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19. 奴隷たち

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 ザリッヒに紹介してもらった不動産屋で帝都の拠点とする物件を借りた。中心部からは少し離れていたが、扉を設置しても見つかりにくそうな地下室があったのでそこに決めた。家賃は二ヶ月につき金貨1枚だ。


 早速契約を終え、アーシュとサラを連れて拠点に入る。一階と二階に2部屋ずつのこじんまりとした石造りの家だ。ブルーレンの街よりは一回り小さいが、帝都では現状大規模な取引をするつもりは無いので十分だろう。


「少しここで待っていてくれ」

「わかりました」

「わかりましたぁ」


 慇懃な雰囲気で答えるアーシュと間延びした返事をするサラ。なんかこの2人、性格が合わなそうだな。いや、わからないけど。


 地下室へ行き、馬車から持ってきていた扉を壁に立てかけて、ブルーレンへと戻る。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

「おかえりなさい!」

「リース、ロル。ちょっとついてきてくれ」


 ブルーレンの拠点に戻ると、一階でリースとロルが出迎えてくれた。今度はその二人を連れ、再び地下室から帝都に移動する。言われたとおり待っていたアーシュとサラが、地下室から出てきたリース達に目を丸くしていたが、気にせず互いを紹介した。


「今日から俺の奴隷になった、エルフのアーシュと牛獣族(ワーカウ)のサラだ。こっちはリースとロル。2人とも犬獣族(ワードッグ)だ」

「よろしくお願いいたします」

「よろしく、です!」

「……よろしくお願いします」

「えぇと、よろしくお願いしますぅ」


 四人がそれぞれ頭を下げる。アーシュとサラが腑に落ちない表情をしていたが、とりあえずは気にしないでおこう。


「リース。お前を筆頭奴隷にするから細かい仕事は指示をだせ。それとこの家は帝都の一画で、今日から借りることになった。ブルーレンの拠点と同じく管理を頼む」

「かしこまりました。お任せください」


 二つの住居とブルグの倉庫、すでに三つも物件を借りているので管理も大変だ。まあそのために奴隷も増やしたのだし、何とか頑張ってもらおう。俺は何もしないが。


「サラ、アーシュ。二人にも分担して家事をしてもらうが、同時にアモスという方のところで教育も受けてもらう」

「教育、ですかぁ?」


 サラがぽわんとした雰囲気で首をかしげた。それだけで揺れる胸元。うーん、でかい。


「そうだ。少なくとも読み書き計算は一通りできるようになってほしい。俺の代わりに取引を任せたいからな」

「はぁ……」


 取引を任せると聞いてサラは不安な表情を見せた。農村の娘なので、貨幣を使った取り引きすらあまりしたことが無いそうだ。


「まあ、そのうちな。最初はリース達の取引を見て勉強してくれ」

「わかりましたぁ」


 次にアーシュに向かって聞いてみる。


「アーシュは読み書き計算はできるのか?」

「はい。子供の頃、里で一通り習いました」


 エルフの里とやらでは教育を受けるんだな。アーシュが家柄の良い出自なだけかもしれないが。


「そうか。まあアモスさんは地理やマナーも教えてくれるらしいから、一応通っておけ」

「はい。ぜひ、お願いいたします」


 きらきらとした瞳で礼を言われた。わりと興味津々だ。


 さて、次は帝都で交易できそうなものを探しに行きたいのだが……


「……」

「えぇと……」


 アーシュとサラが明らかに説明が欲しいという顔をしていたので、先に扉の説明をしておくことにした。


「全員、地下室に来い」


 4人を連れて地下室に下りる。そして板に空いた穴の前で扉のことを説明してやった。


「俺の奴隷になったからには絶対に守ってもらう秘密がある。これだ」

「扉……と言うのでしょうか。これは一体?」


 アーシュが興味深げに聞いてくる。


「俺の力で作り出した、離れた地点をつなぐ扉だ。入ってみろ」


 扉を利用して全員でブルーレンへと移動した。しかし移動してもまだアーシュとサラにはいまいち何が起きたのかわからないようなので、仕方なく説明のためにその場の壁同士を繋いで、ロルに出入りさせてみせた。


