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22. 岩の街

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 キャラバンは順調に進んだ。途中魔物の襲撃をうけることもあったが、さすがに冒険者の数が多かったので、ほとんど姿を見ることもなく撃退されていき、特に大きな問題が起きることもなくほぼ予定通りの日程でタタールにたどり着いた。


「岩の上に街があります」

「すごい!」


 馬車の中からこっそりと顔を出したリースとロルが、タタールを見た第一声がそれだった。俺も二人の間で、はぁとため息が出るほどに圧倒された。


 タタールは巨大な岩の上に築かれた都市だった。数十メートルの高さを持つ巨岩群の上部にそれぞれ建物が並び立ち、岩と岩との間には吊り橋のようなものが設置されている。下からだと全容は見えないが広さも結構なものだ。


「世界には不思議な都市があるものです」

「はぁ……すごいですぅ」


 アーシュは感心した様子で、サラは呆然とした様子で街並みを見つめていた。確かにこれは、この世界で見てきた中で最も圧倒される風景だな。


 ヴィエタが言っていた、タタールがラージアントにやられない特殊な立地だという意味も一発でわかった。確かにこれなら、街中に巣穴を掘られるということはありえないだろう。やられるとしても周囲の畑くらいだ。


 大岩の麓にあった宿営地にてキャラバンは解散となった。アルフレッド氏に挨拶をした後、ヴィエタにも別れを告げにいく。


「リョウ様にいただいた資金、無駄にしないように頑張ります」

「研究がはかどることを祈っております。困ったことがありましたら、相談にきてください」


 そうしてヴィエタとも宿営地で別れ、ひとまず宿を取り、馬車を預けてから街を見て回る。リース達も興味深そうだったので一緒に連れて行くことにした。もちろん虫がつかないように、ボロの外套を全員に身につけさせる。


 皆でぞろぞろとタタールの街を見て回っていたのだが、他の都市と比べて色々な意味で荒々しかった。すれ違う人の多くが革鎧やプレートメイルを身につけており、腰には剣をぶら下げ、背中には槍を担いでいた。強面で身体のゴツい連中ばかりだし、聞こえてくる言葉遣いも荒々しい。


 市場で売っているものも武器防具のほかには肉や酒などが多く、織物や装飾品はあまり見られなかった。酒や肉を売る屋台がいたるところで商売をしており、活気に溢れているがどこか無骨な雰囲気だ。やはり冒険者が多いのだろう。


「この街の特産には魔核以外に何かあるのか?」

「確か、鉄や銅などの金属類を産出していると習いました」


 リースが答える。習ったということは、おそらくアモスのところで知った知識だろう。


「鉄に銅か。それじゃあ転がしてもあまり金になりそうに無いな。金や銀は無いのか?」

「はい。おそらく見つかっていないのだと思います」

「どういう意味だ?」

「タタールの西には竜の巣があり、鉄や銅の鉱脈はその麓で見つかっています。そのため金銀鉱脈も存在するはずだと言われていますが、あまり調査が進んでいないそうです」


 竜の巣というのは、大陸の西に位置する大山脈のことである。北は西方諸国に面し、東はゲルルグ原野に面している。この場所はその名の通りドラゴンの住処だが、西方諸国に面した北部は開発が進んでおり、金、銀、銅、錫、鉄、それに岩塩などの鉱脈が数多く存在していた。


 同じ竜の巣なのだから、金銀鉱脈もあるだろう。未発見の鉱山があるかもしれないのは魅力的だが、今の財力ではどうしようもないな。


「なるほどね。それじゃあしかたない。今回は魔粉末だけ仕入れることにするか」


 先程から魔粉末を仕入れようと市場を探していたのだが、大口の売り場が見つからなかった。そこで小売の商人にどこで仕入れればいいのか尋ねると、冒険者ギルドに行けと言われた。どうやら魔粉末は冒険者ギルドが管理している商品らしい。


 街の中心部にあるという冒険者ギルドの建物の前まで行ってみると、なにやら建物内から騒いでいる声が聞こえてきた。見ると受付の女性とひげ面の小柄な爺さんの二人が、カウンターを挟んで怒鳴りあっていた。


「どうして護衛料がそんなにかかるんだ。いつもの倍じゃないか!」

「ラージアントの出現が例年より多いと説明しているじゃないですか。駆除の人手を減らすわけにはいかないんですよ」

「それなら、俺達はどうやって帰ればいいんだ!」


 爺さんが凄みながらカウンターをたたく。思わず見ているこっちがびくりとしてしまったが、受付の女性は一切引く様子は無かった。


「ですから相応のお金を出していただくか、雨季まで待ってください」

「雨季まで待っていたら、帰れなくなるだろうが!」

「何度言われようが、その値段では無理です。魔物を駆除している方がはるかに儲かるのですから」


 外にまで聞こえそうな大声で言い合う二人。よくわからんが依頼料でもめているようだ。しばらく聞き耳を立てていたが議論は平行線で、やがて爺さんのほうが捨て台詞を残し出て行った。


 それを見送った後、尾を引いて不機嫌な雰囲気の受付に話しかける。


「あの……」

「はい。なんでしょうか」

「魔粉末の買い付けについて聞きたいのですが」

「あぁ、商人の方ですか。担当者を呼びますので少々お待ちください」


 受付の女性が奥に消える。やがて現れた担当者の男に魔粉末について聞くと、ランク3の魔粉末が小樽(5kgほど)で銀貨20枚だと言われたので、とりあえず1樽だけ買っておいた。今度バフトットのところに持っていって相場を聞くことにしよう。


