませ、ご主人様。お食事の準備はできておりますよぉ」


 全員が揃っていることを確認し、号令をかける。


「それじゃあ、みんなでいただこう」


 そうして全員揃って晩飯を食べ、そのあとは片付け当番以外のみんなで風呂に入り、一日の終わりだ。ちなみに寝ずの番は基本的にアーシュとロルに交代でやってもらっている。魔物は出ないというが、念のためにだ。


 しかし予想はしていたが、砂漠の旅がここまでぬるいとは。扉の管理者様々だな。



 砂国で買った奴隷の中に、ひときわ影の薄い娘が居る。ドワーフのアンだ。こいつは背も小さいうえ、とにかく真面目でおとなしい性格をしていた。


 姿が見えないので何をしているのかとリースにたずねると、どこどこの補修をしていますとか、なになにを作ってもらっていますとか、いつもそんな答えが返ってきた。


 しっかりと働いているのは間違いないが、気をつけておかないと褒めるタイミングが難しい奴というのがアンの印象だ。控えめな胸と態度、それと可愛らしい声は結構お気に入りなのだが。



「ご主人様。先ほど帝都の屋敷にヴィエタ様がお見えになりましたぁ」


 昼の休憩時に屋敷に戻ると、サラが報告してきた。ヴィエタというと、ゲルルグ原野で出会った魔核の研究者だったっけ。


「ヴィエタか。なんの用事だって?」

「相談したいことがあるそうで、また午後に来ますと仰っていましたぁ」

「そうか。それじゃあ俺は午後の横断にはいかないで、そっちを対応するか。午後のメンバーは誰だったっけ」

「えっと、私とアンだと思いますぅ」


 帝都の屋敷で会うなら、そこに住んでいることになっているサラには同席して欲しい。そうなるとアンだけで砂漠を行かせるのは危険だな。


「それじゃあ午後の横断は休みだ。帝都でヴィエタを迎える準備をしてくれ。アンはどこにいった?」

「えぇと、アンなら確か、外塀の補修をしていたと思いますぅ」

「それじゃあ連れてくるから、先に帝都に行っておいてくれ」

「はぁい」


 サラを先に送り出し、屋敷の外に出た。この屋敷の敷地は乾燥レンガの塀で囲まれている。先日のサンドアントの襲撃によって多少崩された箇所があったため、補修する必要があったのだが、どうやらアンが一人でやってくれているそうだ。


 アンに今日の予定を教えようと作業をしているという裏庭のほうに回ってみると、山盛りになったレンガと粘土のなかで、栗毛の少女がかいがいしく働いていた。


「アン」

「あっ……ご主人様」


 アンが慌てて立ち上がり、礼をしてくる。体中に泥が跳ねており、背格好も相まって砂遊びをした後の子供みたいだ。


「午後の横断の仕事は無しだ。代わりに客を迎えるから、帝都の拠点でサラと一緒に準備をしてくれ」

「わかりました……井戸に着替えを置いておりますので、身奇麗にしたらすぐに向かいます」

「外の井戸を使うくらいなら、風呂を使っていいぞ」

「……しかし、汚してしまうので」


 まあ、たしかにこの汚さじゃあ、外で洗ったほうが良いか。


「よし。それじゃあ俺が洗ってやろう。来い」

「あっ……はい」


 一瞬驚いた表情をみせたが、すぐにいつもの無表情に戻り、俺の後をついてきた。


 井戸に着くなり汚れた服を脱がし、裸になったアンの頭から井戸水をかけてやる。いつもはもさっとしている栗色の縮れ毛が、ペタンと額にはりついた。


 アンは成人こそしているが、背も小さく胸も控えめだ。小鳥サイズの双丘と一口で食べられそうなお尻は、いつ見ても可愛らしい。体型でいえばロルのほうが子供なのだが、あいつはもう数年もすればリースのようなナイスバディに成長してしまうだろう。しかしアンの種族であるドワーフは、これからもずっとこの体型のままだ。


「……ご主人様?」


 目をしっかりとつむって、次の水を待っていたのだろう。アンがきょとんとした声で聞いてきた。


「あぁ、悪い。アンの裸に見とれていた」

「……ぅぅ」


 真っ赤になるアンに追加の水を掛けて泥を落としていく。そのまま丸っこい身体をじっくりと堪能していると、後ろから駆け足で近づいてくる音が聞こえた。


「ご主人様! アン姉さまだけずるいです。ロルも水浴びしたい!」


 ロルが跳ねるようにやって来て、抱きついてきた。服に隠れたもふもふの尻尾が勢いよく動き回っているのがわかる。


「仕事はどうした」

「終わりましたよー」

「本当か? 後でリースに怒られても知らないぞ」

「大丈夫です! たぶん」


 怪しいが、まあいいか。アンと一緒にロルの水浴びも楽しむことにしよう。


「それなら一緒に洗ってやる。服を脱げ」

「やった!」


 ロルは着ていたワンピースをあっという間に脱ぎ捨てると、そのまま水浸しのアンに抱きついていく。


「わわっ……ロル……」

「アン姉様冷んやりして気持ちいいー!」

「あっ……どこを触って……ん……」

「えいえいー……きゃあ!」

 

 ロルに井戸水をぶちまけると、耳と尻尾をピンと立てて硬直していた。


「ご主人様、冷たいよー」

「暑かったんだろ、もう一杯いくぞ」

「うん!」


 アンに抱きついたままのロルに次の水もかけてやる。今度は目をぎゅっとつむりながら、アンの身体に絡みついて待っていた。


 ロルの胸はまだまだ小さいと思っていたが、アンと並べてみるとすでにロルのほうが大きい気がする。これはロルが姉をも超える素質の持ち主なのか、それともアンが小さすぎるだけなのか。どっちなんだろうな。


「ご主人様もっともっと!」

「……もう少しかけてください」


 可愛らしい二人のおねだりに応え、再び井戸水を頭からかけてやる。それからしばらく水浴びを楽しんだ後、新しい服を着せたアンとともに帝都へと移動した。


 なお、ロルの奴は途中でリースに連れて行かれてしまっていた。

 

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