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2. 宿にて

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「おや、あなたは先程の……」

「あ、どうも」


 晩飯をたべようと、一階の食堂に下りて空いている席を探していると、不意に話しかけられた。相手は先ほど助けられた金髪の男性だ。


 まさか再会するとは……とりあえず礼を言うか。


「先ほどは、助けていただきありがとうございました」

「いえいえ。その様子では大丈夫そうですね」

「はい。どうやら旅の疲れが出てしまったようで」


 旅人という設定で情報収集しようと考えていたので、適当に話を合わせる。男はにこやかに答えてきた。


「このオセチアは小麦とビールの産地。しっかり食べれば、長旅の疲れなどすぐに吹き飛びましょう。どうですか? よかったらご一緒しませんか?」

「えっと……」


 困った。詳しく事情を聞かれたらぼろが出そうなので断りたかったのだが、言い訳が見つからない。ここで飯を食べると、そこにいる宿屋の親父に言ってしまっているし。


「……はい。ご迷惑でなければ」

「とんでもない。親父さん、この方の晩飯はこちらに。ビールもお願いしますよ」


 覚悟を決めて男のいるテーブルにつく。


「お名前をお聞きしてもよろしいですか? 私はアモス。アモス・コメニスキーと申します」

「リョウと申します」

「リョウ殿ですか。こうして出会えたのも何かの縁。この出会いにより互いの人生に幸あるよう、乾杯!」


 訳もわからず運ばれてきたジョッキを合わせる。アモスはそれをごくごくと一気飲みすると、幸せそうに息を吐いた。


「ぷはー! オセチアに来るのは二回目なのですが、ここのビールは最高ですな」

「はい」


 適当に相槌を打ちつつ、ちびりと飲んでみる。すると思ったよりも苦くなく、我慢すれば飲める程度の味だった。しかし微妙そうな顔をしていたのか、アモスが首をかしげる。


「おや、あまりお気に召されませんか?」

「いえ、酒はあまり得意ではないので」

「それではピザをどうぞ。これもなかなかいけますよ」


 今度は運ばれてきたピザを勧められた。食べてみると、これもあまり美味しくなかった。悪くは無いが、味が異常に薄い感じだ。


「これは、なかなか美味しいですな」

「そうでしょう? 気に入ってくれて嬉しいです」


 だがそんな感情をおくびにも出さず、無難な受け答えに終始する。ここで気を悪くさせても面倒なことになるだけだ。和やかに、な。


「今回はこのビールのために、わざわざこのオセチアを通ったようなものですよ」

「この街に何か用事が?」

「いえ、この先のブルーレンに向かう途中です。王都から移住しようとしておりまして、妻は先に行かせていたのですが、私もようやく合流できそうです」

「そうですか」

「えぇ。もしブルーレンにお越しでしたら、ぜひ当家にお越しください。歓迎しますよ」


 知らない地名がぽんぽんでてくる。にもかかわらず、日本語が通じてしまう。図らずもここは本当に異世界なのだと実感してしまい、背中を変な汗がつたってしまった。


「リョウ殿はどちらの出身ですか?」

「えっと……じつは数年前に記憶喪失になって以来、身寄りを探して旅をしているのです。先ほど見苦しい姿をご覧になりましたように、今もたまにあのような発作がおきて意識を失ってしまいまして」

「なんと。それは大変ですな。身寄りというと、手がかりはあるのですか?」

「いえ、特になにも……」


 気がついたら身一つで各地を放浪しているのだと答えると、アモスさんは表情を曇らせた。


「ご苦労されてきたのですね。お一人で旅をしているのでしたら、路銀はどうされているのですか? 冒険者ギルドで仕事を請け負っているのか、それとも行商を?」


 冒険者ギルド――やはりあるのか。ということは、モンスターも?


「あまり腕に自信はないので、細々と行商をして食いつないでいます」

「そうですか。なにかお助けできればいいのですが……」

「いえ。アモスさんには先ほど助けていただきましたので、これ以上は……」

「あぁ、そうだ。いい儲け話があります」


 アモスの表情が明るくなる。一方で儲け話という言葉に、俺の中で警戒心と好奇心が同時に起き上がった。


「儲け話?」

「はい。小麦の売買です。このオセチアの小麦を北の小麦峠を越えて運び、バラン国のミクリアで売るのです」


 なんだ。ただの行商じゃないか。そんなので儲かるのか?


「いま両国は戦争中で峠の関所も封鎖されていますから、高く売れると思いますよ」

「……密輸をしろと?」


 おもわず聞き返してしまう。戦争中でしかも封鎖された関を越えるって、完全な密輸じゃないかと。


 しかしアモスはげらげらと笑って否定した。


「そこまで大げさなものではありませんよ。オセチアの小麦の多くは西の街道を通って輸出されていましたが、最近は戦線が拡がって通れません。ですので、今は北の小麦峠――旧道を通って小麦が売買されているだけです」

「先ほど、峠は封鎖されていると仰っていませんでした?」

「賄賂を惜しまなければ、簡単に通してくれるはずです。皆そうしています」

「なるほど、賄賂ですか」

「はい。問題は街道と比べて魔物が多い点ですが、今は同じように小麦を扱う行商人も多いですし、そこまで危険はないのかと思います」


 魔物、やっぱり居るらしい。それは大問題だが……それよりも気になることがある。


「どうしてそのようなことをご存知なのでしょう」


 テレビもなさそうなこんな世界で、一般人が戦線や封鎖された関所の情報を知っているとは考えづらい。この男、いくらなんでも事情を知りすぎていないか?


「私はこれでも先日まで王宮に勤めていましたから。この国でどれくらい賄賂が横行しているのか、身をもって知っているのです」

「王宮ですか?」

「えぇ。先日王都から逃げ出したので、今は王国民ですらないですけどね。あ、この話は人には言わないよう、お願いしますよ」


 そう話すアモスさんは、なぜかとても清々しい雰囲気だった。





扉の仕様その2


 ポイントは一時間に1ポイント、もしくは人が扉を利用するたび1ポイント得られる。ただし同一人物から得られるのは、一日一回のみ。


印の最大数増加に必要なポイント数:10×現在の最大数

扉の最大数増加に必要なポイント数:1000×現在の最大数


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