「ところで先ほどはなにやら騒いでおりましたが、何があったのでしょうか」


 ついでに先程の騒動について聞いてみる。担当者の男は苦笑いしながら答えた。


「あぁ。ギド爺さんですね。南西の鉄鉱山の主で、たまにタタールに製品を売りにやってくるのですが、よく護衛料をまけろとごねるのですよ。特にこの時期はいつもですね」

「なにやら料金が倍になったと騒いでいましたね」

「はい。この時期は竜の巣の麓までの護衛一人につき金貨2枚はかかってしまいます。タタールに来るのは初めてですか?」

「はい。先日着いたばかりでして」

「そうですか。ゲルルグ原野はこれからしばらくすると雨季に入るのですが、実はラージアントを始めとする原野の魔物は、この時期もっとも数が増えるのです。そのため魔核狩りを生活の糧としている冒険者にとっては一番の稼ぎ時なのです」


 護衛よりも討伐のほうが儲かる時期なわけだ。


「雨季というのはどれくらい続くのですか?」

「4ヶ月ほどですね。その間ゲルルグ原野は沼地のようになってしまいますので、移動は難しくなりますし、農作物もほとんどとれません。ただ洪水によってラージアントも全滅してしまうので、その点は安心ですな」

「なるほど」


 そうなると雨季になる前に原野を越えて大砂漠に辿り着かなければ、随分と足止めをくらってしまうことになる。何とかしないと。


「実は私、ラーシャーン砂国を目指して旅をしておりまして。雨季が近いとなると早めにタタールを出たほうがよさそうですね」

「ラーシャーンですか。随分と遠い。それならば急いで護衛を雇って出発した方が良いでしょう。しかし今言ったようにこの時期、護衛の冒険者を雇うことは難しいでしょうが」


 できるだけ個人で護衛を雇って移動することは避けていたんだが、この先はどうしようもないと諦めていた。しかしどうやら護衛は雇うことすら困難なようだ。どうしたものか。


「……そうだ。砂国に行くのでしたら、ギド爺さんと一緒に竜の巣の麓まで行き、そこから南下していくのはどうでしょうか。あなたも料金を負担してくれるなら、ギド爺さんの言う値段で村までの護衛を探すこともできるでしょう。その後の護衛についても、付き添った冒険者が交渉次第でうけてくれるかもしれません」


 俺が悩んでいる様子を見て、担当者は護衛を雇うお金がないのだと勘違いしたようだ。別にお金の問題ではないのだが、しかしなるほど。なかなかよいアイデアかもしれない。


 どうせ雨季になってしまえばタタールから先に進めなくなる。一方で今の時期護衛を探すのは難しい。それなら行けるところまで行っておくのもありだろう。竜の巣の麓にあるというギド爺さんの鉄鉱山というのも興味があるし。


「大変良いアイデアだと思います。さっそく頼みに行ってみます」

「えぇ。ただあの爺さんは頑固なところもありますので、気をつけてくださいね」


 少し同情するような表情で忠告されてしまった。頑固というのはさっきの騒動を見ていたので大体わかる。覚悟していこう。



 ギドの泊まっているという宿屋の場所を聞いたので、その日のうちに訪ねてみた。宿で名前を出すと、すぐに小柄なひげ面の爺さんが姿を見せる。先程の担当者から聞いたのだが、どうもこのギド爺さんはドワーフらしい。確かに俺と比べても頭一つ小さいくせに、身体はかなりゴツかった。


「俺がギドだ。なんの用だ?」

「お初にお目にかかります。私はリョウと申します。奴隷を商っているのですが、ラーシャーン砂国に向かおうと考えておりまして」

「ラーシャーン砂国っていやあ、随分遠いな。ここからだと随分とかかるだろう」

「えぇ。あまりに遠すぎて、護衛を雇うのに難儀しております。仕方ないので雨季が終わるのを待つしかないかと思っていたのですが、ギドさんが鉄鉱山を経営していると聞いて興味が湧きまして」

「俺の鉄をラーシャーンに持っていくつもりか? あそこまで行くのは大変だから、あまり利益にはならんと思うぞ」


 ギド爺さんはあっけらかんと教えてくれた。儲からないことを教えてくれるとか、結構いい人そうだ。


「そうだとしても、ギドさんの鉄鉱山はここよりはラーシャーンに近いと思います。まずはそこまで行ってみようかと」

「なるほどな。それで?」

「あなたが集落に戻るために護衛を探していると聞きました。その値段が高くて困っているということも」

「そうなんだよ。ここの連中はいつも足元を見やがって、大体あの受付の小娘はおれが行くといつも……」


 なにやら愚痴を言い始めたのを適当に聞き流し、護衛の件について提案する。


「そこで私もギドさんの集落まで一緒に行こうと思いますので、護衛料を折半して向かいませんか?」

「おう! それはいいアイデアだ。ぜひお願いしたい。そうだな。3人も居れば十分だから、それぞれ金貨3枚ずつ負担すると言うことでどうだ?」

「それで構いません。私はこの街に着いて日が浅いので、手配はお任せしてもよろしいでしょうか?」

「おう。任せておけ」

「それでは日時や金額が決まりましたら、ウルクという宿に連絡していただければと思います」

「わかった。おそらくすぐに出発するだろうから、そのつもりでな」


 その後、帰ろうとしたところを引き止められて酒を飲まされそうになったが、なんとか断って逃げ出した。

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