29. 新入り
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三人の新しい奴隷を連れてラーシャーンの屋敷に戻った。奴隷達を広間に集め、先にリース達に自己紹介させた後、新入りを紹介する。
「新しく奴隷となった三人だ。まずは猫獣族のナスタ」
「よろしくお願いします」
ナスタが一歩前に出て頭を下げる。赤茶色のショートカットから見える猫耳がぴょこんと揺れた。体型はほっそりとしているが、少し大きめのお尻から伸びる細い尻尾が可愛らしく、顔も愛嬌のある感じだ。年齢は16歳で、奴隷として選んだ理由は出身が珍しかったからである。
「行商人をしていた親に連れられて、ラーシャーン砂国内を旅してきたらしい。この国の事情とか地理に詳しそうだから買ってきた。わからないことがあれば聞くつもりだから、よろしくな」
「えっと、はい。精いっぱい頑張りたいと思います」
ラーシャーン砂国のことはほとんど知らないからな。ナスタには色々と教えてもらうことにしよう。
「次はドワーフのアン。簡単な大工仕事ならできるそうだ」
「……アンです……よろしくお願いします」
くるくるとしたパーマがかった栗毛の少女だった。年齢は15歳。すべてのサイズが小さめで、身長などは俺の胸の辺りまでしかない。おそらくロルといい勝負だろう。顔はいつもうつむいてわかりづらいが、メガネをかけたら文学少女だと言い張れそうな大人しい感じの可愛さだ。そういえばこの世界、メガネはあるのだろうか。
彼女はものづくりが得意らしく、材料さえあれば家具ぐらい自分で作れると言ってきたから選んできた。
「この屋敷も少し修理が必要だ。建物の補修もできるだろう?」
「は、はい。おそらくは……」
「それじゃあ補修作業を進めてくれ。材料については用意するから、俺かリースに相談しろ」
「……わかりました」
受け答えはおどおどしていて落ち着かない様子だった。まあ、じきに慣れてくれるだろう。
アンを下がらせ、最後の一人を紹介する。
「最後はラピス、ダークエルフだ」
銀色の髪の毛に褐色の肌をした、背の高い女性だった。アーシュと同い年の18歳だが、似た種族であるエルフのアーシュと比べて圧倒的に胸がふくよかだ。雰囲気も妖艶なものを感じる。
買った理由は圧倒的に美人だったから。エルフらしく整った顔立ちに大きな蒼い瞳。体型は細身ながらも肉付きが良く、胸も大きい。そしてなにより異国情緒あふれる褐色の肌がすばらしい。同じエルフ仲間のアーシュと並べて抱くのが楽しみだ。
「ラピスと申します。ダークエルフですが、奴隷の子として生まれたため畑仕事くらいしか経験がありません。しかし精一杯働きますので、どうかよろしくお願いします」
「あの……」
ラピスが挨拶を述べると、少し遠慮がちにアーシュが手を挙げた。
「アーシュ。どうした?」
「あ、いえ……ラピスはダークエルフなのですよね」
「どういう意味だ?」
「ダークエルフという種族は昔、我々エルフに不義を働いたために迫害され、大森林から追われた種族だと聞いております。その為、私の里では会っても絶対に近づくなと教わりました」
あぁ。エルフとダークエルフには因縁があるのか。
「ラピスのほうはなにか、エルフとの因縁は聞いたことあるか」
そう聞くと、ラピスも困ったように眉をひそめる。
「確かに母からは、先祖が大森林という場所に住んでいたという話を聞いた覚えがあります。ただそれくらいしか聞いておりませんので、特に因縁があるとは……」
こっちは何もないらしい。まあ、あったとしても関係ないが。
「いいか。お前達はエルフだとかダークエルフだとか言う前に、俺の奴隷なんだ。変な偏見なんか持たずに仲良くやれよ」
「えっと、勿論でございます。ラピス、よろしくお願いしますね」
「はい。よろしくお願いします」
小さな時に染みついた偏見って面倒なものだ。よし、今日からこの二人は同時に抱くことにしよう。仲良くなってもらうためには仕方ないな。
「他には種族間で因縁みたいなのは無いだろうな」
皆を見渡しながら聞いてみたが、反応は薄かった。とりあえず手近にいたリースに視線を向けてみる。
「犬獣族には特に嫌っている種族などありません。強いて言えば人族でしょうか。よく捕まって奴隷にされておりますので」
「それは、なんかすまんな」
この中で人族は俺だけだ。それなのに人族が嫌われていると言い切ったリースだが、すぐに胸を張って続けてきた。
「勿論、ご主人様は別でございます。私はご主人様に奴隷として仕えることが、自身に与えられた天命だと思っております」
それもどうかと思うぞ。せめて『奴隷として』という言葉は抜いたほうがいい。というか天命なんて言葉、どこで習ってきたし。
「猫獣族とドワーフは何かあるか?」
ナスタとアンに聞いてみると、ドワーフのアンはぶんぶんと首を横に振ったが、猫獣族のナスタは少し遠慮気味にだが答えてくれた。
「ドワーフは元々この辺りを支配していましたが、数百年前、猫獣族に王位を奪われてしまったと聞いています。ですので、ドワーフの一部は猫獣族を恨んでいるそうです」
「そうなのか。それじゃあアンも猫獣族を恨んでいるのか?」
そう聞くと、アンは先ほどよりも激しく首を横に振ってみせた。
「い、いえ……私はまったくそのようなことは……猫獣族の方に助けられたこともいっぱいありますし」
「そうか。それなら、ナスタとも仲良くしてくれよ」
「は、はい。勿論です」
「ナスタもな」
「はい。わかりました」
ナスタの方は特に気にする様子は無いようだが、この二人も最初は一緒に行動させていた方がいいかもしれないな。
「もう一度言っておくが、俺の奴隷になったからには勝手に仲違いするようなことは許さないからな。お互いを尊敬し、協力して行動するように」
皆が一様に頷く。なにやら種族間に色々あるようだが、少なくともこのメンバー内では仲良くして欲しい。ギスギスした女子の絡みなんか面倒なだけだ。
「ご主人様。彼女たちには首輪は与えないのでしょうか」
リースが聞いてきた。そういえば新入り三人の首輪は自分で用意しないといけなかった。
「首輪は貰えなかったから、後で用意するつもりだ」
「奴隷に首輪が与えられないのですか」
「あぁ。この国では奴隷はタトゥーによって示すらしい。三人には手の甲に入れてもらっているものが奴隷のあかしだ」
手近にいたナスタの手を取って甲を見せつける。そこには小さく彫り込まれたKの文字があった。それを見たリースが、真剣な表情で詰め寄ってくる。
「……この証は、我々にはいただけないのでしょうか」
「欲しいなら入れてやってもいいが――」
「お願いします」
食い気味に言ってくるリース。それじゃあ今度奴隷商人のところに行って彫ってもらうか。
「ほかにタトゥーを入れたいやつはいるか? 彫るのは結構痛いだろうし、一生残るから強要はしないが」
「はいはい! 姉さまが入れるなら私も」
ロルが元気よく手を挙げてきた。ぴょんぴょんと飛び跳ねるたびに揺れるしっぽが可愛らしい。
「私はちょっと、痛いのはぁ……」
「ご主人様の命令ならば構いませんが、エルフにとって体に傷を残すことは恥です。できれば遠慮したいと思います」
ということで、サラとアーシュは首輪だけということになった。それじゃあ今度リースとロルをつれて奴隷商人のところに行くか。