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23. サラと屋台

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 タタールとブルーレンの距離を確認したところ、すでに1000kmを超えていた。二か月以上も馬車で移動してきたにもかかわらず、旅の途中は毎日のようにブルーレンや帝都の拠点に戻っていた為あまり実感が無かった。


「……ご主人様、聞いていますぅ?」

「ん、あぁ……」


 目の前でふたつの巨大な山がぶるんとゆれた。牛獣族(ワーカウ)のサラが、頬を膨らましながら顔を覗き込んできたのだ。長いベージュの髪が、今は大きな三つ編みにまとめられている。その三つ編みが肩から胸の前に落とされているのだが、それが谷間に埋まってしまうほどたわわな胸に、おもわず視線を奪われてしまった。


 それに気がついたサラが、手で胸への視線を防ぎながらジト目を向けてくる。


「ご主人様、今は報告を聞いてくれるんじゃあ……」

「勿論だ。続けてくれ」

「もうっ!」


 次の日。俺は帝都の拠点で、サラの用意した木製の簡易地図を前に以前任せた帝都調査の報告を受けていた。ちなみに他の奴隷たちはそれぞれの仕事をしていて不在だ。二人きりである。


「それでですねぇ。このザルン市場には、各地の交易品がたくさん売られていましたぁ。装飾類や織物、お茶や香辛料もたくさんありましたよ。こっちのダリウス広場には食品市場が一杯あって、たくさんの人が買い物に来ていました。屋台もいっぱいあって、昼過ぎなんか凄い賑わいです。おいしいものがいっぱいありますからねぇ。私もたくさん食べ歩きましたぁ」


 そんな調子で帝都の各地区について説明を受ける。なにやら食べ物に関することが多い気がするが気のせいだろう。


「人が多く集まるところといえば、なんといっても中央広場です。いつもなにかしらの大道芸や見世物をやっていて、人が羊のように一杯います。ただ獣人の処刑もよく行われているので、私たち獣人にはあまり居心地のいい場所ではなかったですけどぉ……」


 獣人の処刑か。このガロン帝国は人族至上主義な国だからな。異民族である獣人達の処刑が娯楽になってしまうのだろう。


「それと東門を出た辺りでは毎日のように競馬や決闘が行われていて、それを見物に来る人たちが多かったです。軍の模擬戦もよく行われていて、賭けがいっぱい行われていました。残念ながら奴隷は参加できないようでしたけどぉ」

「そりゃあな。つーか、参加しようとしたのか」

「ご主人様に色々試してこいといわれましたからぁ」


 自信満々に胸を張るサラ。確かにそんなことは言ったが、しかし随分と楽しんできたようだ。


「まあな。それで他に報告は?」

「えっと……だいたい以上になりますぅ」

「そうか、ご苦労様。よくやったぞサラ」


 そう言って頭をなでてやる。小さく飛び出した二つの角もさすってやると、サラは少しはにかんだ様子で顔を赤くした。


「私の方こそありがとうございます。食事には困らないと聞いて奴隷になりましたが、まさか帝都を自由に観光できるとは思っていませんでしたぁ」


 今回の帝都調査は扉の設置箇所を決めるために行ったわけで、観光させるつもりはなかったのだが。まあ本人が嬉しそうだからいいか。


 その後、扉を設置する場所を検討した結果、ダリウス広場を中心にザルン市場、中央広場、そして東門の三か所を扉でつなげることにした。ダリウス広場を中心にしたのは食品市場や屋台が集まっているので、庶民が一番多く利用するだろうという予想だ。


 帝都内はブルーレンの時と違って通行料を取っている場所は無い。扉を設置しても単に移動が楽になる程度なので、使用が制限されることもないだろう。



 早速それぞれの地区に扉を設置するための印をつけにいくことにした。最初は食品市場や屋台が多いというダリウス広場だ。


 サラに案内されて向かっていたのだが、広場に近づくにつれてあちこちから食欲をそそる匂いが漂ってきた。


「ご主人様。これです、この屋台の焼き飯。これが絶品なんですよぉ」


 腕を抱きかかえるようにしてサラが屋台へとひっぱる。その腕に感じるやわらかい感触を楽しみながら、屋台を覗きこんだ。軒先で調理されている鍋の中では米と肉、それに玉ねぎや人参などの野菜を油で炒めた焼き飯が、今まさに調理されていた。ジュウジュウという美味しそうな音と共に、香ばしい匂いが食欲をそそる。


