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12. 秘密

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「美味しい。いけるじゃないか。二人とも」

「あ、ありがとうございます」


 拠点に戻ると、二人が晩飯の用意をしてくれていた。内容は小麦のパンと買ってきた干物、そして野菜と魚の塩漬けを使ったスープだ。スープの味付けは干物の一部で出汁をとったようで、なかなかに美味しい。


 しかし先程から手を動かしているのは俺一人だけだ。リースとロルは自分の食事に手をつけず、食い入るように俺の食事姿を見つめていた。じろじろ見られながら食べるというのはなかなか落ちつかないものだ。


「二人とも遠慮せずに食べろ。じゃないと一緒に食べる意味がないだろうが」

「ありがとうございます」

「……」


 うながしてようやく、2人が食事を始めた。それでもリースは遠慮しつつ食べていたのだが、妹のロルは我慢していたのかむさぼるように食べ始めた。


「なんだ。やっぱり腹が減っていたんじゃないか」

「……奴隷商人のところでは、全然たべさせてくれなかったから」


 もぐもぐと口に物を入れたまま喋るロル。こいつ、普通にため口だ。まあいいけど。


「そうか。まあうちでは好きなだけとは言わないが、腹が空かない程度には食わせてやるから安心しろ」

「……ありがとう」

「ロル。言葉遣いに気をつけなさい」

「……ございます」


 リースに叱られると、ロルはとってつけたような敬語になった。銀髪から飛び出る犬耳がしゅんとなり、しょげていることがわかる。たしかに教育は行き届いていないようだが、まあリースの奴が何とかしてくれるだろう。


「ところで鮮魚を買い付けるためには、何処に行けばいいか知っているか?」


 食べ終えてきたところで、リースに魚について聞いてみた。


「鮮魚……ですか?」

「あぁ。一番近い港町でもいいぞ」

「ブルーレンから一番近い港町でしたらブルグです。馬車で北東に数日いけばたどり着くと教わりました」


 馬車で数日か。確かにそれだけ遠いと、新鮮なまま運んでくるのは難しそうだな。


 俺の能力でこの拠点とそのブルグという街を扉で繋いでしまえば、海で獲った魚をその日のうちにブルーレンで売ることができる。これはなかなか実入りがいいのではないか。


 問題としては、鮮魚の売買は大商店が独占しているというこの街の状況だろう。独占市場に一介の行商人が参入しては目をつけられてしまいそうだ。下手したら、危険に巻き込まれる可能性もある。


 まあ、そういう面倒はあの男に丸投げしてしまおう。


「それじゃあ、明日の朝に出発するとしよう」

「明日、出発されるのですか? 我々はどうすればよいでしょうか」

「午前中は家事をしてもらって、昼からはアモスという人のところで、勉強してもらおうと考えている」

「勉強……ですか?」

「えぇ!」


 ロルが小さく悲鳴を上げた。理由はなんとなくわかるが見なかったことにする。


「二人にはこれから商売の手伝いもしてもらわないといけないからな。奴隷商人のところでも学んでいたようだが、まだ足りないはずだ。もっと教養を身につけて仕事を手伝ってくれ」

「お心遣いありがとうございます。頑張りたいと思います」

「うぅ。がんばります……」


 ロルは見るからにしぼんでしまっているが、リースの奴は心なしか高揚した表情だった。結構やる気のようだ。


「それではご主人様が戻ってこられるまで、二人でこの家を守っております」

「いや。毎日晩飯には戻ってくるから、今日と同じように三人分用意しておいてくれ。朝は適当にパンでも持っていく」

「えっと、はい……」


 少し困ったような、気の抜けた返事をされた。そういえば、まだ二人に俺の能力を教えていなかった。確かに扉のことを知らないと意味不明な命令だな。


「そうだな。ちょうど晩飯も終わりだ。大事な話をするから片付けたら地下室に来てくれ」

「わかりました」

「……残りは食べてもいい?」


 ロルが恐る恐る聞いてきた。残りといっても、干物の食い散らかしぐらいしか残ってないが。


「いいぞ。全部食べておいてくれ」

「ありがとうございます!」


 言い残して先に地下室へと向かう。部屋を出た後、なにやらリースが叱りつける声が聞こえた気がした。




「これから説明することは、絶対に人に知られてはならない秘密だからそのつもりで聞け」


 ランタンが灯された薄暗い地下室。俺が念を押して言うと、二人は緊張した様子で頷いた。


 久しぶりに能力を起動してみると、3000ポイント近く貯まっていた。市場に設置した扉が順調に機能しているようだ。これだけあれば扉(最小)を600kmほど繋げられる。馬車で数日ということは、1日30kmぐらい進むとして、300kmあれば余裕だろう。とりあえず1500ポイント使うか。