「ええっと。これは……」

「すごいですぅ!」


 右の壁に消えたロルが次の瞬間に左の壁から出てくる姿を見て、ようやく意味がわかったらしい。


「この扉に関することは、何があっても口外しないように」

「わかりましたぁ」

「……」


 サラは素直に頷いたのだが、アーシュはじっと扉を見つめたまま、なにか言いたげな様子だった。


「アーシュ。どうした?」

「いえ、あの……」

「言ってみろ」


 強く促すと、アーシュはおそるおそるといった様子で答えてくれた。


「これと同じようなものが、エルフの里にもありました」

「え?」


 まじか。それは結構……いやかなり重要なことだぞ。


「それは、どことどこが繋がっていたんだ?」

「里の神殿から大聖樹へ繋がっていると言われています。選ばれた者しか利用できなかったため、私は使ったことがないのですが」

「大聖樹っていうのは?」

「エルフの聖地です。大森林のどこかにあるといわれていますが、神殿以外からは行くことができないと教わりました」


 どういうことだろう。俺の能力を使えるエルフがいるのだろうか。


「エルフの中にこれを作れる奴がいるということか?」

「いえ。今はいないと思います」


 今はいない……昔はいたということか。


「いつ頃に作られたか知っているか?」

「先祖の魔法使いが残したと教わりましたが、正確には……ただ大聖樹で行われる儀式は数百年前から行われていると聞いたことがあります」


 数百年……それがエルフ族にとって、どれくらいの年月なのかがいまいちわからんな。


「エルフっていうのは、何歳くらいまで生きるものなんだ?」

「100年を超えれば長命だと言われます。私の里の長老が160歳を超えていましたが、かなり長生きだと言われていました」


 それなら数百年は大昔か。しかしそんな過去とはいえ、俺と同じ能力を持っていた者が居たのだとしたら、これから先に同じような能力の者に出会う可能性はゼロではないのか。面倒な話だ。


「その神殿とやらに俺みたいな人族が行くことはできるか?」

「えっと……まずエルフの里自体に入ることができないと思います」

「アーシュがいてもだめか」

「むしろ私がいるとさらに入りづらいでしょう。人間の奴隷となったエルフは仲間とはみなされませんので」


 それはまたひどい話だ。いや、アーシュが逃げる可能性が減ったので朗報とも言えるが。


 しかしそうなると、現状はエルフの里には行く手段は無しか。俺の扉と似たようなもの……いつかは確認しに行きたいな。


「そういえばさっきアーシュが先祖の魔法使いがどうとか言っていたが、誰か魔法使いを見たことはあるか?」


 アーシュが魔法使いという単語を出してきたので、ついでに全員に話を振ってみる。すると真っ先に首を横に振ったのはサラだった。勢いよく振っているので、まったく心当たりがないのだろう。


「私もお伽話の中でしか聞いたことがありません。ロルもそうでしょう?」

「うん」


 リースとロルの答えだ。やはり魔法使いという者は珍しいらしい。


「エルフの里に魔法使いはいなかったのか、アーシュ」

「一度だけ、お会いしたことがあります」

「おっ、詳しく話してくれ」

「私の里の者ではありませんでしたが、風を操るという魔法使いの同族が里を訪れたことがあります。ただ実際に魔法を使っているところを見たわけでは無いので、どのようなものかまでは……」


 魔法自体は見たことが無いのか、残念。


「魔法がどんなものか、話だけでも聞いていないか?」

「その魔法使いは大聖樹から造られたという杖を持っており、それを振るうことで樹をも薙ぎ倒す強風を作り出すのだと聞きました」

「杖っていうのは、木を彫っただけのもの?」

「私がお会いしたときに持っていたのは、先端に宝石のようなものがある古樹の杖だったと思います」

「そうか」


 これまでの旅路の中で魔法使いには一度も出会ったことが無い。それどころか実際に魔法が使える者の噂すら聞いたことが無かった。どうも思った以上に魔法使いという人種は希少らしい。


 魔法使いを見かけないのは、そもそも魔法が使える者が珍しいのか、それとも魔法を使うための道具が特殊なのか、もしくはその両方なのか。アーシュの答えだけではどれもあり得そうだが、とにかく初めて具体的な魔法使いの話が聞けただけでも収穫か。



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