18. 帝都
18
大国ガロン帝国。西方諸国の東端に位置する国で、この辺りではもっとも支配地域が広い強国らしい。確かに国内に入ると石畳の道路網が整備されていたり、短い区間に関所が配置されていたりと、これまでの地域よりずっと旅がしやすかった。
ブルーレンを出発してから一ヶ月強、ようやくガロン帝国の首都である帝都ガロンに到着した。すぐに馬車を預けると、ある奴隷商人を訪ねることにした。
「ようこそ。リョウ殿。ザリッヒでございます。弟ヨリッヒからの紹介状は確認いたしました。本日はどのような奴隷をご所望でしょうか」
先日リース達を買った奴隷商人のヨリッヒに、帝都に行くから良い商人を紹介してくれないかと頼んだら、兄のところに行くと良いと言われて紹介状を渡されていたのだ。
あることを頼む予定で来たのだが、ついでに魚取引のおかげで金貨も貯まっているので奴隷を新たに仕入れることにする。
「歳の若い処女で、器量の良いものをお願いします。種族は問いません」
「それでしたらかなりの数になってしまいます。何人くらいお連れしましょう」
「それなら最高級のものを5人ほどお願いします」
「かしこまりました」
しばらくして連れてこられたのは、目も眩むような美少女ばかりだった。種族は犬獣人や妖精猫族に、牛獣族と呼ばれるツノを持つ種族のほか、あのファンタジーな種族もいた。
「これは?」
「エルフでございます」
それは針金のように細い身体と消え入りそうな白い肌、そして長く尖った耳を持った少女だった。きらきらと輝く金髪を腰まで伸ばし、大きな蒼色の瞳をじっとこちらに向けていた。
「大森林の奥深くに住むといわれる種族で、外見的には耳以外ほとんど人間と区別がつきませんが、ご覧の通り非常に器量が良いことで有名です。また人間の倍は生きるという長命な種族であり、この娘はまだ18歳であります」
「ガロンではエルフを普通に見かけるのでしょうか?」
「いえ、珍しいです。多くはその美貌と希少性のため貴族に買われてしまい、市場に出てきません」
となると帝都に拠点を買って管理させるには微妙か。愛玩用には十分だが。
「そういえば人はいないのでしょうか」
「帝都で人族を奴隷として売買することは法により禁止されております。国内で買うのは難しいでしょう」
普通の意味の人間は人族と呼ぶらしい。たしかに帝都には多いとは聞いていたが、そんな法律があるんだな。
「ここにいる者達には教育を施していますか」
「いいえ。他の国ならば施すこともあるのでしょうが、帝国内では奴隷に教育は受けさせません。我々人族の仕事を奪われてしまいますので」
なるほど。随分と徹底した人至上主義だ。亜人や獣人を人族の下に置いて不満をそちらに向けさせる。前時代的だが効果的だろうな。
「それでは一人ずつ話をさせてください」
「かしこまりました」
応接間に場所を移し、一人ずつ面接することにした。まずやってきたのは先ほどのエルフの少女だ。今回はリースの時と違って最初から裸だった。
胸の大きさは無いことはないといった感じ。しかし肩から腰にかけてのシルエットは素晴らしく、理想的なスレンダー体型といったところだろう。脚も長くてお尻も小ぶりで可愛らしい。
しかし裸の美少女を立たせて面接するのか。罪悪感が半端ないな。
「名前はアーシュと申します。先程申しましたが年齢は18。成人済みで、処女であります。エルフということでやはり希少性がありますので、金貨60枚でいかがでしょう」
一人でリース達よりも高いのか。まあ払えない額では無いが。
「身体的に問題はないでしょうか?」
「勿論でございます。エルフは自己治癒能力が高いため丈夫でもございます。ご安心ください」
「性格は?」
「捕まった直後は反抗的だったと聞いておりますが、こちらに来てからは大人しくしております」
捕まって奴隷になったのか。それじゃあ大人しくしているといっても、なにか考えがあるのかも。
「本人に質問してもよろしいですか?」
「どうぞ」
「アーシュ。人族を恨んでいるか?」
その質問に奴隷商人が唖然としていた。アーシュも困惑した様子を見せていたが、やがて商人の方をちらりと見た後に答えた。
「……いいえ」
「本当か? 人族に捕まり、奴隷におとされ、裸で辱めらた上に、慰み者として売られているのだぞ」
「捕まってしまったのは私が未熟だったからだと考えております。自身の愚かさを恨むことはあれ、人族を恨むのは筋違いでしょう」
「そうか」
続けて聞いた質問には即答してきた。これは相当頭の回転がはやいか、本当にそう思っているかのどちらかだ。どちらにしてもなかなか使えそうである。これは買いだな。
「ザリッヒさん、次を頼みます」
「かしこまりました」
アーシュが礼をして奴隷商人と部屋を出て行く。次に入ってきたのは牛獣族の女性だった。
薄いベージュの長髪を一つに結い、頭からは短い角が二本見える。垂れ目でおっとりとした雰囲気の女性だったが、なによりその胸元に目がいってしまった。なんというか、とてつもなく大きい胸をお持ちだった。
「サラです。年齢は17です。彼女は帝都近くの小さな農村出身ですが、人頭税を支払えなくなった親に身売りされてここにきました。この娘は金貨20枚でいかがでしょう」
身売りされてきたのか。しかしアーシュの三分の一とは……いや、エルフが高すぎるだけか。
「税金を支払えなくなって身売りするというのは、この辺りでもよくあるのですか?」
「はい。獣人には帝国民と比べて倍の税が課されますので、人減らしとして家族を奴隷に落とすことは当たり前に行われています」
倍の税がかけられては普通に生活するのも苦しかろう。人族以外が住むにはなかなか大変そうな国だ。
早速聞きたいことができたので、再びザリッヒに許可を取って質問する。
「自分を売った親をどう思っている?」
その質問に、サラは不思議そうに首をかしげていた。そしてしばらくぽかんとした表情をみせた後、ゆっくりとした口調で答えてくる。
「売るといわれた時には、少し恨みましたぁ。だけど奴隷になれば食べ物には困らないと聞いていましたし、実際食べさせてもらっているので、今は売られて良かったと思いますぅ」
家族に未練はないか。それなら逃亡の可能性は少なそうだな。飯に釣られて奴隷商人に感謝するくらいなら、ちゃんと食わせておけば文句も少なそうだし。なかなか扱いやすそうだ。
その後も面接を続けたが、結局エルフのアーシュと牛獣族のサラの二人を買うことにした。
「それでは2人合わせて、金貨80枚となります」
「わかりました。ここから取ってください」
持ってきた金貨袋を渡すと、ザリッヒはすぐさま金貨を数え始めた。今回は最初から即決で買うことにしていた。ここでごねてこの後の交渉に響くと面倒だし。
清算を終えた後、リース達と同じく名前入りの首輪を作り二人に装着してもらう。そしていくつか説明を聞いた後、二人の身柄を受け取った。
「ザリッヒさん。今回の件とは別にお願いがあります」
「なんでしょうか?」
「実は帝都で一軒家を探しているのですが、何処かいいところをご存じないでしょうか」
「物件ですか。それならここ帝都には専門に扱う商店がありますので、紹介いたしましょう」
不動産屋があるのか。さすが大都市。
「ありがとうございます。それと、もう一つ紹介状を書いて頂きたいのですが……」