 ブルーレンへ来る道中、暇だったので『扉の管理者』について色々試していたのだが、その中でいくつか判明したことがある。


 一つ目は扉の設置場所について。印はしっかりとした物体に手を触れてさえいれば設置することができるが、扉はある程度の広さが無ければ作成できないようだ。たとえば扉(最小)は約1m四方という大きさだが、これは馬車の床に作ることはできても、木の幹には作ることができなかった。つまり扉の大きさだけ、平らな面が必要ということだろう。


 もう一つ重要な性質として、扉を設置した物体は移動させられることが分かった。というのも馬車の床と、道中にあった適当な岩とを扉で繋いだところ、馬車を移動させても扉はつながったままだったのだ。なお進み続けると、使用したポイント以上の距離になった時点で扉が消滅した。


 扉の作成時に使用するポイントは増やせるので、最初から多めのポイントを使用しておけば、その分だけ扉の出入り口を移動できる。次の旅からはこれを利用して、適当な大きさの板を拠点と繋いでおき、その板だけを持ち運ぶことにした。ちなみに現在どれくらいの距離になっているかは、詳細の項目から知ることができるので、注意していれば突然扉が消えてしまう心配も無い。


 能力が起動し、地下室の壁と手元の板それぞれに1m四方の穴が開く。壁に厚みが全くない不自然な穴が開き、その向こうには手にしている板から覗いた景色が見えた。相変わらず違和感が半端ない。


 一連の行動を見つめていたリースとロルに、説明してやる。


「今、この板とそこの壁に扉を作った」

「扉?」

「そうだ。ロル、ちょっとこの板の穴に入ってみろ」

「えっと……」


 ロルが大きな瞳で板に開いた穴を凝視する。しばらく戸惑っていたが、やがて意を決し身体を放り込んだ。すると次の瞬間、壁に開いたもう一つの穴から飛び出してくる。


「え……?」

「これは……」


 ロルがきょろきょろと戸惑った様子を見せる。一方のリースはいま目の前でおきたありえない現象に、絶句しているようだった。二人とも何が起きたのか理解できないようだ。


「この板とそこの壁を俺の力で繋げた。この板さえ持ち歩けば、どこからでもこの地下室に戻ってくることができるということだ。俺は明日から、昼間は馬車でブルグに向かうが、晩にはこれを使って家に戻ってくる。だから二人には俺がいない間この家で家事をしておいてもらいたい。わかったか?」

「……」


 リースが口をパクパクとして、何か言いたそうにしていた。しかし言葉にならないようで、見ていて面白いほどに戸惑っていた。結構クールなイメージだったが、こんなに驚いてくれるとは嬉しいな。


「あのあの、もう一回やってみてもいい?」


 ロルがわくわくとした表情で聞いてくる。別にかまわないと答えてやると、何度も扉に入って移動してみては、嬉しそうに歓声を上げていた。


「……ご主人様は、魔法使い様だったのですね」


 リースがようやく口を開いた。魔法使い……か。バフトットの奴もそんなことを言っていたな。


「魔法使いって珍しいのか?」

「勿論でございます。本当に一握りの人にしか魔法は使えないといいます。それに魔法というものは、火をおこしたり風を吹かせたりと、自然の力を借りて奇跡を起こすもの。このように離れた場所を繋ぐ魔法など聞いたことがありません」


 魔法自体は無いこともないが、空間を繋ぐのは珍しいのか。それじゃあやっぱり、この能力は隠していかないとまずいな。


「この魔法は今のところお前達の前でしか使ったことがない。これに関わるすべての事柄について、他人に気づかれないよう気をつけてくれ」

「勿論でございます。ご主人様。あの……」

「ん?」


 リースが正面に向き直り、かしこまった様子で頭を下げてきた。


「至らない点も多いかと思いますが、精一杯仕えさせていただきます。ロルともども、どうかよろしくお願いいたします」

「よ、よろしくお願いいたします」


 姉が頭を下げているのを見て、遊んでいたロルも慌てて寄ってきて頭を下げた。


「あぁ。よろしくな」

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