「おぉ。米だ」


 この世界にきて初めて見るコメ料理に、少し感動してしまった。最近はパンしか食べてなかったからな。


「東方由来の食材ですね。東方国ではたくさん食べられているそうですよぉ」

「買ってみるか。サラも食べるだろ?」

「はい!」


 焼き飯を二人分注文する。出来立ての焼き飯は、香辛料が使われているのか、味も濃くてとてもおいしかった。


「確かにこれは美味しいな」

「そうでしょう。お米と羊肉がとてもジューシーで最高ですぅ」

「こういうの家では作れないのか?」


 家の料理は基本的にパンとスープ、それに日替わりで魚か肉料理という具合になっている。味付けについても別段不満は無いのだが、この焼き飯のように濃い味の料理はなかった。


 サラは少し困ったように表情を曇らせる。


「村で肉を食べるのは祭りの時くらいしかありませんでしたので、その時も丸焼きか、煮込んでシチューにするくらいでした。このようにコメや油と一緒に調理したことは……ありません」

「それなら試しに作ってみろ。金は出してやるから材料を買い集めてな。何が入っているかわかるか?」

「えぇと……材料や調理法は屋台で見たのでわかりますが、味付けが難しいです。いくつかの香辛料を使っているとは思いますが、正確にはぁ……」


 香辛料は高級品のため、サラは一度も使ったことが無いそうだ。リースやロルも同じようなことを言っていたな。


「それじゃあ香辛料も買うか。別に失敗してもいいから、色々試してみろ」

「えっ……は、はい!」


 ダリウス広場の中心にあった交易所の塀に三か所ほど印をつけた後、中央広場、東門と回り、最後に交易品が多いというザルン広場を訪れた。


 そこでも適当な場所に印を設置した後、東方由来のコメや醤、それに香辛料として黒コショウ、チョウジ、ショウガなどを買い込んだ。ついでにお茶が切れかけていたので、今度は混じり物のなさそうな高級店で補充しておいた。ちなみにコメ以外はそれぞれ100gほどしか買っていないのに、金貨が5枚程吹っ飛んでいる。


 それらを買い込んだ後も、ザルン市場で取引されるものを見て回った。ちなみに印は設置したものの扉はまだ設置していない。もう少し後にする予定だ。


 前回ブルーレンで扉をつなげた時、ブルーレンに着いてすぐに設置してしまったことが、バフトットに俺の仕業だとばれた要因の一つだと反省している。なので帝都では数日後に扉をつなげるつもりだ。


 そもそも俺が帝都を出発してすでに一か月は経過している。その間帝都では三日に一度程度のワイン取引しかしていないし、しかもその取引も今はサラが受け渡しをしているため、俺はほとんど帝都の人間とかかわっていないことになる。さすがにここまで念を入れれば帝都の各地区に扉を繋げても大丈夫だろう。


「ご、ご主人様。早く家にもどりませんかぁ? こんなに高価なものをたくさん持ち歩くのは、私、落ち着きません」


 買い込んだ香辛料と茶葉を持たせて歩いていたら、サラが耐え切れないと言ってきた。その大きな瞳には少し涙まで浮かんでいる。なにもそこまで怯えなくても。


「こんなことでびくびくするな。次に必要になったら、自分で買いに来るんだから」

「それはそうなのですがぁ……」

「まったく。それじゃあ帰るか、ほらいくぞ」

「あ、ありがとうございます!」


 さりげなく腕を差し出すと、サラはすぐさますがるようにしがみついてきた。両手で持った香辛料と茶葉の袋と一緒に、柔らかい胸も押し付けられる形だ。計算通りの役得である。



 拠点に戻り小袋をテーブルに置いたところで、ようやくサラが胸をなでおろしていた。


「それではリースさん達と一緒に他の食材も買ってきますね。早速今日の晩御飯で試してみます」


 ほっとして言う、少したれ目の笑顔が可愛らしい。いつまでも見ていたくなる安心感のある笑顔だ。


 しかしそれ以上に俺の我慢は限界だった。先程から見せつけるように揺れていた胸を両手で抱え込む。


「えっ……ご、ご主人様ぁ、んっ」


 口答えを許さずに唇を奪うと、そのままテーブルの上に押し倒す。乱暴にシャツをめくりあげると、隠れていた巨大な双丘が姿を現す。


「あの……あっ……」


 顔を真っ赤にするサラを一撫した後、勢いよくむしゃぶりついた。



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